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第二幕 輪廻の愛は漆黒に染まる

今回も輪廻視点です。

私はお兄ちゃんを愛してる。

堪らなく愛している。無限なんて、プアーな表現ではその極分の一も現わせない程に愛している。

お兄ちゃんの顔も身体も思想も哲学も意志も行動も精神も仕種も長所も短所も全てを愛している。長所だけを、キレイなところだけを愛する愛など、私は愛とは認めない。お兄ちゃんの汚いところも愛せるし、汚いなんて言わせない。言う者は、全て捩じ伏せて見せる。


お兄ちゃんが望むなら、私は全てを差しだそう。私自身は勿論、何もかもを献上しよう。どんな御奉仕でもするし、どんな望みだって叶えよう。


元々、神獣である私に倫理観など無い。その基準はお兄ちゃんだ。お兄ちゃんが善。お兄ちゃんの敵が悪。其れが絶対だ。

だから。



「お前は悪ね」


「あぶぁああああああああ!!!」



そう言って、私は目の前の薄汚れた塵芥ゴミの顔に蹴りを入れた。

同時に右足の甲で、塵芥ゴミの両頬に只管に蹴りを入れまくる。只管に蹴る。要するに、足でビンタしている感じだ。左右から集中豪雨のように、私の蹴りが降り注いでいく。

因みに、此処は土足厳禁なので、素足だ。

私以外は視認することなど不可能な、超高速の蹴り。スピードと、此の塵芥ゴミの首を消滅させない程度の低威力を両立させるのが、結構メンドウだ。一発入るごとに、鞭で打つかのような音が塵芥ゴミの頬を鳴らし、千切れそうになるほど首がねじれる。

周囲に血が飛び散り、折れた歯が転がり、塵芥ゴミの背中に生えている白い翼が、衝撃で千切れて三文芝居で使われるような適当に作った粉雪のように舞っている。

そして、一秒とかからぬままに、塵芥ゴミの顔は白から赤、赤から紫、紫から青へと変わり、顔を構成する頬やら唇やら瞼やらが腫れあがり、醜く膨れ上がっていく。


たちまち歪なミートボールの様な顔面になっていく塵芥ゴミを見ながら、私はふぅ、とため息をつく。

左足一本で立ちながら、氷のように冷たい声で囁いた。……聞こえているかどうかなんてどうでもいいけど。



「喜びなさい。お兄ちゃん専用である私の美脚を、お前如きが味わえるのよ」



こう見えても、私は足が長い。背は其れほど高い程じゃあないけれど、そこそこ足は長い方だ。

何しろ、お兄ちゃんのために磨き上げているのだから。すべすべだし、輝く程白いし、何時だってお兄ちゃんに捧げられる。

私は現状の美しさで妥協しないが、別に自分が醜いとは思っていない。勿論、私の心はお兄ちゃんに跪き、許しを請うことしかできない狐だが、身体はまぁ、お兄ちゃんも褒めてくれたし、そこそこイケると思っている。


……そのそこそこ自慢の美脚が、今はこのざまだ。

塵芥ゴミの吐き散らした血で、すっかり赤く染まっている。いや、こんな塵芥ゴミに触れた時点で、酷く汚れてしまっている。あとでしっかりと洗わなければ、お兄ちゃんの視界に入れることなどままならない。


少しずつ威力とスピードをあげながら、超高速足往復ビンタを続ける。死なないように調整するのがメンドウだ。少しでも気を抜くと、首を飛ばしてしまう。


三分ほどたち、私は足ビンタを止めた。同時に、まるで熟れたトマトを落としたかのように、グチャリと倒れる塵芥ゴミ拷問室・・・――――間違えた、接客室の純白の床に血が飛び散り、広がっていく。

その唾棄すべき物体に、私は冷たい視線と共に凍りつくような口調で言葉を投げかけた。



「立ちなさい、身体はまだ無事でしょう?」



そう、私は目の前にいる塵芥ゴミの身体には、キック一発入れていない。内臓も骨も筋肉も全部無事だ。

……つまり、まだまだだ。大体此の程度で、コイツの犯した罪が消えてなるものか。


私は尻尾のうち一本で、塵芥ゴミの胸ぐらをつかんで宙に浮かせる。そして、ミートボールとなった塵芥ゴミの顔にビンタを放った。

首が千切れかける程のビンタであり、口(らしきもの)から大量の血を撒き散らした。もう、何処が口で何処が目だがもわからない。分かる必要もないが。



「――――で? さっき貴方、何て言った? “創造神アリスがお兄ちゃんを呼んでいるからこい”とか言ってなかったかしら?

……私の聞き間違いかな?……答えろ!!!」



返す手で、つまり右手の甲でビンタを放つ。尻尾でつかんでいるため、ふき飛ばすようなことにはならない。

常にコイツに触れているなどおぞましいことこの上ないが、イチイチ吹き飛ばしては回収するのもメンドウだ。



「ぐ……う……あ……」


「あ? 喋れないの?……仕方がないなぁ」



私は標的を、塵芥ゴミの顔から身体へと変える。



「言え」



低い声で呟きながら、私は膝蹴りを喰らわした。身体に穴を開けない程度の、ギリギリまで手加減した蹴りだ。

みぞおちに食い込んだ蹴りが効いたのか、塵芥ゴミはさらに血を吐こうとしたが……此の位置は駄目だ。

すかさず、青く変色したミートボールに回し蹴りを喰らわした。同時に、尻尾を離す。

御蔭で、塵芥ゴミは遠くまで吹き飛んだ。そして、其処で大量に血を吐いた。



「――――ッチ。塵芥ゴミの分際で私の身体に血を吐こうなんて、百億年はやいってのに……」



私は尻尾を伸ばし、塵芥ゴミの胸ぐらをつかみながら引き戻させる。

先程から手持ち無沙汰だった左手は、ずっと私の髪を弄くっていた。此れは、癖みたいなものだ。みたいというか、癖だ。


小声でぼそぼそ呻いている塵芥ゴミを見て、私は少し、ちょっとばかり腹が立った。



「――――――さっさと言えって言ってるんだろうが!!!!」



怒鳴ると同時に、殺気を放つ。



「ヒ、ア、フ……ひいまふ……たひかに……そう、ひいまひた……」


「……そう」



私は微笑んだ。

そう、最初から、そう言ってくれていればいいのだ。

正確には、つい先刻、私たちのいる“世界”に来た創造神の使いである此の天使は、こう言った。



「創造神様が夜白やしろ 刹那せつな様に御依頼があるとのことなので、至急“原点オリジン”に参上願いします」



その言葉に、私はカチンときた。

お兄ちゃんがいなくて良かった。たまたまお風呂に行っていたお兄ちゃんに、私は心の中で感謝の意を込めて、平伏した。


私はお兄ちゃんの前では、余程の事がない限りは塵芥ゴミを拷問しない。お兄ちゃんに万が一にも、汚らしい血をかけるわけにはいかないし、そもそも塵芥ゴミと同じ空間に、お兄ちゃんがいるなんて耐えられない。

勿論、お兄ちゃんが拷問を見たいと言えば、私は幾らでもお兄ちゃんの前で、リクエストに応えるだろう。でも、お兄ちゃんがそんな頼みをしないことくらい、私は知っている。






「――――巫山戯ふざけるな!!!!!」



私は怒鳴った。そして、怒りが籠った瞳で塵芥ゴミを見つめる。



「創造神風情が!! お兄ちゃんを呼び出すなんて……巫山戯るのもいい加減にしろ!!!」



できるだけ丁寧な言葉遣いで、目の前のミートボールに怒鳴る。

懐かしい、私が初めてお兄ちゃんに手を出されてキレたあと、お兄ちゃんがこう言ったのだ。「傷付けてはいけない、汚い言葉を吐いてはいけない」と。

流石に傷付けてはいけないは私も納得できず、お兄ちゃんに納得してもらうまで、頼みこむことになる。私にとって、お兄ちゃんを傷付け、侮辱した奴を生かしておくなど、耐えられないことだから。

でも、汚い言葉を吐いてはいけないは、なるべく遵守している。其れが、お兄ちゃんの命令だからだ。


私は目の前の塵芥ゴミに蹴りの嵐を放った。

胸を、腹を、足を、手を、腕を、こめかみを、顎を、顔面を、ぐしゃぐしゃになるまで蹴り続ける。私にしか目に追えない、超高速のキックのラッシュ。本気の一〇〇〇極分の一も出していないが、それでも、たかが天使風情を痛めつけるには十分だった。


絶対に倒れさせない。休む暇など、与えてやるものか。


私の一撃を浴びる度に、耳障りな音を立てて不格好なダンスを踊る塵芥ゴミ。撒き散らされていく臭い血。

そして、此の程度の、あまりに弱い存在が、お兄ちゃんを分不相応にも侮辱したという事実。



「……見苦しい」



鞭のようにしなり、塵芥ゴミの身体を白いローブごと抉る私の蹴り。どれ程蹴っても、私の胸でグツグツと煮えたぎるマグマには、一滴の水滴を垂らした程度の意味も持たない。


コイツ、そして創造神の行為は、お兄ちゃんが創造神如きの下にあるということを意味している。其れは、お兄ちゃんへの決して許されない侮辱だ。

そう思うと、怒りが無限に沸いてくる。


ドグシャ、と派手な音があがる。



「……あ」



いつの間にか、其れは只の肉塊となっていた。生きてはいるが、もう虫の息だ。



「んー……殺すのは、止めておこうかな」



本当は一〇〇〇兆回は嬲り殺しにしてやりたいところだけど、コイツは唯の伝令役。殺すべきは、創造神アリスだ。

もっとも、アレは殺すと少々メンドウなことになるし、お兄ちゃんからも直々に釘を刺されている。



「……仕方がない、か」



私は軽く頭を振って、怒りを大きく飲み込んだ。深呼吸して、目の前の天使に最低限の回復術をかけて、蹴り起こす。



「……いい? 愚鈍な貴方に分かるようゆっくりと言ってあげる。

創造神に伝えといて。“用があるなら其方から来い。あと、今回の事は覚えておく”。以上」


「あ……しかし……創造神様は、“原点オリジン”からは…………」



喋れるものの、相変わらずミートボールのような顔の天使はそう言ったが、そんなの知ったことじゃあない。



「其れを何とかするのが、神の補佐たる天使あなたたちの仕事でしょう。其れに、創造神あのクズは引き籠りなだけじゃない」



それとも、もっと分かりやすいように叩き込んであげようか?

そう言いながら、私は指を鳴らして天使を見下ろす。

……あぁ、やっぱり、駄目だ。

お兄ちゃん以外に向けて、優しい表情なんてできるわけがない。煌月こうづきが言うには、私はお兄ちゃんが傍にいないと、大抵つまらなそうな顔か見た者を凍りつかせるような顔をしているらしい。


転がるように天使が出ていったのを見送って、私はふぅ、と息を吐いた。

さて、お風呂に入って、お兄ちゃんの元に向かおう。






「戻ってきましたか」



お兄ちゃんの部屋に行くと、寝ているお兄ちゃんと傍に控えている煌月がいた。



「――――あぁ、いたんだ」


「刹那様を御一人にするわけにもいきませんので」



流石に、スピードだけなら私にも勝る麒麟キリンの白銀種たる煌月だ。もっとも、私にとって多少のスピードの遅さは問題にならないが。


煌月は相変わらずの無表情だ。瞬きしていなければ、マネキンだと思われてもおかしくはない。其れほど無表情で、機械的な立ち振舞い。


……正直、煌月の感情はお兄ちゃんが一番よくわかる。私は二番目だ。煌月は大切な仲間パートナーであるが、恋敵ライバルでもある。殺意が芽生えたことなど、数えるのも阿呆らしいくらいある。


今もそうだ。お兄ちゃんの寝顔を堪能できるなんて。心の中で、小さい私が血涙を流しながら、煌月の写真にパンチを喰らわしている。現在進行形で。


……あ、お兄ちゃんが寝返りうった。物凄く可愛い。


もっとも、今は創造神あのクズへの怒りの方が強いので、私は特に文句も言わず、煌月の反対側のポジション、すなわちお兄ちゃんが寝ているベッドの左隣に立ち、お兄ちゃんを見下ろした。


……微かに、お兄ちゃんから煌月の香りがする。どうせ私がドアを開ける直前まで、お兄ちゃんに抱きついていたに違いない。

…………ったく、エロ麒麟が。私だって、お兄ちゃんに抱きついてキスして顔中を舐めてあげたいのに。



「……ねぇ、煌月。創造神アリス、やはり殺しとく?」


「刹那様の御命令に反します」



にべもなく即答された。いや、同じことを言われたら、私だってそう答える。

私はあくまで、お兄ちゃんの命令に従うだけで良い――――とは言わない。勿論命令を破るなどとんでもないが、やっぱり私にだって個々の思想と言うか、プライドがある。

お兄ちゃんの妹としてのプライドとか、お兄ちゃんのペットとしてのプライドとか。




「あの卑怯な女はお兄ちゃんと面識を持ったから……。優しいお兄ちゃんは、一度知り合いになった者を殺すのを嫌う。……たとえ、相手が裏切っても、お兄ちゃんを殺そうとしても」


「其れが、刹那様の刹那様たる所以でしょう」



まぁ、そうだけれども。

私はお兄ちゃんの妹であり、奴隷であり、ペットであり、愛玩物であり、道具であり、お兄ちゃんの足元に跪いて、お兄ちゃんの御慈悲を受け取ることしかできない存在なのだから。

お兄ちゃんがその優しさを私にくれるのなら、涙を流して其れを貰い受ければイイ。くれないなら、所詮はそんな価値もない、役立たずの奴隷だったというだけの話だ。


……唯、お兄ちゃんを傷付けたり侮辱したりする塵芥ゴミの分際で、お兄ちゃんの優しさに縋りつく連中を見ていると、正直気が狂いそうになる。

何度、お兄ちゃんに言おうと思ったか。「お兄ちゃんの優しさは、そんなに安いモノじゃあない」って。「塵芥ゴミが享受できる程、低俗なモノじゃあない」って。

でも、我慢した。その代わり、基本的にそいつらは始末したが。


お兄ちゃんが世界で一番優しい存在ならば、私が世界一残酷で無慈悲な存在となり、お兄ちゃんができないことをやるまでだ。たとえそれがお兄ちゃんの意志に反していようとも、お兄ちゃんを護るためなら、何でもしよう。



「其れに、創造神を殺せば世界の安定が乱れ、刹那様に御負担がかかるかもしれません。私たちが世界を滅ぼせば済む話ですが、刹那様は其れを望みません」



そう、それが、私たちが創造神アリスを殺さない理由。

時に憎々しくなる程合理的なのが、煌月だ。

まぁ、そういう合理的ドライな考え方が、嫌いなわけじゃあない。どっちにしたって、煌月だってお兄ちゃん絶対主義者なのだから、最終的には「お兄ちゃん万歳」に辿り着くわけだし。


……それにしても、創造神アリスはお兄ちゃんに何をやらせるつもりなのやら。

……碌でもないことならば、あの幼女も拷問しよう。

時間を止めて、一万年分ほど。






次話は煌月視点でお送りする予定です。


御意見御感想宜しくお願いします。

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