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プロローグ

帰ってきました狐と兄シリーズです。本作はオリジナル(一次創作)でやっていきます。

漆黒の世界に、ぼんやりと光が灯っていた。


それは、黄金色に光り輝く透明な水。然程広くない、ごつごつした岩場に囲まれた窪みに、その水は溜まっていた。


そして、その中で水より白い光を放っているのは――――私の、肌。


チャプ。


そんな音とと共に、私は湯船から上半身を出し、白磁の輝きを放つ自身の身体に、水を掬い、かける。

何度もかける。肌に練り込ませるように。


しっとりと濡れた、自身の膝裏まである鴉の濡れ羽色の、此の闇よりも闇を吸ったように黒い髪が、私の身体に張り付く。

白い肌と黒い髪のコントラスト。


そこには、完璧と言っていい(結構自信がある)プロポーションの、メリハリある自分の身体がある。



――――妥協するなんて、阿呆らしい。



心の中で、舌を打つ。

私の中の“あの人”への愛は、決してとどまらない。幾らでも溢れ、身体と心を満たしていく。

だからこそ、あの人専用の此の身体も、此の程度で妥協するなどとんでもない。常に磨き続け、より進化を遂げなくてはいけない。


最高級の羽毛布団など、比較にもならない程ふんわりしていて、艶やかで温かい、闇を切り取ったような漆黒に染まった九本の尻尾に、同色の狐のような獣耳も、丁寧に洗う。……私やあの人にしか見えないのだけれど。



「……はぁ……お兄ちゃん」



その名を言うだけで、身体が痺れ、心が震える。あまりにも愛おしく、狂わしい程に愛している人。



「好き……」



億の言葉を並べても、あの人への愛の一分も現わせきれない。

湿っぽい吐息を吐いて、私は顔を顰める。



「……やっぱり、足りないわね」



恨めし気に、身体を見下ろす。

白く輝く、シミ一つない此の身体。

お兄ちゃんへの愛で、常に強く、美しくなっていくこの身体。

半日前の私とは、比較にならないくらい。一日前の私とは、比べるのも莫迦らしくなるくらい。

強く、美しく、お兄ちゃんに愛されるような身体へ。


……やはり、此の程度では不足だった。分かりきっていたことを再確認しただけの行為は、大いに無駄だ。

こんなことなら、お兄ちゃんの事を考えている方が京倍は有意義だろう。時間は有限だ。無限を生きる私たちやお兄ちゃんと雖も、時間を無駄にしてもよい理由にはならない。

お兄ちゃんと共に過ごす時間は、私にとっては比類なき貴重な時間だ。

……其れを無駄にしてまで、得た結果がコレか。


馬鹿馬鹿しくなり、湯の中に身体を沈める。

顎のすぐ下まで湯に浸からせ、ふぅ、と息を吐く。


まぁ、少しは美しさに磨きがかかっただろう。塵も積もれば山となる。少しでも綺麗になれれば、十分僥倖だ。

……そのために、態々お兄ちゃんと過ごす時間を一分も減らして、此の伝説の秘湯を探したのだから。

探して、邪魔なモノを消して、湯に入って。

幸い、此処・・はお兄ちゃんがいる世界とは時間の流れが違うから、態々時を止める必要もなくなった。欠伸が出るほど簡単だが、アレは時折、世界に不具合を与えるから、あまり多用したくない。

間違っても、お兄ちゃんの負担になる可能性がある行為は、可能な限り自重すべきだ。


長居しても変わらない、と結論し、私は湯からあがる。身体を乾かし、何時ものように漆黒のロングドレスを着込んで、臭い血の匂いが残ったままの、洞窟の中を無意味に歩く。



「――――煌月こうづき、抜け駆けしていないわよね?」



虚空に向けて呟く。無論、返事は来ない。

まぁ、あの麒麟キリンは私と違って、お兄ちゃんへの溢れる愛を放出せず、ため込むタイプだ。お兄ちゃんが積極的に甘やかしでもしない限りは……しそうだなぁ、お兄ちゃん、優しいし。

万年発情期の獣相手に、情を見せるかもしれない。まぁ、私も他人の事は言えないが。



「おっと」



忘れてた。

“見知らぬ相手にも礼儀を払え”。お兄ちゃんが私に行ったことだ。お兄ちゃんの言うことは絶対。私はあの人の言いつけを、破ったことなど……少しくらいしかない。ちゃんと、懺悔として自分を殺した。一極回程。



「お湯を頂き、ありがとうございました」



私はゴツゴツした岩が剥き出しの壁やら地面やらそこら中に張り付いた、物言わぬ汚らわしい肉片とおぞましい鮮血……一体、何万匹分あるかは知らないが……に向け、深々と頭を下げる。

そして背をむき、スキップしながら進みだした。


うん。やっぱり、お兄ちゃんの言いつけを守るのは、気分が良い。薄汚れた塵芥ゴミ共に視姦され、触れられそうになった不快感など、今ではすっかり消えていた。鼻唄を歌いだしそうなほど、気分が高揚しているのが分かる。


洞窟の守護神だのなんだのは知らないが、あんな雑魚の群れ、殺すのに一秒もかからない。それに、別に私は殺すのが大好きな狂人でもない。罪のない相手を殺す程、無差別でもない。

唯、お兄ちゃん専用である私を見た罰を与えただけだ。此れがお兄ちゃんに近付こうとした塵芥ゴミなら、もっとたっぷり拷問して殺してやるところだが……。



「お兄ちゃん、今、行くからね」



私はお兄ちゃんへと続く道を駆ける。

私の名前は夜白やしろ 輪廻りんね夜白やしろ 刹那せつなお兄ちゃんのために、全てを捧げ、全てを愛する者。唯、其れだけの存在だ。






「……あ、其処に居たんだ、煌月」


「わかっていたことでしょう」



お兄ちゃんの元へ向かう最中、煌月に逢った。

夜白やしろ 煌月こうづき

最高位神獣の“天狐てんこ”である私に次ぐ、準最高位神獣の一角、“麒麟キリン”の白銀種である美女だ。

まるで、私と対をなすかのように、白いような薄い水色のストレートの髪(長さはセミロングくらい)。私と同等か、それ以上に白い肌。私よりスタイルのある身体にピッチリ張り付いた、黒を基調とした執事服。そして、二メートル近くある長身。


最後に、彼女の最大の特徴である水色の瞳と、微動だにしない、清々しい程の無表情。


煌月は長い脚を組み、壁に寄り掛かっていた。

周囲には、焼き焦げた肉片が散らばり、壁や天井には血が張り付いていた。



「増援が来ていましたよ」


「知ってる」



そう返すと、煌月は無表情を僅かに上下させた。如何やら頷いたらしい。



「秘湯、入ってみる?」


「頂きましょう」



軽い挨拶を済ませ、煌月とすれ違う。

さて、もうのんびり歩くのも飽きてきた。

一刻も早く、お兄ちゃんの元に行きたい。


私はトン、と飛び上がり、お兄ちゃんがいる場所へと向かった。






「お、輪廻、お風呂にでも入ったのか?」


「えへ、わかるかな、お兄ちゃん? ちょっと……ね」



さぁ、ほんの少し綺麗になった身体を、お兄ちゃんに捧げよう。






暫くは、輪廻と刹那と煌月の三人だけで、書いていきたいと思っています。


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