第8話
昨日といい、今日といい、ユウタのオレを見る目つきが変だ。一昨日の夜だって、寝るまでしつこく追及してきやがって・・・本当に何も無いんだから、仕方ないべ!
今日は、ハルキさんと待ち合わせの日。
朝からソワソワ落ち着かないのは、自分でもよーーくわかってる。わかってるから、尚更、不自然になってしまい・・・がぜん、ユウタの監視の目も厳しい訳で。
「ぜーったい、変。オマエ、絶対、何か隠してるしー。」
「はぁ?いっつも一緒にいんのに、どうやって隠し事作れる訳?」
考え込む馬鹿がココにいる。勝手に無い脳みそで考えてろ、静かで丁度イイや。今のうちに、英語の宿題のノート写しとこーと。
「わかった!トモ、オマエ、女が出来たべ?」
「出来てない。」
あんまり単純な発想なんて、キッパリ断言したコッチも気持ちいい。ほんと、こいつのカラッポの頭には何が詰まってんだか・・・単純過ぎて、逆に羨ましくなる。それに比べて、このオレはどうだ?いっつも余計な事ばっか思い巡らして、結局、タイミングを逃す。
イイ事を思いついた時の・・・大概悪い事なんだけど、ニヤリとした笑みを満面に浮かべ、ワザとらしく小声で耳打ちした。
「トモ、好きなヤツが出来たんだろ・・・女じゃなくて、男だ!」
「ば、馬鹿、何言ってんの!!」
してやったりと言うように、得意げなその顔は何なんだよ!
ムカつくー。
ユウタは、オレの性格を誰よりも熟知しているし、オレもユウタの事は、ユウタ自身よりも知っている。
最悪だ、コイツ・・・
「なるほどねー、アイツかぁ。なるほどーぉ。」
「勝手に解決しないでくれる、そんなじゃないんだから。」
「自分から認めてるー。」
「・・・・チェ」
自爆。
自分でもワケわかんないのに、ユウタに決め付けられてヤな感じだ。
ただ、また逢いたいだけ。放っておけない、そんな気がして・・・公園でずーーっと雨宿りしてたとき、寂しそうな瞳が見えたから。
「オレも認めてやるよ、アイツがカッコイイってことは。でも、童貞は女に捧げろよな、男ってのはヤバイべ。」
「なんで、ソッチの話になってんだよ。」
くっそー、自分が先に捨てたからってエラそうに、腐れチン!レナ先輩に、殆ど犯されて喪失したんじゃなかった?泣きながらオレの布団に潜り込んで来たのは、誰だっけなー。
「実は、今日会う約束してんだ、ウチの店で。」
「まじ?もーヤル覚悟なんだ!」
ほんと、馬鹿!
ユウタの頭の中って、女とHでグルグル回ってんだろうな。今の彼女、付き合って1週間だけど、すでに頂いてんのか?あー、オレの頭の中もグルグルしてきた。
「なートモ、アイツ、マジヤバクね?」
「なんで?」
へー、珍しい事を言ったもんだ。
変な大人の毒牙にかかりそうな親友を、少しでも心配してるわけか?
「だって、目がイッってね?」
「イッてないよ。ハルキさんは、イイ人だって思う。」
ユウタだって、本心でそう言ってるわけじゃない。得体の知れない男に、用心深くなっているだけだ。そうだ、意外にユウタは人見知りをするタチだから。
「ふーん。」
そう返事をしたヤツの視線は、廊下を通る女の子に向けられている。
特にスカートの裾の方かな・・・ぁああ、早く視線を外した方がいいぞ、ユウタ・・・
「ユーくん、どこ見てるの?」
「あ、サキちゃぁ〜ん、あと少しで一緒に帰れるねー。」
「もー、他の女の子見てたぁ!」
「見てないって!な、トモ!!」
「見てたぁ、絶対、見てたもん!!」
「オレがサキちゃん以外の女に興味があるって思う?」
「でも、絶対、見てたもん!!」
背後に迫っていた、今カノの存在に気が付きもせず、鼻の下伸ばしきってんだから、たいしたもんだよ。ハイハイ、勝手に痴話喧嘩でも何でもして下さい。
「先生、来ちゃったから、サキちゃん、クラスに戻って。」
「いい、帰りは一緒に帰るのよ!」
こわーーーーーぃ、女ってどうしてこんなに独占欲が強いんだか。 男がすこしでも他の女に興味を示そうモンなら、嫉妬心に支配されちゃって。あんなに可愛い顔なのに、一瞬にして般若だ。
オレは、これ以上の修羅場な状況を何度も見せ付けられてるからかな、付き合いたいとか、今すぐ女がほしいーとか思わなくなってる。でも、憧れてもいるんだけど。
放課後、ユウタは、約束通り素早く彼女に連れ去られた。
オレは何の気兼ねも無く、店に行くことが出来る。けど、店が近くなるにつれ、変な緊張感に包まれていった。
鼓動が他の人にも聞こえるんじゃないかって、胸を押さえたりして。
もし、来なかったら?まだ、4時前だもん・・・来てるはず無いけど。
さっきまで足早に歩いていたはずなのに、銀行の角を曲がった途端、自分の両脚は、まるで鉛のように重く、
思ったように、つま先が前に出なくなってしまった。
緊張でコメカミが痙攣する。
「・・・ぁ。」
今、目の前で、店の中に入っていった男性客。
間違えなく、ハルキさんだ!
来たんだ!
歩道に埋まっていきそうな勢いだった脚なのに、それが、あっという間に横断歩道を渡ってしまっていた。
「ハルキさん!」
レジ前にスっと立ったハルキさんの姿に、オレの胸が高鳴る。
ゆっくりとコッチに振り向いた横顔は、一昨日の泥酔した男じゃない。優雅な空気を身にまとった貴族のようで・・・まったく知らない人のよう。
少し怖いくらいだ。
「やぁ。」
でも、微笑んだその瞳は、暖かな優しい色をたたえ、ただオレのことを、迎え入れてくれていた。
息が詰まってしまうくらい、ドキドキと胸が締め付けられる。
一体、どうしてしまったんだろう。わかってる、わかってるさ、ハルキさん・・・スゴク素敵なんだ。
「知り合い?」
タイミングの悪い間の抜けたパパの声がオレに向けられても、なんだか金縛りにあったように身動きが出来ないまま、オレは頷いただけ。
また、逢えた!約束通り、来てくれた!
それだけで、胸が一杯になって・・・今にもオレは、泣き出しそうになっていた。