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第7話

 目が覚めると、いつもと変わらない気だるい自分に戻っていた。

瞬間の、妙にくすぐったい気持ちは2度と戻っては来ない。つかの間の夢かな・・・それとも、何かの仕業?神様なんて信じちゃいないけど、頑張って生きてるオレへのご褒美かもしれない。んー、そんなに頑張ってるか?何かの気まぐれみたいなもんだな、きっと。


 アレから外に出てすぐ、真っ先に思い付いた友だちに連絡してみた。そして運良くその家に転がり込むことが出来たオレは、やっぱりラッキー。知り合いの中で一番安全かつ、一番住み心地のイイ、人の暮らせる部屋へ。ばらく厄介になれたらイイんだけどねぇ・・・今現在フリーなら置いてもらえるはず。


 イイ香りのする布団の中で、グダグダになってる身体を伸ばす。ふかふかの布団、清潔なカバー、イイ香り付き。あー、なんか、健康に生きたい・・・とか無駄に思っちゃうワケ。

 少し前から、シャワーの音が、聞こえていた。さっき起きる気配がしてたもんな・・学校か?それとも、バイトかな?まだ7時半、オレにとっては早朝だし、もう一眠りしたい。そう思って寝返りをした、その時。


「ハルキ、オレ、学校行くからね。カギ、テーブルに置いとくからさぁ。

オマエ、しばらく居るつもりなんでしょ?」

「いいの?」


ミナミのそのありがたいお言葉に、ガバっと布団をはねのけた。

きちんと片付いている部屋の中央に、バスタオル1枚という本来なら悩ましい姿で。彼女はニヤニヤっと笑って、大きく頷いた。肩にかかった濡れた髪の滴を、丁寧にタオルで拭きながら。


「今ならOK。まぁ、別れたの1週間前だけどさぁ。とりあえず、ハルキが女とどうにかなるまでは、居てもいいよ。 オレも、一人じゃ寂しい時もあるから、男でも居ないよりはマシ。」

「マジ?助かるー。」


ミナミさまさま。持つべきものは、一人暮らしのマットーな生活してる友だちかも。

でも・・・


「お、おまえ、それヤメロよ!!」


くしくもオレは、れっきとした男なわけだ!オマエの羞恥心の無さっていうか・・・まぁ、ある意味仕方ないんだけど・・・オマエがいくら同性を主張したって、なにしたって、とにかく今は、目をそらすしかオレのとるべき術は無い。


「あははは!おもしろーぃ。」


しょーがねーヤツ!ダレカレ、見せ付けるわけじゃないんだろーけど、マジやべーだろ、その格好・・・男の前で、真っ裸になるな!!オレの存在を思いっきり無視して、裸体で歩き回っている。


「ミナミー、いくら中身が男でも、身体は女なんだからな。フツーの男なら、襲ってもいいですか?ってなるってば。」

「そう?ココ、自分のウチだし。」


始末悪ぃー!

身体は極上の女で、中身が最低な男ぶってんだもん。いや、精神、脳みそは男なワケであるから・・・ややこしい。理解が無いってワケじゃないけど、やっぱり理解に苦しむ事もある。


「別にオレは、この身体がキライじゃないよ、そんな悪くないし。それに、これから使い方によっては、上手く生きていける訳じゃん。だから、お手入れもしてるし、大切にもしてるし。」

「ハイハイ、わかりました。いいから、早く着替えてよ!」


コレだよー、ここは安全で居心地いいけど・・・すっかり忘れてたさぁー、ミナミの中身が男だってこと。

オレ自身が混乱してるし。ミナミから誘ってくることは、まず100%ありえないけれど、オレがその肢体の誘惑を否定し続ける努力は、相当なもんだろ。


「ハルキー、今、仕事してんの?」

「んー、銀行の裏手にショットバーあるだろ、そこ。そろそろ3ヶ月目。昼と夜逆転してんだよなー。」


ああ、といった感じでヤツはカガミ越しに頷いた。カガミの中は、女子大生の姿。絶対、モテててるハズなんだ。性格も悪くないし。


「学校行く時は化粧してんだ。」

「そーよ、可愛い方が女の子が寄ってくるの。」


マスカラを丁寧に塗る後姿に、目が引き寄せられた。オレの彼女だって同じことするのに、妙に鮮明な感覚。


「男も寄ってくるだろ?」

「まー、オイシイとこだけ頂いてますから♪」


オイシイとこだけって・・・どんな所だよ。正直、オレから見た感想は・・・マジ可愛い。オレの視線に気づいてか、ヤツの頬が少し染まった気がする。


「ねぇ、ハルキ、大学戻ったら?」

「そんな気ありませぇーーーん。」


冗談めかして言ったけれど、本心。

去年から休学中の大学に、今更、未練は無い。そもそも、大学に行った理由さえも不純なんだから。そうだ・・・何かがしたくて入ったわけでもないし、期待に応えただけの話。ただし、そんな期待に一生応えてやれるほど、オレは優秀じゃない。


「じゃ、行くワ。あとは、適当にやってて。」

「了解、いってらぁ〜」


細いストライプのワンピの上に、オフホワイトのカーデを肩に掛けたシンプルな姿は、あまたの男ばかりでなく、多くの人の目を引くに違いない。オレたちが良く遊んでいた頃・・・ミナミが大学に入る前までの、少年のような姿はそこには見当たらない。


ミナミは、爽やかな微笑みを浮かべ、手を振って出て行った。

主が居なくなった部屋は、急に元気なく静まりかえった気がした。起き出す気力も無く、ふかふかの布団に包まって目を閉じる。もう一眠り・・・瞼は重く、勝手に視界をふさいでしまった。


真っ暗になった頭の中に、僅かな灯りがともった。少年の話し声が、微かに聞こえる。

何?何て?『あえてよかった』・・・オレも逢えて良かったよ。

何故だろう、何 がそうさせるのかな・・・キミのその初々しい若さに、嫉妬している自分がいるから?


自問自答を繰り返しているうちに、眠りの闇に落ちていた。

思い出すんだ、胸の中に暖かいものが流れている感覚。

何故だか、キミと話していると、胸の奥の方に感じるんだ。


ずっと昔の、チクチクとした疼きを。


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