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第6話

カミナリはゴロゴロいいながら、あっという間に遠ざかって行った。

小雨になった空は、まるでオレの気持ちを表しているように感じる。

ショボイ。


停電はスグに復旧してしまった。

5分もしないうちに。

ツマンナイ。

ハルキさんは、やっぱり帰ると言うし、

泊まるはずの、ユウタも帰るって。


ありえねーシィチュエーションで出会って

なんか感じてるのって、オレだけかな?

チラリと、その横顔を盗み見る。


「トモくん、悪かったね。」

「いえ・・・」


イカナイデヨ。

何でこんな気持ちになってんのかな、変だ。

初対面の人間なんだけど、妙な親近感。

雨宿り効果?


『オレ、一人でいられない。』なんて、絶対、言えない状況。

わかってんだろオレのこと、ユウタ!


「どうした、トモ?」

「別に。」


馬鹿っ顔下げて、ニヤニヤしながら覗き込むなって!

もー、さっさと帰れー行っちまえーこの薄情者!!


「アレー、何か怒ってる?もしかして、オレらが帰るからとか??」

「ちげーーーよ!」


わざとらしいヤツ。

知ってるクセに!


「もしかして、寂しいとか?ひとりで寝れないとか??」

「違うって言ってんだろー、しつこいぞユウタ。」


あー、もー、頭くる、コイツ!

わかってんなら、泊まってけっての。

いじめか?これ。


ユウタは、小さな声でオレに耳打ちした。


『わりー、オレ、女との約束忘れてたんだー

 9時に塾終わるから、迎えに行かなきゃなんねー』


コレかよ・・・ユウタ、お前はそーゆーとこだけマメなのね。

いいさ、親友より女だよな。

オレが寂しくて死んでも、お前は女とイチャつけるやつだよな。


「じゃぁなー。」

「ああ、彼女にヨロシクー。」


ダハハ、とニヤけっぱなしのその緩んだ顔が、

激しくお前の馬鹿っぽさを強調してるぞ。

真面目な顔してればいい男なのにさぁ。

女が絡むとコレだもんな。


「じゃ、ハルキさんも気をつけて、サヨナラー。」

「ありがとう、ユウタくん。」


ユウタは、時間を気にしながら

バタバタと騒々しく帰っていった。

あ、そうか、ハルキさんも帰るんだった・・・玄関まで見送ろう。


「あいつ、彼女と待ち合わせしてるの忘れてたみたいで。」

「だから慌ててたんだ、トモくん、彼女は?」


オレにそれを聞かないでくれる!

恨めしい。


「いないですから。」

「アハハ、ごめん。」


笑ってるし。

そりゃ、オレだって彼女くらい欲しい・・・

けど!

ユウタと一緒に居たら、誰だって・・・

見劣りするっての。


「トモくん、今日は本当にありがとう、助かったよ。

 その・・・色々迷惑も掛けたみたいだし・・・。」


ハルキさんは、意外にも頬を赤らめた。

恥ずかしそう視線をそらして言う。


「迷惑って?」

「・・・あ、だから、その・・・風呂に入れてもらったり、洗濯してもらったり。

 実は、ヤな事あってさ、朝から飲んでて、このザマで・・・申し訳ない。」


あ・・・その事か・・・そうだった。

一緒に・・・お風呂入ったんだ。

なんかテンパってて、そんなこと考えもしなかった・・・のに。

オレまで、恥ずかしくなちゃったよー。


「顔、真っ赤だよ、トモくん。」

「スミマセン。」


クスクス笑いながら、ハルキさんがスグそばに立つ。

その薄い手が、オレの頭の上に優しく置かれた。

ドキン。

心臓が、一つ、大きく鼓動する。


「キミ、本当、いい子だね。」

「そ、そんな・・・」


子供扱いされたみたいだ。

傷つく。

「いい子」だなんて。


「んー、いい子ってのは子供扱いだよな・・・んー、でも、やっぱり、いい子だ。」


オレの視線に気が付いてか、言い直そうとするんだけど

全然、上手なフォローになりませんから。

頭の上の手が下に降りた瞬間、寂しさが増す。


「それって、褒めてます?」

「褒めてる、褒めてる!」


そう言いながら、

テーブルに置いてあった酒の入った携帯ボトルを手に取ると、

無造作に後ろポケットにねじ込んで、ニッコリと微笑みを投げた。

帰るんだ。


「また、逢えるといいんだけど。」

「あの、ウチの店に来てください、そしたら、オレ、すぐ行きますから。」


何で、こんな必死に頼んでんだ、オレ・・・

「実はさ、オレの仕事場、お店の近くなんだ。

 時間が出来たら、顔出すから。今日のお礼もしたいしね。」

「・・・いつ?」


何時って、そんなのわかんないだろ、オレ・・・


「じゃぁ、明後日の夕方は?」

「行きます!」


やったー!また、逢える!!・・・・・・・何か違うべ、オレ・・・

玄関先で、

いまだぐっしょりとした、雨に濡れた靴に足を入れて、

ハルキさんは、少し照れたような顔で振り返って言った。


「なんかさ、オレ、キミのこと他人のように思えないんだよね・・・

 なんでかな・・・可笑しいだろ、初めて逢ったのに。

 ま、世話になったのもあるんだろうけど・・・

 何、言ってんだオレは・・・ゴメン・・・。」


「あ、あの、オレ・・・ハルキさんに逢えて良かった!って思ってて・・・」


数秒の間。

互いに顔を見合わせて、ブハハと笑ったオレら。


良かった、ハルキさんもオレと同じこと感じてくれてたんだ。

なんで、こんなこと感じたんだか、自分でもわかんない。

運命の出会いって言葉で片付ける?


玄関を開けようと、ノブに手を掛けたハルキさんだったけど、

何かを思い出したかのように、いきなり振り向いた。


「ホント、ありがとな。」


大人の男の人の匂いって、こんな安心するんだ・・・

オレの身体は、その腕の中に優しく包み込まれていた。

ドキドキした数秒間に、すっかり思考回路が停止したみたい。


気が付けば、

エレベーターに乗り込むハルキさんの後姿に、手を振って見送っていた。


ノロノロとしか動かない脳みそ。

ソファーにぼんやり座ったまま、テレビの画面を見つめていた。

テレビの笑い声だけが、妙に騒々しく部屋に響いている。

長い時間、こうしていた。


ハァーーーーーーー。

長いため息。


「お前、何ため息ついてんの?」

「ぶっはっ!!!!」


ゆ、ゆ、ユウタが居るし!

なによ、いつ来たのよ!!

オレの真後ろに、いつものように居るユウタ。


「お前、カギ開けっ放しだぞー、あっぶねーなぁー。」

「も、もどってきたの?」


ユウタは、ニヤっといやらしく笑った。

オレの隣にドスンと音をたてて、いつものように座ると

わざとらしく小声で言ったりする。


『女がさー、言うのよ。

 ずっと抱きしめててーとかなんとか。

 オレだって、そう言われたらその気になるべ?

 フゥーーーーーツ』


「ダーーーーーーーーー!

 オレの耳に息吹きかけんな!キモイ!!」


ぶはははははは!

って機嫌良く笑ってさぁ、ハイハイ、いいですこと!

ま、オレも似たような気分に浸ってた訳だし。

わからないでもない。


「オレがお前を見捨てる訳ないだろートモぉ、ちゃんと泊まるからさ。」

「う、うん。」


何も話していないのに、何でか、スゲー恥ずかしい。

何も知らないユウタなのに、まともに顔見れん・・・


フっとした時にオレに触れるユウタの身体、その瞬間、

オレ、ハルキさんの匂いと、抱きしめられたアノ感触を思い出してしまう。

誰かに抱きしめられたの・・・初めてだ・・・

カッーーと顔が熱くなる。


「何、さっきから、トモ!」


ユウタが怪訝そうな顔つきで、ジっとコッチを見ている。

ヤッベー、なんか勘繰ってんなコイツ・・・

オレは、働かない脳みそで、必死で言い訳を考え始めた。


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