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第5話

 雨脚が弱まるどころか、強くなる一方だ。

ポツポツポツと、窓ガラスに当たっていた雨は、

今じゃ、激しくガラスを叩いている。


 こりゃ、また、ズブ濡れだ。

帰りの事を考えると、これまた憂鬱になる。

それ以前に、どこに帰れるかが問題なんだよ。


 今朝方、女と大喧嘩して家を出て来たんだっけ。

今更、些細な事をクドクド言われてもなぁ・・・

だったら、オメーはどうなんだ!

と、言い返せないのは、ヒモ状態だから?


最近、他の女を切ってたからなぁ・・・

悲しいかな、行く当てがない。


 ボンヤリと窓ガラスを流れ落ちる雨水を目で追っていると

横顔に、やけに強い視線を感じ振り返ると、つぶらな瞳。


 オレもこんな澄んだ目、してたかな・・・中学ん時。

ガキのころから荒んでたからな、そんな目してたのは

赤ん坊の頃だけだったかもしれない。

焼けた肌に、その端整な顔立ち、オレには、とってもまぶしい。


「トモくんは?」

「あいつ、洗濯物とりに。

 腹減ってんのに、何も作ってくれないってヒドイですよ。」


彼はそういいながら、その瑞々しく引き締まった体の腹を押さえた。

さっきみたいに、腹の虫が聞こえてきそうな顔だな。

 このトシの頃って、何もしてなくても腹が減るんだ。

食べたいからじゃなくて、体が欲っしてる感覚。

ひもじさに、ユウタ少年の瞳が潤む。


「何か作ってやるよ、お礼にさ。」

「やった!」


素直に喜んでもらえると、逆に気恥ずかしい。

 酒が抜けて重くなった体を奮い立たせてみる。

人んチのキッチン勝手に使って申し訳ないけど、

オレも少々小腹が減ってきたし。


 どっかの外国製の冷蔵庫がエライデカイ図体で、

その存在を主張してる。

このウチ、外国製品多いな・・・ガスもかよ。

冷蔵庫にはこれまた、インターナショナルな食材。


「すげーな。」

「トモんチ、銀行のとこでカフェやってるんですよー。」


 オレが冷蔵庫を覗いて感嘆の声を上げると、

ユウタくんの声が、背後から降って来た。


銀行のとこのカフェ・・・

ウチの店の近くじゃん、何回か、入ったことある。


「マーサ?」

「そうそう!」


あそこのオーナーのウチか・・・どーりで、イイ感じな訳だ。

やっぱ違うんだな、カフェやってる人の家は。

カウンターの上の、可愛らしい黄色いランプが優しい明かりを灯している。


「サンドイッチでどう?直ぐ出来るし。」

「いいっすねー。」


美味そうなハムとセミハードチーズ、そしてトマトとレタス。

パンにマスタードとマヨネーズをたっぷり塗って。

ハイ、出来上がりですヨ。


「あーーー!」

「ゴメンな、勝手に。この子がお腹空いたっていうから。」


 両手に乾いた服を持って戻ってきたトモくんは、

服をソファーに放り投げてカウンターへ駆け寄った。

まるで、腹を空かせた子犬ね。


「オレも食べたい!!」

「ハイハイハイ、作りますって。」


まるで、給食のオバサン状態か?

飢えた子犬2匹を目の前に。

餌付けだな、こりゃ。


「オレのトマト入れないでー。」

「ダメ?」

「ダメーーーー!」

「ハイハイ。」


可愛い。

この年頃って、こんな可愛いんだ。

最近、周りにはスレた奴しか居ないもんな。

若いフェロモン発散した奴との接点ないし。

あー、この若さにクラクラ。


「はい、どーぞ。」

『いっただきまーーーーーーーす♪』


二人声を揃えて、お行儀のよろしいことで。

ユウタ少年は、一心不乱にガツガツと貪り食いはじめ、

かたやトモ少年は、一口づつ味わって、至福の笑みをこぼす。

まったく、対照的な二人。


「うっめーーー!」

「すげー、おいしぃーー♪」


サンドイッチでこんなに喜んでもらえるとは・・・

うん、嬉しいかな、こんなのも。

少しばかり幸福感に浸っているこの感じ、悪くないな。


でも・・・

すぐに心の中には、外の嵐のような冷たい感じが甦る。

拭い去れないこの感覚が、喉元まで込み上げる。

オレは、そっと目を閉じてやり過ごすだけだ。


「ハルキさん、今日、泊まってけば?」

「え?」


口の端にマヨネーズを付けた2匹の子犬。

キラキラした瞳で、真っ直ぐにオレを見つめる。

 その真っ直ぐさに、とても戸惑ってしまうんだぞ、大人は。

フツー、泊まれって言うか?

見ず知らずの、赤の他人に。

見るからにヤバそうなオレに・・・


「さっき、親から電話があって、今日は帰れなくなったって。」

「なんでよ、トモ。」

「店、雨漏りしてて、店に泊まるって。オマエも泊まるだろ?」

「泊まる。」


何が楽しくて、子犬んチに泊まんなきゃいけねーんだ。

他に楽しい事はきっとアルはず。

このヌルイ感じに流されそうになる自分は・・・ダメだろ。


「いや、悪いし、オレは帰るよ。」

『えーーーーーーーーーー!』


乾いた服に着替えている間も、熱い視線が投げられて、タジタジだ。


「まじ、帰るって。」


そう言った、その時、

バリバリバリと、激しい雷鳴が空気を揺らし

瞬間、雷鳴が夜空を明るく走りぬけた。

と、その直後に・・・


『あ!』


街中が一瞬にして暗闇に包まれた。

一瞬、何も見えなくなった部屋の中で、

オレの大きな溜息だけが妙に大きく響く・・・


 部屋を浮かび上がらすのに十分な閃光が

雷鳴と共に闇夜に走っているこの状態で、帰れるか?


「ねー、オレたちのこと放って帰るの?」


ユウタが、無邪気に笑ってオレに言った。



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