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第3話

 この柔らかな暖かい触感は何だろう、自分の腕の中に人のぬくもりを感じている。

それと、芝生のような、湿った青臭い匂いも。

重たい瞼はまったく動いてくれず、鈍い感覚のまま指先に触れているものを確かめる。

 髪の毛。固い、刺さるような髪、ムースで固められた頭。

耳。赤ちゃんみたいフニャフニャだぁ、気持ちイイ。

ん?脂ぎってんな顔、化粧落とさないで寝たなコイツ。

 どこの女の家で寝てるんだ?腕枕して寝ちゃったんだな。

でも、だれ?ちっとも思い出せない。

んー、まぁ、どうでもいいかー。


 スゲー寝た気がする、1週間は寝ないでも良さそうかも?

でも、スゲー頭がいてぇ。飲みすぎですね、反省。

いっつも、その場限りの反省だけど。

オレの腕枕で眠る、どっかの女を引き寄せて抱きしめた・・・


『うっわぁぁ!誰だ、オマエ!!』


 やっとオレの意志に従った、瞼の隙間に飛び込んできたもの。

誰?コレ、誰よ!この少年は、一体、何?

驚いた拍子に突き放した少年は、まったく起きる気配がない。

オレは、まったく見覚えが無い少年に頭を抱えた。


マジ、ダレ、コレ!

ヤっちゃった?いや、ありえねぇな。

でも、オレ・・・真っぱなんですけど、なんでよ?

マジに焦ってる、フツーの状況じゃありませんから。


ココ、どこ?

ずっしりと重い頭と身体が、思考能力を完全に麻痺させてる。

思い出せない・・・う、トイレ、トイレしたい。

その部屋を出ると、廊下の奥にリビングらしいガラス戸があった。


誰か、居る。

ゲームの音がする。

暗い部屋に、画面の明かりだけがチラついていた。

思考を取り戻そうと努力したけど、無理。

オレ、何してたんだっけ?

真っぱの上に、バスローブに着てる理由も知りたかった。


トイレで用を済ましたオレを待ち構えていたのは、

オレの腕の中にいた少年とは違う、別の少年だった。


「あの、起きました?」


ゲームしてた子だな。

甘酸っぱい、無垢な感じの少年が、恥ずかしそうにオレを見た。

んー、ダレだっけ?

必死で記憶の糸をたぐり寄せる・・・酒、雨、


「公園!」


オレの急な大声に、少年はビクリと後ずさりする。

あー、なんとなく思い出したぁぁ。

公園で雨宿りだ!


昼頃からダラダラ飲んでたら、雨に降られて・・・

あぁ、思い出した・・・この子と一緒に長いこといたんだっけ。


「あの、大丈夫ですか?」

「ごめん、よく憶えてないんだ。」


少年は引きつったような愛想笑いを浮かべ、オレとの間に距離を置いた。


「キミの家?」


キミは黙って頷く。

なんで、オレは、ココにいんの?と、口を開きかけた時、

ふと、滴に濡れたその横顔が目の前に浮かんでくる。


「あの、オレが誘ったんです、雨が止まなくて、ウチが近かったから。

 走って帰ってきたんですけど、エレベーター降りたら、急に倒れて・・・」

「マジ?ゴメン、迷惑かけちゃって。」


あちゃー、やっちゃったのねぇ・・・意識喪失。

マジで酒、止めるか?・・・止められないでしょ。


「すみません、一緒に寝てたの友達なんです。

 酒、弱いのに、少し飲んじゃったみたいで。」

「あはは、オレ、犯してないよね?」

「ハハハ・・・たぶん。」


かなり引かれてんな、オレ。

そりゃそうだよ、見ず知らずの他人だし、酔っ払いだし。

キミの親切に感謝しなきゃいけない。


少年の好意な申し出に甘えて、洋服が乾くまでの少しの間、

お邪魔させてもらうことになった。

倒れてる間に風呂にまで入れてもらって、誠に申し訳ないです。

情けなくて、顔から火が出そうな勢いだよ。


「おウチの人は?」

「帰ってくるの、夜10時ごろなんです。」


少年が気を遣って入れてくれた、暖かい紅茶をすする。

いつぶりだろう、紅茶なんて飲むの。


「あの、お名前は・・・?」

「ハルキ。佐川ハルキ、キミは?」

「内藤トモトシです。」


ニッコリと微笑んだだけなのに、彼は表情を強張らせうつむいた。

オレ、そんなに怖いか?


「お、おいしいよ、紅茶。」

「ありがとうございます・・・」


ぎこちない、奇妙な空気が二人の間を流れていた。

あー、シラフじゃ耐えられねーって。

何事にも逃げ腰だって。だから、飲んで誤魔化すって話も?

苦痛すぎる沈黙に、オレは今にも倒れそうだった。


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