第25話
このイライラ胸のモヤモヤ、一体なんなんだろう。
近くにいるのに、とても遠くに感じてしまうのはなんでだろう。
こうして手で触れていても、なんだか触っているのは違うものみたいだ。
夜気に冷えたハルキさんの手を引いて、暖かな部屋の中へと連れ戻しても
オレの胸の中は、妙に寒いっていうの?隙間風が吹いている感じ。
ハルキさんは片手の中に握った携帯を見つめて考え込んでいた。
やっぱり、気になるんだ・・・ツヅキさんのこと、とか・・・。
「ハルキさん、オレ大丈夫だから行ってきたら?
だって心配なんでしょ、ツヅキさんのこと」
「バレバレ?」
「バレバレ。今すぐ飛んで行きたいって顔してるし」
あははは、と大きな声で笑って参ったというように頭を掻いて。
ゴメン、とオレの顔の前で両手を合わせてみせた。
やっぱり、行きたいんだ・・・ツヅキさんのとこ。
「スグ戻るから、なんかあったら携帯に電話して」
メモに携帯の番号を書き写して、オレに渡した。
それを受け取って番号を目で追っている間に、ハルキさんは出て行った。
だよね・・・普通に考えても、そうだよ、行くよね。
ソファーの上のコートを手にとって「ゴメン、スグ戻るから」って。
やっぱイライラするかも・・・モヤモヤしちゃってるかも。
この気持ちってさ、ユウタにも時折感じたりするのと一緒だよな。
彼女、彼女〜とか騒いでさ、オレのことなんか二の次になってる時
そんな時に感じる気持ちと一緒かもしれないかもしれないかも?
「なんだかなー、オレ」
独り言が、虚しく響いた。
ユウタめ、なんだよもぉ、いて欲しい時にいないなんてさぁ。
「あー、ムカつくしぃ」
思い切り蹴飛ばしたクッションは、ユウタの顔にヒット!
え、ヒット?
「んだよ、いてぇなー」
「ユウタ!」
顔面で受けたクッションを片手で、オレにポンと投げ返した。
ほんと、スゲータイミングがいい男。
「あれ、ハルキさんは?」
「あー、ちょっと出掛けた」
「あは〜ん、それでムカついてんの?」
ギクリ。
そんなところばっかり、勘が鋭いヤツ。
なんで、わかっちゃう訳?
恋愛に関してはエキスパートとか言ってたっけ?
「ブハハハ!嘘、嘘。下で会ったんだもん、ハルキさんに。
トモを一人で置いてきちゃったから頼むってさ。」
なーんだ、そうなの?すげーって思って損した。
オレは気が抜けてしまって、
クションを抱いたままソファーにどっかりと腰を下ろした。
「なんで来たの?」
「なんでって・・・メシはいらねーってメールしたけど
行かねーとは言ってないじゃん!」
「そうだっけ?」
なーんだ、そうなの?ちょっと寂しいとか思って損した。
キッチンの鍋の中に指を突っ込んで味見をしながら、ユウタが言った。
「ねー、ハルキさんどうしたの?」
「んー?なんかさ電話してたら心配になったみたいよ」
「ツヅキさん?」
「んー、そうみたい」
小さな声で気が抜けたように返事をしたオレを、
ユウタはニヤニヤっとした顔でつついた。
「なんだよ」
「なんだよじゃねーよ、オレがいるのにハルキさん、ハルキさんって
オレは一体ナンなんだっちゅーんだよぉ」
「何って、一番の親友じゃねーの?」
「んーーー、トモーーー、それが聞きたかったんだよぉぉ」
「うげぇ、離れろ、キモいちゅーのぉぉ」
いつの間にかオレを遥かに追い越していった背丈、その身体で抱きつかれたら
オレがどうなるか想像つくだろうに、このアホが!
オレは想像通りにドスンと床の上に尻餅をついた。
「アダダダ、ユウタ重い!」
「オマエ、オレを捨てたら許さないからなぁ〜」
「ハイハイ、わかりましたから、退けコラ!」
いつになく真剣な目をしてオレを見下ろしていたから、
シャレにならない位にドキドキと、心臓が早鐘を打ち始めた。
「マジで・・・何でも一番にオレに話してよ、オレはトモの親友なんだから」
「うん・・・」
スッと消えた、ユウタの重み。
メシはいらないってメールしてきたくせに、せっせと皿にカレーをよそってる。
初めて見たユウタの切なげに潤んだ瞳・・・なんだよ、焦るじゃんあんな顔されたら。
裏切ってるって気持ちになるじゃん、何一つ、裏切ってないのにさ・・・アホ。
山盛りのカレーをかき込む姿は、いつものユウタだ。
ユウタには・・・オレが変わって見えてるのかな。
前編・完