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第23話

 なに、この展開・・・オレとユウタは顔を見合わせて困惑した。

無邪気に噴水の周りを駆け回る小さな子供が、その人の目の前で転ぶと

彼はスッと手を差し伸べて、小さな膝のホコリを掃ってあげている。


「二人でアイツを見張っててくれない?」


後ろを振り返りながら、ハルキさんが言った。


「えー、なんで?」

「悪いことやらかしそうだからさ」


その人はコソコソと話しているオレたちを、少し離れたところで見ていた。

嬉しい光景を見ているように、口元に笑みを浮かべて。


「悪いことって、何よ?」

「イロイロと」

「ハルキー、いい加減なこと吹き込むなよ」


そう言いながらコチラへ近づいてきて、ハルキさんの頭を軽く小突いた。

ハルキさんが心配するのが嬉しいんだ、きっと。


「ども、ツヅキです。」

「この子がトモで、こっちがユウタね」


細い指先で前髪をかき上げた時、甘い香りが風に運ばれて届いた。

ツヅキさんの耳打ちするハルキさんも、同じ香りを嗅いでいるはずで

やるせない気持ちがオレの中に芽生えている。

イライラとし感情がワケも無く込み上げるのは、二人の関係に嫉妬した気持ちから。

そんな自分の気持ちを冷静に考えてもイライラするばかりなのに。


「ヤバ、じゃ、オレは行くから。あとは宜しく」

「宜しくって・・・」


腕時計を見ながら、走っていってしまったハルキさんの姿は、

あっという間に公園の外の雑踏に紛れてしまう。

どうする、オレ?

この人だって、戸惑ってるはず。

見ず知らずのオレらだもん・・・しかも、中学生だし。


「ま、オレの事は気にしないで、じゃあな」

「待ってよ」


オレたちの静止も聞かずに、ズンズンと歩き出したその後を追う。


「付いて来ても、何もないよー」

「ハルキさんと約束したし」


ピタリと脚を止めて、振り返る・・・

そう言ったオレの目の前に、そのキレイな顔を近づけた。


「オレと一緒にいたら、とっても怖い目に会うかもよ。

・・・アハハ冗談、ハルキに言っといて、今日は大人しくしてるからって」

「でも・・・」

「じゃ、そういうことで。別のお迎えも来たみたいだし」


公園の前に1台の車が停まった・・・シルバーに輝くメルセデス。

窓がスーと降りて、見るからに金持ちそうな女がコッチに向かって手を振っていた。

ツヅキさんよりハルキさんよりも、かなり年上の女。


「ちょっと待ってて」


車の相手に軽く手を上げて、ツヅキさんは何故か小さな声で言った。


「この事はハルキに内緒だよ、五月蝿いからさ」


彼が去ってしまった公園で、オレとユウタは困ったように顔を見合わせていた。

ハルキさんに内緒にしなきゃいけないんだ・・・なんでかな・・・五月蝿いから?

なんだか、全てに脱力してしまって、オレは大きくため息をついた。


「どうする?」

「どうするって、行っちゃったし」

「ゲーセンでも行くか?」


気乗りのしないまま、ユウタに連れられてゲーセンに入ったけれど

オレはスグに飽きて・・・ゲームに夢中のユウタを残しゲーセンを出た。

ブラブラと歩き回って、結局、たどり着いたのはウチの店。

ハルキさんとの約束を破ってしまったから・・・入りづらい・・・


「あれぇトモ、1人か?」

「ごめん、ツヅキさん行っちゃって」

「アイツめ逃げたな・・・いいって、いいって、中に入りな」


バツが悪いってこういう事だね、普段よりも暇そうな店内を見回して

オレはモジモジとカウンターに座った。


「アイツあんなだろ、危なっかしいっていうか、ほっとけないっていうか。

ま、逃げられるってわかってたけど・・・誰か、迎えにきたんだろ?」

「えー、なんでわかんの?」

「そーゆーヤツなの。あの顔であの性格だろ、手当たり次第なとこあるし」


ハルキさんは、オレの前にスッとミルクティーを置いた。


「ゴメンな、変な気をつかわせちゃって」

「ううん、目の保養になった」

「アイツはキレイだけどな・・・トモには目に毒だぞ」


こんなたわいない会話なのに、心が躍る。

ずっと憧れていた兄弟が出来た感覚?お兄ちゃん・・・違うなぁ

ハルキさんの指先をじっと見つめながら、オレはミルクティーをかき混ぜた。

薄い皮膜がスプーンに張り付いて、それを口に運ぶ。


「ツヅキさんって・・・ハルキさんの恋人?」

「そう見えた?・・・違うなぁ、そんなじゃないかな。

オレとアイツはそんな関係じゃないんだ、親友ってヤツかな」

「親友?そんな感じには見えなかったから」


何言ってんだ、オレ。

そんなこと、オレには関係ないことなのに。

ツヅキさんの存在がスゲー気になって、どうしようもない。


「まぁね、前はそういった感情が無かったわけじゃないけどね。

アイツとオレはそういった運命っていうか、永遠の愛に近い友情って言えばいいかな」


永遠の愛情に近い友情って・・・それって運命の人ってこと?

あの人の為なら、自分を犠牲に出来るってこと?


「何、難しそうな顔して・・・」

「ツヅキさんて・・・ハルキさんの何?」

「だから、今は友だちだって」

「そうじゃなくて、あの人の為なら死ねると思う?」

「んだよ、大袈裟だなぁ。アイツの為に死ぬのはヤだよ、

オレの命を捧げる価値は、今のアイツには無いね、ヤダヤダ」


顔をしかめて否定したけれど、きっとハルキさんはあの人の為になら

全てを投げ出せるんだ、そうに違いない。

いいな、そんな人が心の中にいるのって、羨ましい。

ユウタの為に、オレ・・・出来るかなそんなこと。


きっと同じこと聞かれたら、ハルキさんと同じように

ヤダヤダって嫌な顔して否定してみせるんだろうな。

そんな感じ。


ユウタに永遠の愛を誓えるかは疑問だけど、

アイツが居ない生活なんて考えられないからなぁ。

この気持ちの、もっと上の感じなんだろうね、ハルキさんとあの人の関係。


「まだ、何か考えてる?」

「んー、オレとユウタはどうかなって」

「ま、近いね、ソレに。もう少し大人になったらわかるって」


そうかな・・・大人になったらわかるのかな。

もっと長い間、一緒に過ごして理解し合って繋がっていくってこと?

色んなこと一緒に乗り越えていくってこと?


そんな長い時間が、ハルキさんとあの人の間には流れてるんだ。

オレなんて、知り合ってほんの少しだもんね。

わからないことがあって当然なのに、もっともっと知りたいって。

ハルキさんの色んなところ、知りたい理解したいって思うんだ。

だってもう、ハルキさんが居ない生活・・・考えられなくなってるんだよね、オレ。









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