第2話
どーしよ、どーしよ、どーしよ!パニック。
ママもパパも帰ってきてないよー。変なお兄ちゃん、マジ倒れちゃったよー。
マジどーしよー。
「もー!」
オレは、ヤケクソ。二部屋分、ぶっ倒れたお兄ちゃんを必死で引きずった。
乾いた床に、濡れた体は、面白いように滑る、まるで・・・雑巾!
ポツポツ降って来た時に、さっさと走って帰ってくれば良かった。
なんでこんな目に合ってるの?
そりゃユウタのせいだ、アイツがスグに来なかったからだ!
原因は、そう、アイツだ!
あれ?ウチのカギが開いてる・・・ってことは・・・
「ユーーーーーターーーー!!ぶっ殺す!!」
「あぁ?」
リビングから暢気に顔を出したユウタが・・・やっぱ、固まった。
目が点って状態でさ。オマエ、ほんと、わかり易いわ。
いいから、早く、見てないで、来い!!目からビーム。
オレはズルズルと、お兄ちゃんを玄関先に引きずりいれた。
「誰?」
「しらない。」
とにかく、自分が先かも、めっちゃさむ。
濡れたまま滴垂らしてウチに上がった。とにかく風呂場に直行して、ビチョビチョの服、全部脱ぎ捨てて、洗濯カゴに放り込んだ。
クシュン!
「何アレ?」
「エレベーター降りたら、急に倒れた。」
風呂の蛇口をひねりながら、オレはタオルで頭を拭く。
ズーーーっ、あー、もー、鼻水まで、出てきた。
「濡れてるしー」
「濡れんだろー、雨ん中、公園からウチまで走ってきたら!」
ユウタは、洗面所のところにつ立って、オレと、起きないお兄ちゃんを、交互に見ている。
「何で?」
「ゴキっ!!」、いい音♪馬鹿の頭は、空っぽだもん。
「いってぇー、何すんだよ!」
「オマエを待ってたんだろ!」
コノヤロー、オマエが公園で待ってろって言ったくせに!
ウチに鞄置いてくっからって言ったのは、オマエだー、ユウタ。
もう1回、馬鹿の頭を思いっきりグーーで殴ってやった。
「なーんで、オマエがウチにいんの!」
「下までオヤジに送ってもらってさー、上、来たら、オバさんが上がって待ってなさいって。」
オマエはニワトリか!自分で言って忘れるなんてー、100万年早いワ!
ビデオ、借りに行くんじゃなかったのかよー。
「オマエが公園で待ってろって言うから、オレは公園で今まで待ってたんだぞ。」
「ごめーーーん、忘れてた・・・で、この人、どーすんの?」
あ・・・忘れてた。
とりあえず、ユウタにバスタオルを投げつける。
「オマエ、その人の服脱がして、拭け!」
「なんでー!」
「オマエのせーだから!!」
チィッと舌打ちをしたけれど、ユウタは頑張った。
頑張って、まったく動かないお兄ちゃんの濡れて体にへばりつく服を、全部剥ぎ取った。
「どーすんの、コレ?」
「コッチかして、乾かすから。」
思う存分水分吸ってますって服を洗濯機に入れて・・・脱水?わかんね・・・いいや、洗濯しちゃおー。よかったーウチの洗濯機、外国のヤツでー。乾燥までお任せだもんねー。洗濯機は、ガラガラと転がり始めた。
あとは・・・「ユウター、コレ、着せといてー。」、客用のバスローブを、おもいっきり玄関の方へ投げた。
「ついでに、ソファーにでも寝かしといてー」
オレは、風呂で温まるんだ。
凍え死にそうだもん・・・あ・・・あのお兄ちゃんも凍えてた。
凍死?んな、ナイナイ・・・・・たぶん・・・
廊下でユウタが悪戦苦闘状態で、必死にお兄ちゃん引きずっていた。
オレよりデカイくせに、全然、腕力ねーなー、オマエ。
「このヒト、スゲー冷たいぜ、風呂、入れたらいいんじゃね?」
「やっぱ、そう思う?」
真っぱになった、冷たい体のお兄ちゃんを、オレとユウタで持ち上げて湯船に沈めた。
ブクブクって沈んでったよ・・・死ぬ死ぬぅーーーって!
ヤバ!!オレは慌てて、沈んでいくその体を押さえた。
「あっぶねー・・・ヘェッ・・・ブシュン!!」
「トモも入っちゃえよ、オレ、この人押さえてるからさぁ。」
「そーだなぁ。」
ズズーーーっ。
垂れてきた鼻水をすすり上げ、お兄ちゃんの長い足をどけて、お湯に入った。
「はーーーー」生き返るぅぅぅ・・・あそこに1時間だもんなぁ・・・冷えるって。
ユウタは、後ろからお兄ちゃんの両脇を軽く押さえていた。
「ユウタ、スソが濡れてるよ。」
「あー、いいよ、別に、乾くし。」
お兄ちゃん、やっと血の気を取り戻したみたい。
顔色が、さっきよりよくなった。
オレが雨ん中走らせたから、死んだなんてシャレになんね。
「この人さー、薬、やってね?」
ユウタは、後ろからお兄ちゃんの顔を覗き込んだ。
ガリガリだー、この人。
ユウタのが、顔デカイから。
「しらねー、合った時は、もー酔っ払ってたけどさ。」
「酒と一緒に薬のんだっぽくネ?」
そーゆーのに、本当詳しいよなぁー。
オマエみてえに、そーゆー友達はいねーもん、知らねーって。
そういう話する時のユウタは、オレよりずっと大人びて見えた。
「だよなー、熱は・・・無いしさぁ。意識落ちんのフツーねえし。」
別に注射の痕みたいなのは、無いみたいだけど・・・
薬飲んでるかはわかんねーなー、それか・・・アル中?
「もしかしたら、ブラックアウトってやつかもな。」
「なにそれ?」
「酒飲みすぎて、意識ブッ飛んじゃうヤツ。」
それだわ!
公園で、あんな風に突然一緒になったときは、酒臭くて、フラついてて、ヤバイ感じだった。
何かの時は逃げればいいやーなんて、一緒に雨宿りしてたけどさ。
あーー、でも、さっきまで、走る直前まで飲んでたかも。
そうだ、公園で、何か、ずっと、飲んでた。
「尻ポケットに、テキーラ入った携帯ボトル入ってたし。」
「まじ?・・・って、オマエ、飲んだ?だろ・・・顔、真っ赤。」
あはははははーーーって、毎度のこと笑い上戸なヤツ。
あー、馬鹿だなー本当、オマエ、弱いくせにさぁ。
後から、ゲーゲーやっちゃうくせに、何で、飲むんだろうな。
ユウタ、ほんと、アホだ。
すっかり温まったオレは、出掛けに、ユウタの頭をもう1発ぶん殴った。
「いってーーーーー!」
「ちゃんと押さえてろよ、沈むぞ。」
真っ赤な顔で、怒ってんだか酔ってんだかわかんない顔してる。
目は完全にトロンと酔っ払った目してる。
吐く時は、トイレで吐いてくれよなー。