第17話
まとわりつくつーか、何、オマエ、最近、おかしいんじゃね?
前にも増してウチに入り浸ってね?正直・・・ウザ。
親友でもさー、四六時中一緒ってのはさー、マジキモイんだけど。
わかってる、ユウタ!ってヤツをギロリと睨んでも、
ユウタはふざけてストローをくわえ、シュッと水をとばす。
こうしてハルキさんの所に避難してるってのに、逆にからかわれる始末だし。
「ホント二人は仲イイね、うらやましいよ。」
それ本気で言ってるでしょ、少年の友情とか清いとか考えてる、絶対。
調子に乗ってユウタ、馬鹿、暑苦しいー無意味に抱きつくな!
「でしょー、オレらマジ仲良しでさーラブラブかも。」
「止めてよ、シャレになんないから」
馬鹿のさ背中におもいきりグーパンチを入れるけど、
これまた逆に喜ばれたりして、何者だオメーは!
馬鹿を相手にしてるイライラを感じ取ってか、ハルキさんが耳打ちする。
「なに、ユウタと何かあんの?」
「ちょっとユウタ変なんだもん、オレに欲情してるってゆーか」
ニヤニヤしないでよ!
こっちは、マジメにビビってんだからさー。
「ぷはっ、マジ?友情と愛情取違えてんだな、ま、そのうち治まるから大丈夫じゃない?」
「治まる前に、犯されちゃうって」
自分の貞操に危機に恐怖する。
想像しただけで、鳥肌ってゆーか、捕まって押し倒されたら逃げらんねー。
うーヤダヤダ。
「アハハ、何事も経験だから」
「もー、止めてよ!」
店にはママとハルキさんの二人、パパは昨日から出掛けていた。
ハワイだ・・・、友だちに会いに。
ウチのテーブルに無造作においてあった書類を見つけて、パパたちが
何を企んでいるかを知ったのは先週のこと。
スグにハルキさんに探りを入れたら、その話は知ってたみたい。
オレは、どーなるのかな?ハワイに行く事になるのかな・・・
この馬鹿ともハルキさんとも離れて暮らす事になるのかな・・・
オレにベタベタと絡んでいる、ユウタの携帯が鳴った。
なになに、その鼻の下伸び切ったデレデレな顔・・・ニューな女?
「あ、メグちゃんからメールだぁ、オレちょっと行くわ」
「誰それ?」
マジかよ、行動早いなぁー。
「ムフフフ、新しいカノゲットー!じゃまたねー後で報告すっから」
ユウタは一気にジュースを飲み干すと、脱兎の如く店を飛び出して行った。
ん、ガノゲットってことは・・・オレの貞操が守られるわけで・・・祝・カノゲット!
ホワワワっと気が抜けていくのが自分でもわかるし。
「トモ、これで一安心って感じ?」
「マジ、助かったーって感じ」
どっとカウンターに肘をついて脱力って、アイツに振り回されてもー散々だよ。
そうしながら、キビキビと働くハルキさんを横目で観察していた。
なんか吹っ切れてるような、前と違ってずいぶんスッキリしてる気がした。
大人だから、グダグダ悩んだりしないのかな?
ママがダラダラしてる、そんなオレの頭をペシっと叩いて睨んだ。
「ほら、お店でそんな格好しないの。宿題は?テスト近いんじゃないの?」
「わかってるよー、飲んだら帰るって。」
うるせーなーもー、ウチに帰ったって一人なんだもん、つまんないの。
わかんねーかなー、クソババ。
「トモ、この前はゴメンな」
スっとオレの前に来たハルキさんは、小さな声で、ボソボソっと謝った。
ああ、遊びに行ったときのこと・・・
「この前って?」
「ヒルズ行った時、オレ、なんか動揺しちゃってさ」
照れたような笑顔を浮かべてる。
大人でも照れるんだ・・・
「あ・・・ううん、大丈夫だから、気にしてないから」
「今度またどっか行こうな」
そう言って髪の毛をクシャクシャって・・・あ、ダメ、それ、ゾクゾクする。
思わずブルっとしちゃったじゃん、でなくても妙に敏感なになってる身体なのに、
オレのがよっぽど欲情してんのかもしんね、太ももの間がウズウズとくすぐったい。
「オレ、帰るね」
「トモー、ちゃんと宿題しちゃいなさいよー」
「わかってるよー」
クソババーのクソ余計な一言にムカつきながら、カウンターの中で笑うハルキさんに
手を振った。クソババーがいなかったら、もう少ししゃべってられたのに・・・うぜぇの。
コンビニでマンガを立ち読みしていると、目の前をうな垂れて通る馬鹿発見!
アイツ・・・振られたとみた!!呼び出されたって、「ゴメンナサイ」って?
プハハハ、ざまーみろー。
ワザと声を掛けずに、コッソリその後を追った。
くー、可笑しいー何あの落ち込み具合、ギャップ激しくネ?
泣いてたりして。
ユウタはガックリと肩を落としてうつむきながら、オレんチへ向かって歩いている。
オレに慰めてもらう気なのか?ったくよー、面倒臭いってのぉー下の世話は勘弁だかんな、
そこんとこはハッキリ断っとかねーと、マジ調子こむかんな・・・
ウチのマンションのエントランスで、ブザー鳴らしてるよ、出ねえよ、オレ、ココだもん。
しつけー、そんなに鳴らすなってのー。
ユウタは誰も出ないブザーを何度も何度も押して、そしてその場にしゃがみこむと膝を抱えて顔を伏せた。
落ち込み過ぎじゃね?
しゃーねーなー、傷心な親友を見捨てらんねーし。
「ユウタ、何してんだオマエ」
「トモー、何処行ってたんだよ〜」
だーー、だから抱きつくなって、もー暑苦しいんだよー。
汗臭えーし、オメーの突っ立った頭が顔に刺さるっての!
「えーん、ゴメンナサイ言われたー」
「はいはい」
ガッシリとしがみつかれた状態のままで、ウチまでの数分・・・誰にも会わなかったことに感謝。
「ほら、早く入れよ、恥ずかしいから!」
ガキじゃねーんだから、自分で靴ぐらい脱げよな!
馬鹿の靴を脱がせながら、オレは自分の面倒見のよさに舌打ちした。
「何か食うか?」
首を横に振るなってのーアタタ、刺さんだってのー。
しがみつく巨体をソファーにブン投げて、大きく新鮮な空気を胸いっぱい吸い込む。
はぁーオトコ臭過ぎ、だから振られたんじゃね?ユウタくん、臭いから嫌!って。
オレも、こんな匂いすんのか?
クンクンと自分の匂いを嗅いでいると、馬鹿の腕が伸びてきてガシっとオレを掴んだ。
「うわぁ!痛えなぁー急に引っ張んなって!」
「そばに居てよー」
無理矢理、腕引っ張るんじゃねーよ、マジ痛えなぁーケツ打ったじゃん!
あー、もー、くっつくなー、暑い、臭い、苦しいぃ!!
「ガキかよ!」
「はぁー落ち着くぅ、オマエの匂いって安心すんだよー」
鼻押し付けて、嗅ぐな!
キモい!
「暑苦しいって」
「オマエ、なんでそんなに肌スベスベなわけ?色も白いさぁ、もっと食えよ
ウエストも細すぎんだよ、ホラ、女みたいだぞ。男臭くねーし。」
んなの言われたって、オレのせいじゃねーって。
食ったって太んねーし、色白は生まれつきだし。
「なんか儚げで、女が騒ぐのがわかる気がする」
「んだよソレ!全然、嬉しくねーから」
離れない馬鹿の顔をグイっと突き離して、思いっきりぶん殴ってやった。
「いってー」
ユウタはグーで殴られた頭を抑えてうずくまったまま・・・動かない?
アレ、ヤっちゃった?急所に入っちゃった?・・・オマエ、生きてる?
恐る恐る、動かないユウタの顔を覗きむと・・・ギロっと光った目ん玉とバッチリ目が合う。
「テメー、落ち込んでるオレに、よくもー!!」
「うわぁぁぁ、ゴメン、ゴメン謝るからー許してーー」
「ぜってー許さん!!」
「ひぃっっ」
オレよりも背が高いうえに、ソファーの上に仁王立ちしたユウタの恐ろしい事!
その巨体が真上から襲い掛かってきた恐怖に、オレは卒倒しそうになる。
ガツっと音を立ててジャンプすんなー、オレの片手は後ろ手に捕られ、
ガッツリ馬鹿の筋肉質の腕でチョークスリーパーされて、く、苦しぃぃぃ
「親友のくせに、なんだその態度ー!傷ついてんだぞーフツーは優しくすんじゃねーのかよぉ!」
「ゆ・・・タ、くる・・・し・・・ヤメ・・・」
「んだよ、自分は女に騒がれてるのも気が付かねーくせに、モテないフリすんの止めろよなー、マジムカついてきたー、このーーーバカチンが〜」
「くっ・・・」
ダメ・・・完全入ってるし・・・ぼーっとしてきた。
この馬鹿、力加減、知んねー、タップしてんだぞ!!気がつけぇぇ
あぁぁ、スーーーっと意識が遠のいていく・・・気持ちイイ・・・
『・・・モ!トモー!トモトシー起きてよートモ!!』
ん?ユウタ、うっせー。
気持ち良く寝てんだから、起こすなってのー。
突然、肺に送り込まれた空気の塊にギョッとして、意識がハッキリしていった。
『トモー!!』
再び気管を駆け下りていった、肺を押し広げる空気圧にむせ返る。
「ゲホゲホッ、くっーー、はあぁーーー」
「トモー」
ボンヤリと目の前に浮かんでいたのは、馬鹿ユウタの蒼白な顔。
蒼白っていうか、マジビビってシッコ漏らしてそーな顔。
「よかったーぁぁぁぁ、生き返ったぁぁぁ」
く、苦しいぃぃぃ・・・抱き絞めんなーーー、骨が折れるっての!
涙、流して喜ばなくてもいいから、オメー自分のやった事に反省してくれ。
ユウタは泣きながら何度もゴメンって謝って、強く抱き締め続けていた。
勘弁してよー。
「んぁぁぁ、死ぬぅぅ」
あがけばあがくほど、力を込めて抱き締める始末。
自分の唇に残るブヨっとした感触に気が付いて、オレは凍りついた。
オメーの口だよな、絶対・・・サイアクつーか、信じらんねー、
こ、こいつ・・・オレのファーストキス奪いやがった!!