反グローバリズムなのに、再生可能エネルギー反対は絶対におかしい
第二次トランプ政権が始まって以来、様々な情報が乱れ飛んでいる。
『トランプ関税の所為で、アメリカ経済は壊滅状態』
『トランプ関税は実は成功していた?』
『アメリカ国内でもトランプ大統領はバッシングを受けている』
『トランプ大統領、アメリカ国内では意外にまだ人気がある』
何が正しい情報なのかさっぱり分からない。
「これじゃ、アメリカがどうなっているのかまるで分からない。一体、どれを信じたら良いのやら。
――そもそも、どうしてこんな事になっているんだ?」
そう僕は思わず呟いてしまった。教室でスマートフォンを眺めていたのだけど。実はここ最近少しばかり政治に興味を持つようになっていて、こういった情報も仕入れているようにしているのだ。
その僕の独り言をが耳に入ったのか、こんんな声が聞こえて来た。
「それぞれの政治信条、或いは人間関係、利益関係、或いは単に刺激的なタイトルでの再生回数増加狙いで、印象操作やらなんやらしているのさ。中にはまったくのデタラメってケースもあると思う」
声の方を見てみると、吉田誠一という男子生徒が本を読んでいた。一瞬、他の誰かが言ったのかと思ったが、こいつは恐ろしいほどのマイペースな奴で、よくこんな態度を執る。
「どーいう事だよ?」
試しにそう訊いてみた。すると、やっぱり吉田の発言だったようで、淡々と答えて来た。
「トランプ大統領は右派だから、左派は批判的に報じるだろう。または敵対している勢力だとかね。その反対に右派は好意的に報じるはずだ。まぁ、高関税をかけられて怒りを覚えている人も日本では多いだろうから、左派じゃなくても批判的な報じ方をする所は多いだろうね」
僕はそれを聞くと少し黙ってから口を開いた。
「よく分からないが、つまりはどの情報を信じられば良いんだ?」
「できる限り中立の立場の情報元を探して、それを信じるしかないと思うよ。
僕個人の見解で良いのなら、トランプ関税の影響でアメリカが経済にダメージを受け始めているのはほぼ確実だけど、一部は明らかにそれを誇張している。気になった情報があったら、他の情報源を探して調べてみる事を心掛けるべきだ」
僕は大きくため息を漏らした。
「なんだかなぁ…… 便利な時代になったのだか、却って不便になったのか」
「僕個人の意見を述べさせてもらうのなら、今の時代の方がまだマシかもしれない…… とも思うよ。旧メディアの報道内容だけを信じるのも危険だ。酷い誤報だって少なくないのだから」
「でも、どの情報を信じれば良いのかまるで分からないじゃないか」
「そうだね。でも、僕としては“矛盾のある主張をしている情報源”をまずは疑ってかかるべきだと思う」
「なんだよそれ?」
「例えば、あるインフルエンサーだけどさ、彼は“無能な人は、生活保護をどんどん受けるべきだ”って言っているんだ。この発言自体もツッコミどころだらけだけど、更に彼は“日本は衰退する”とも言っている。なら、国に依存している生活保護受給者達は切られてしまうかもしれないじゃないか。生活保護受給者達を騙して殺す計画じゃないのなら、どうしてそんな主張をしているのか分からない。こんな人の言う事を信頼できるかい?」
吉田の言わんとしている事は分かった。確かに信頼できないと思う。
「まだまだあるよ。さっきも言ったけど、トランプ大統領は右派だ。だから、日本の右派にも人気がある。ところが日本の右派って国際的にはちょっと特殊でさ、財政楽観主義者が多いのだけど、実は世界的には右派には財政悲観論者が多いんだ。トランプ大統領もこれは同じで、財政悲観論者だ。だから、財政状態を立て直そうとしたがる。しかし、財政楽観論者である日本の一部の右派はその点をあまり批判しないのだね。日本人が財政悲観論を言ったら、絶対に批判するのに。
因みに、日本の左派もやはり特殊で、世界では財政楽観論者が多い中で、財政悲観論者が多い。ならば、トランプ大統領の財政悲観論的な政策を高く評価するのが自然だと思うのだけど、そんな話はあまり聞かない」
「なるほどね」とそれに僕は返す。
「でも、そーいう矛盾にそこまで実害があるようには思えないのだけどな」
“無能は生活保護を受けろ”と言われて、本当に生活保護を受給し始める人なんてほとんどいないだろうし。
「いや、中には実害があるものもあると僕は思う」
吉田の言葉を受けて僕は思わず、「どんな?」と訊いてしまっていた。ここ最近、僕が少しばかり政治関係に興味を持つようになったのには理由がある。実は政治団体と付き合いができてしまったのだ。人当たりの良い人ばかりで、僕は気に入っていたのだけど……
政治団体の集会場に僕は来ていた。色々と政策や経済情勢について話し合っていたりして、雰囲気は和やかだ。
「でも、グローバリズムってそんなに悪いものなのですかね?」
そう僕は尋ねた。相手はこのグループのリーダー的な立ち位置の人。
「“悪い”と言うか、まぁ、俺は皆がどうしたいのかの矜持的な問題だと思うよ。日本人である事のアイデンティティを大切にしたいと思ったのなら、やっぱり国際交流っていうのは制限しちゃくちゃならない……」
この政治団体はグローバリズムに反対している。吉田曰く、それ自体は問題視するべきじゃないのだそうだ。でも、それならそれでどう社会を運営していくのか確りと考える必要はあるはずだと彼は言っていた。国際分業には高いメリットがある。それを捨てるのだから、それ相応の方策や覚悟が必要になって来る。どう技術的にカバーするのか、カバーし切れないのなら、貧困を受け入れる覚悟をしなくちゃならないが、果たしてそれをちゃんと分かっているのか。
そして、彼はこうも言っていた。
「特に問題なのがエネルギーだね。他の資源は少なくとも原理的にはリサイクルなどで国内である程度は賄えるだろう。もちろん、コストは跳ね上がるだろうから、生活は苦しくなるはずだけどね。
しかし、熱力学第二法則があるから、エネルギーはリサイクルはできない。使ってしまったらそれでお終いだ。
そして、反グローバリズムを進めると、エネルギー資源を手に入れ難くなる。日本はエネルギー資源があまりないからね。なら、再生可能エネルギーを活用してのエネルギー自給率の引き上げは必須だ。なのに、それに反対している人達がいる……
断っておくけど、原子力発電は日本だけじゃ製造も運営もできない上に不安定だ。稼働できない事態に追い込まれるケースが多々あるし超長期に及ぶ核廃棄物の処理を考えるのなら絶対にコストの方が大きくなる……」
つまり、“反グローバリズムと、反再生可能エネルギーの組み合わせは最悪だ”と彼は主張していたのだ。
エネルギーを手に入れられなければ、下手すれば日本社会は崩壊する。が、“反グローバリズム”も“反再生可能エネルギー”も、そのエネルギーを手にれなくさせる。
「何にも分かっていないのじゃないか?」
と、彼は言っていた。
でも、もしも、分かっている上でそれを言っているのなら……
「でも、再生可能エネルギーにも反対なのですよね?」
僕はリーダーにそう尋ねた。
「ああ、もちろんさ」とリーダーは応える。そのにこにことした笑顔に、僕は何か不気味なものを感じた。
分かった上で言っているように思えたからだ。そして、もしも分かっている上で言っているのなら……、
“皆を騙して日本社会を崩壊させるつもりでいる事になる”
因みに、これまで、世界秩序は良くも悪くもアメリカ中心で成り立っていた。ところが近年、世界各国が力を付けて来た上に、アメリカが世界秩序を保つ役割から手を引きたがっている気配がうかがえる。
つまり、何十年というスパンで考えるのなら、望むと望まないとに関わらず、反グローバリズムが進むリスクがある。
“リスク回避”という意味でも、エネルギー自給率の向上は重要になって来る。