「もしかしたら俺はお飾りだったんじゃないか?」
半年ほど神隠しにあったように行方不明になっていた友人が今日の夜にひょっこりと僕の家へとやってきた。
家の灯りの下で見る彼の顔は、半年前に比べて幾分か精悍になっているような気がする。
「いままでどこに行ってたんだ?」
僕からの質問に、安物のインスタントコーヒーをやたらと美味そうに飲んでいた彼は、お前ならたぶん信じてくれると思うから話すが、と言ってから話し始めた。
どうやら半年前の夜、仕事終わりにいつものように家でくつろいでいたはずの彼は急に光に包まれ、気が付くと外国の城のような場所に立っていたらしい。
そこで玉座のような立派な椅子に座っていた老年の男性にこう言われたのだ。
「勇者様、どうかこの世界を救ってください。魔王を退治してください」
そこまで聞いた僕は思わず声をあげる。所謂異世界転移というやつじゃないか。
「本当にそんなことがあるんだなあ」
「ああ、俺も驚いたよ」
あまりにも荒唐無稽な話ではあるが、彼は少なくともこんなバレバレの嘘を吐くような奴ではない。だからこそ逆にその言葉は信じられた。
僕は思わず身を乗り出しながら話の続きの促す。
「それで、一体どうなったんだ? やっぱりすごい力を得て魔物をバッタバッタと薙ぎ倒して世界を救ったのか?」
「いや、それが……」
彼は苦笑いをしながら話を続けた。
勇者である彼が来たからなのか、いままで魔物に押されていた兵士や魔物を退治するハンターたちの士気がとんでもなく上がったらしい。
魔物たちの戦線をどんどん追い返し、魔物たちに占領された村や町を解放し、ほかの国との交易を復活させ、魔物たちを魔王のいる魔王領にまで追い込むまで。
否、それどころか……。
「俺が城で剣の振り方を習ってる間に、みんなで魔王を退治したってさ」
俺は一体なんのために召喚されたんだろうなあ、半年間剣を振り続けたせいでタコができて硬くなった手でコーヒーカップを撫で回しながら彼は苦笑していた。