街からの脱出
その後、なんとか事前に買おうと決めていた品々を購入し終えたのは、店が閉まるギリギリだった。
全く、私の意見に逆らうなんて、どう言う教育を今まで受けてきたのかしら。
そうぼやきながらも、私は急かすように荷物をアレンに持たせた。
日が沈みきる前に、街の門を抜けなければ…閉じられたら、今日はもうこの街を出れなくなる。
下手に出たら結界のセンサーが反応して、逆にしばらく街からは出られなくなるし、何より見つかってしまう。
「ほら、急ぎなさいアレン!門が閉まるわよ!」
「言われなくても分かってる……少しは持てよお嬢様」
「…?何で私が?」
何故この男はレディーに荷物持ちをさせようとなさるの?私のこの細くしなやかな腕がどうなっても良いとおっしゃってるの?なんて酷い考えを…
「お前…せめて門の前では持てよ」
それに呆れたように、アレンは返した。
全く、なにを変なことを言うと思えば…
筋肉だけは私よりも立派なのに、アレンは弱音を吐いて普段の足取りよりもノロノロと動いている。
…流石に重そうね。屋敷にあるマジックポーチでも持ってきてたら良かったかしら?まぁ、また買えばいいわ。
それまではアレンが辛抱してくれたら何とかなる。
もしもこの先見つける事が出来たら奮発して差し上げましょう。私は良い主人ですもの。
それからしばらく道なりに進むと、ようやく門へと辿り着いた。
門の前には検問をしている門番が二人。
薄暗くなった空の下で、すでに半分眠たそうに立っていた兵士が、私たちを見るなり眉をひそめた。
何故かしら?やっぱり溢れ出る私の可憐なオーラ…
いえ、この野生児のオーラが目立つのかしら?
門番の一人がじっと私たちを見つめ、問いかける。
「なあお嬢ちゃん、その荷物、全部この男に持たせているのか?」
何故見たら分かることを聞くの…?
もっと意味のある発言をされたら良いのに。
そこで、ハッと気づく。
もしかして、まだ隠し待ってる宝石に勘づいて…!
…この者、只者では無いわね。流石街の出入りを任されているだけあるわ。
何はともあれ、私が何も持ってない事をアピールしなくては。
「当然よ。私が持つなんて、意味が分からないわ。」
「…はぁ、だからちょっとは持てっ言ったろ?」
「何よ!生意気よ!」
せっかく私が金目の物を持っていない事をアピールしているのに、余計な口を挟まないでちょうだい。
私たちが揉めてる間に門番は顔を見合わせて、
何やら小声で話し合い始めた。
「従者にしちゃ、あの男……口の利き方が妙だな」
「奴隷か?いや、あんな身なりはしねえ」
門番はチラリと2人の姿を確認する。
女は本当に質素で動きやすい、冒険をする為の服を着ているし、男も清潔な印象を持たせる。
…だが、この2人は従者関係にしては疑問が残る。
そうしてクルリとまた私の方へ体を向けると、今度はアレンに話しかけ始めた。
「おい、坊主。何でお前が全部荷物を持ってるんだ」
そう言われてアレンは門番と、何やら私に聞こえない様にコソコソと話し始めた。
何なの…もしかして、奴隷を買ったことをバラそうとしているの…?そんな、でもここで下手に止めることは出来ないし。
まさか主人を裏切るなんて…
もっとアレンを手懐けてからここに来るべきだったわ…お父様も、散歩も慣れてから外でしろって言ってたものね…
にしてもチラチラこっち見ながら話すんじゃ無いわよ。イライラするわ。
そんな気持ちを抱きながら、私はアレンと門番の会話が終わるのを待っていた。