表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/25

街に出るための下準備

その後、この私の巧みな話術の手によって

自分の価値をペラペラと惜しみなく喋ってしまった奴隷を、商人が希望する宝石と交換という形で取引が成立した。


結果的に宝石の価値の方が、私が買い取った奴隷よりも若干高かったため、商人はサービスとして市場に出回れば足がつきそうな品々の換金まで引き受けてくれた。


正直なところ、食料やポーションを買うたびに宝石を取り出していたら明らかにおかしい。

このサービスは非常に助かった。2度と会うことは無いけど次にお会いしたら特大のリップサービスをするわ。



まあ。感謝はしても私の審美眼は騙せないので、しっかりとサービスしてもらうからには定価で買い取ってもらった。

私を騙すなど愚か者のする事よ。



少し涙目の商人を他所に、麻袋にそれらを入れて、しっかりと落とさないように仕舞い込んだのを確認して商人の元を去った。


なんとも良い買い物をしたわ。

そこで自分の戦果を思い出す。


「そういえば、貴方の名前は何というのかしら?」


まったく興味が無かったから聞くの忘れてたわ。

このまま外で奴隷として扱ってたら、違法取引したのがバレて捕まっちゃうし。

一応呼び名は知っておくべきよね。



しかし、男奴隷は眉をひそめ、不機嫌そうにプイッと目をそらした。口を開く気配はまるでない。


「…聞こえなかったかしら、名前は何というの?」


男は無言のまま、ますますそっぽを向く。

体ごと他所を向く勢いだ。

何でコレは主人に対してここまで忠誠心が無いのかしら。今まで私の下にいた従者は絶対に無視をすることは無かったというのに…


「私に対して何て無礼…不敬よ!」


「おー、そうですか。よかったな」


私の思わず出た苛立ちに気を良くしたのか、やっと目が合った男の薄笑いに、思わず眉をピクピクと動かしてしまう。


「なんて生意気な…!主人の命令には従いなさいな!」


「従いたくなるほどの威厳があれば考えるがな」


この男…やっと口を開いたかと思えば、憎たらしい言葉ばかり吐き出す。

いったいどんな教育を受けてきたのかしら、と呆れを通り越して興味が湧いた。だって周りにはお上品なお坊ちゃましかいなかったので。


そう思いながら、改めて自分の買った奴隷の姿をじっと見つめる。

あんな劣悪な環境にいたにも関わらず、筋肉はしっかりとついていて、背丈も十分にある。

もしかすると、入荷したばかりで反抗心が強いのかもしれない。元気なのを選んだら、そんな弊害がつくのね。覚えときましょう。


そんな考えが頭を巡ったところで、ふと気づいた。

こいつ…ものすごく汚れていて、埃や泥にまみれている。あらやだ、私はこんな方の隣にいたというの?


「ちょっと貴方…、流石に汚すぎないかしら?そこの川にでも飛び込んで行きなさいな」

「失礼すぎねぇか?お嬢様」


でも、汚いものは汚いわ。

私もさっきまで泥を被る決意はしてたけど、やっぱりやめておこうかしら。


「このまま街に出たらいかにも奴隷を買いましたって教えて歩く物じゃないの」

「事実だろ」


すると男は自分が汚れてることで私がピンチになると気付いたのか、もっとニヤニヤして私のことを笑って来た。

なんか、イメージと違うわ。

もっとこう、主人の命令には逆らわない物じゃないの?


「ちょっと…せめて落ち切らなくても、身体中の泥は落として来なさいな。臭いわ。街に出たら絶対に臭さでも目立つわ。貴方が」


ただでさえ目立つのは今の場所では勘弁したいのに、

こんな初歩的なミスでこの自由を手放す訳にはいかないのよ。

「………チッ」


すると、私の切実な思いが伝わったのか、奴隷は舌打ちをしながら川へと向かった。正直舌を引っこ抜いてやろうかと思ったけど、私は寛大ですもの。

今は見逃してやるわ。ええ…


そう考えている割には、イリスの目はビキビキと力が入っており、ブチギレてるのが丸わかりだった。



少し待つと、奴隷の男は川から戻ってきた。

髪から水を滴らせながらも、さっきまでの薄汚れた姿はすっかり影を潜めている。

泥だらけだった顔もちゃんと洗われていて、私には負けるけれど―思ったよりも、悪くない顔立ちをしていた。


「……あら。あなた、思ったよりソコソコの顔をしてたのね」

私は思わず感想を口にする。

「とてもお買い得だったから、てっきり人気が無いのかと思ってたわ」


男は烏の濡れ羽色の前髪を指でかき上げながら、じとっと私を見下ろすように笑った。


「そうですね。まぁまぁのお嬢様にそう言ってもらえて、光栄です」


その一言に、私の眉がピクリと跳ねる。


「……なんですって?」


思わず一歩踏み出して、男の胸を指でぐりぐりと突く。


「まぁまぁ? 誰がまぁまぁですって? 私ほど完璧に淑女な人間がどこにいるのよ!」


「へぇ……そうか。じゃあ完璧なお嬢様が奴隷なんて買うんだな。面白いなぁ」


「~~~っ!不敬よっ!」


一体何なのこの男。やっと汚れを落としたと思ったら、口の悪さまで一緒に洗い流してくればよかったのに!人気が無い理由が分かったわ!


思わずもっと噛みつきそうになる言葉を飲み込み、私は大きく息を吸い込んだ。


「うぐぐっ…まぁいいわ。適当に乾いたら、ここからもう少し離れた場所の宿屋にでも行くわよ」


そこで落ちきれなかった汚れも落とさせて、石鹸でも使ってゴシゴシしとけば残った性格の悪さもマシになるでしょう。


「おー…!お嬢様にもそんな寛大な心がお有りで」

「ムカつく言い方をしないでちょうだい!!」


そんな小競り合いをしながら移動して数時間後。

違和感がないぐらいには乾いた為、宿屋へと泊まる事にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ