真の目的
獣道を抜け、ようやく辿り着いた村の入口。
私達はモンスターを一通り倒し終える事が出来た為、報告のために戻ってきていた。
しかし、私の足取りは明らかに重く、額には細かな汗が光っていた。呼吸も荒く、肩で息をしているのが分かる。髪は乱れ、少しだけほころびたズボンの裾が草に引っかかっている。
…普段の完璧な姿からは程遠いですわね。
ちょっと魔力を使いすぎたかしら…まぁ、私の偉大さの為なら必要なことでしたわね。それに乱れたのなら直せばいいのよ。このまま人前に出る必要など無いわ。
一方、アレンはまるで戦闘前のように涼しい顔をして、汗ひとつ見せていない。剣も鞘に収められ、姿勢も乱れない。泥や血の跡もなく、まるで森を散歩してきたかのような落ち着きだ。
私はふとアレンの姿を見て、思わずため息をつく。
「貴方は……まったく、疲れを知らないのですわね」
やっぱりシティーガールの私と比べたら、野生児は本当に逞しくて、そこだけ羨ましいですわね。
もはやサボっていたのでは無いかと疑うぐらいですもの。
ですが、今回はしっかり働いていたのは確認しましたし、褒めてあげても…
…いえ、そう言えば私この奴隷に騙されてここまで来ていたんだったわ。なんて最低な奴隷なの。取り消しましょう。
危ない所でしたわ、コレに流される所でしたもの。
そんな事を考えてると、アレンは私から顔を背けて、ボソリと呟く。
「……お嬢様の結界に助けられたからな。俺は動きやすかっただけだ」
まぁ…今何と?
「まぁ…そんな、貴方…
いったいどうなさったの?何か毒でも浴びまして?
さっさとそこら辺の草でも食べて解毒なさい」
急になんなのかしら、今までの生意気な態度を急に変えられるなんて…気味が悪いわ。
医者がいるなら見てもらいましょう。
きっと体調が悪いな違いないわ。
「…嘘に決まってるだろ」
「まあ…!主人に偽りを付くなんて、なんて酷い方なの。不敬よ!」
心配してあげたのに何て事を言うのよ。やっぱり何か裏があると思いましたわ、私を騙した挙句に偽ろうなんて。
本当にいつになったらこの奴隷は私の偉大さにひれ伏す時が来るのかしら。
アレンは私の言葉に軽く鼻で笑い、眉をひそめて呟いた。
「どっちが酷いんだよ……」
せっかく、イリスの事を素直に認めてやったのにコレである。この調子だと、アレンが素直にイリスに従うのは、まだまだ先の出来事になりそうであった。
そして、ふと視線を前に向ける。
その顔は何か企んでいる様子が伺えられ、イリスはまた何か自分の気に食わない発言をするのでは無いかと心構えをした。
しかし、その予想は外れた。
「ほら、村についたんだ。…さっさと俺たち"二人"への恩を売り渡しに行くぞ」
「…恩を売り渡す?」
あら、どういう意味なのかしら?
さっきは信用を得て私の偉大さを分からせるのが目的だと言ってたじゃ無い…?
「あぁ、そうだ。俺たちは村を救った恩人だ。歓迎されて当然だろう?宿も物資も、遠慮なく頂いてやろうぜ」
アレンの言葉に私は眉をひそめる。
まぁ、私に詳しく説明しないでそんな悪い考えをお持ちだったなんて…なんて野蛮なのかしら。
そんな…人々が困っていることに漬け込んで
…本当になんて身勝手な人なの。
「…めちゃめちゃ面白いじゃない?」
なんて面白い事を考えつくのかしら。素晴らしいわ。
これが悪い大人の考え方というものね。
私そう言うのに凄く憧れておりましたの。すごくスリルがあるじゃない。
「そうね。アレン、存分に恩を売るわよ。私の名声にひれ伏す時が待ち遠しいわ」
「お嬢様の名声があれば、確かに敵なしだな」
そうよ、そう。思えば私に対して何も知らなかったとは言え槍の切先を向けてきていた者もいたわね。万死に値するわ。
存分にからかってやりましょう。
「行くわよアレン。私は妥協はしないわ」
「楽しそうで何よりだ」
アレンが笑みをこぼしながら歩き出した。