小さな村でのトラブル
夜が明け、山に実っていた木の実など簡単な朝食を済ませると、二人はまた歩き出した。
ちなみに木の実の採取も面白い事に含まれていたらしく、アレンは道中でネチネチ言われていた。
山道は冷たい空気と、夜露を含んだ草の匂いが漂っている。
焚き火で温まった身体はすぐに冷え、私はアレンから奪った…いえ譲ってもらったフードの端をぎゅっと握りしめて黙々とついていく。
「足元に気をつけろ。転ぶなよ」
先を歩くアレンが、振り返りもせずにそう言う。
…少しは振り返って確認なさいな。
私はしっかり歩けていることを、わざと地面をしっかりと踏みしめ音を立てることで教えてあげてた。
「分かってるわよ」
「そりゃ良かった」
本当にもう、働きを評価してあげようとしたら、いつもコレなのだから…ここが屋敷なら今頃クビになっててもおかしく無いわ。
本当に運が良い方ね。
そうして歩き続け、昼を少し過ぎた頃、
ようやく山の中腹にひっそりと立つ村が見えた。
石垣と古い木の家々。ひっそりと立ち上る炊事の煙。
人影が見えたとき、思わず私は笑顔になった。
「ようやく人里ね!」
まさかここまで自分の足でこれるとは、思ってなかったわ。私もやれば出来るものね。
…だがアレンは村の様子を一瞥しただけで、眉をひそめていた。
村の入口には、普段なら不要なはずの簡易な柵が立てられ、中では人々が修繕をしているのか、あちこちで木材を運ぶ声が飛び交っていた。
アレンとイリスが近づくと、粗末な槍を持った村人の一人がこちらに目を光らせる。
「止まれ…!今は余所者を入れる事は出来ない。立ち去って貰おうか」
まぁ…私がまだ何も言ってないのに話しかけてくるなんて…こう言うこともあるのね。
この奴隷は置いといて…ずっと私の方が偉かったから失念しておりましたわ。今は身分制度が強くない世界におりますものね。
それにしても…
「……何ですの、この歓迎の無さは」
街の外の方はみんなこの様な方なのかしら…
もしかして私の高貴さが受け付けられない…?
確かにこの様な場所に私の様な淑女が来ることなど今まで無かったでしょうから、仕方ないわね。
そんなイリスにアレンは低くため息をつき、耳打ちをする。
「多分、何かあったな……。余所者に構ってる余裕がねぇ。見てみろ、荒らされた形跡がある」
そう言われてみれば、村人の足元には、引き裂かれた網や壊れた木箱が積まれている。
遠目に見える家屋の壁にも、何かに引っかかれたような跡があった。
「……モンスターか」
「え?」
もしかして、この村では結界が張られて無いのかしら?なんて不用心な。
お屋敷に使用人を置かずに外出するのと同じだわ。
「まさか、ここで一休みしてから行こうと思ってたのに……!」
「状況次第じゃ、休むどころじゃねぇな。ここにいるなら、何かしないといけない」
アレンはそう、淡々と私にとって絶望的な可能性を口にした。
私…あの中に混じって木とか運べるかしら…?
そう、自分の白く綺麗な腕を見つめて考え込んだ。