第七章「拒絶された名前たち」
世界は、名前でできている。
神。人間。敵。味方。生と死。
名付けた瞬間、それは“そういうもの”になる。
そして──名前を拒まれたものは、存在すら許されなくなる。
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◇
「抗うって言ったよな、お前」
封神領域から戻った翌朝、レンがそう言ってきた。
ヨモツはその言葉に、答えずに歩を止める。
「俺は、もう選んでるつもりだったんだ。
神になって、“人類の希望”として、再起ノ宮を守る。それが正しいって」
レンの声に、いつになく迷いが混じっていた。
「でも……あの“名前を持たなかった者”と目を合わせたとき、わからなくなった。
俺たちが神になって、何を救うつもりだったのか」
「……だからって、全部否定するのは違ぇよ」
ヨモツは呟くように言った。
「お前は、お前なりに“信じてた”んだろ。
それは、それでいい」
「……ヨモツ、お前……」
「でも、俺は違う。
“選ばされた道”の上で、生きるつもりはねぇ」
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◇
その日の午後。
再起ノ宮の“名簿データ”が、突如としてバグを起こした。
神格適合者の一覧から、複数の名前が消えていた。
いや──**“名前が書かれていない者”が混じっていた。**
「……コード改ざん?」
「違う。最初から、“名前を登録されてない存在”がここにいるってこと」
カナメが静かに呟いた。
「でも、それって……」
ヨモツが言いかけたそのとき、空間が“揺れた”。
鳴動。警報。空間の一部がひび割れ、別の位相が顔を覗かせる。
現れたのは、装甲もスーツも纏わない、ただの人型。
男女の区別も、年齢も、属性もわからない。
ただ、そこに“いる”だけの存在。
「お前……誰だ」
ヨモツの声に、そいつは首を傾げた。
「“誰”って……言われたくないんだけどな」
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◇
数秒の沈黙の後、そいつは喋り始めた。
「俺たちは、“拒絶された名前たち”さ。
神でもなく、人でもなく、敵でもない。
再起ノ宮が、“定義できなかった連中”の残滓」
「じゃあ、お前らは何がしたい」
ヨモツの問いに、そいつは笑ったような素振りを見せた。
「さあ?ただ、君らが何を選ぶのか、ちょっと気になっただけだよ」
「気になる、ね……」
ヨモツの中で何かが燃えた。
誰にも名前を与えられず、分類されず、存在ごと“なかったこと”にされてきた者たち。
その者たちが今、“ただ見ているだけ”の立場で、ヨモツたちに問いを投げている。
──何者になるつもりだ?
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◇
その夜、再起ノ宮の中枢にひとつの命令が走る。
《神環計画 進行フェーズ 第弐段階》
《転生者のコード安定度を強制スキャン》
《適合度70%未満の者は、全員“神環コア”へ転送》
それは、“神になりきれなかった者たち”の選別開始を意味していた。
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◇
翌朝。
カナメの名前が、名簿から消えていた。
ヨモツは、それを見た瞬間、何も言わず走り出した。
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➤ つづく




