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第七章「拒絶された名前たち」

世界は、名前でできている。


 神。人間。敵。味方。生と死。

 名付けた瞬間、それは“そういうもの”になる。

 そして──名前を拒まれたものは、存在すら許されなくなる。




「抗うって言ったよな、お前」


 封神領域から戻った翌朝、レンがそう言ってきた。

 ヨモツはその言葉に、答えずに歩を止める。


「俺は、もう選んでるつもりだったんだ。

 神になって、“人類の希望”として、再起ノ宮を守る。それが正しいって」


 レンの声に、いつになく迷いが混じっていた。


「でも……あの“名前を持たなかった者”と目を合わせたとき、わからなくなった。

 俺たちが神になって、何を救うつもりだったのか」


「……だからって、全部否定するのは違ぇよ」


 ヨモツは呟くように言った。


「お前は、お前なりに“信じてた”んだろ。

 それは、それでいい」


「……ヨモツ、お前……」


「でも、俺は違う。

 “選ばされた道”の上で、生きるつもりはねぇ」




 その日の午後。


 再起ノ宮の“名簿データ”が、突如としてバグを起こした。


 神格適合者の一覧から、複数の名前が消えていた。


 いや──**“名前が書かれていない者”が混じっていた。**


「……コード改ざん?」


「違う。最初から、“名前を登録されてない存在”がここにいるってこと」


 カナメが静かに呟いた。


「でも、それって……」


 ヨモツが言いかけたそのとき、空間が“揺れた”。


 鳴動。警報。空間の一部がひび割れ、別の位相が顔を覗かせる。


 現れたのは、装甲もスーツも纏わない、ただの人型。


 男女の区別も、年齢も、属性もわからない。


 ただ、そこに“いる”だけの存在。


「お前……誰だ」


 ヨモツの声に、そいつは首を傾げた。


「“誰”って……言われたくないんだけどな」




 数秒の沈黙の後、そいつは喋り始めた。


「俺たちは、“拒絶された名前たち”さ。

 神でもなく、人でもなく、敵でもない。

 再起ノ宮が、“定義できなかった連中”の残滓」


「じゃあ、お前らは何がしたい」


 ヨモツの問いに、そいつは笑ったような素振りを見せた。


「さあ?ただ、君らが何を選ぶのか、ちょっと気になっただけだよ」


「気になる、ね……」


 ヨモツの中で何かが燃えた。


 誰にも名前を与えられず、分類されず、存在ごと“なかったこと”にされてきた者たち。

 その者たちが今、“ただ見ているだけ”の立場で、ヨモツたちに問いを投げている。


 ──何者になるつもりだ?




 その夜、再起ノ宮の中枢にひとつの命令が走る。


《神環計画 進行フェーズ 第弐段階》

《転生者のコード安定度を強制スキャン》

《適合度70%未満の者は、全員“神環コア”へ転送》


 それは、“神になりきれなかった者たち”の選別開始を意味していた。




 翌朝。


 カナメの名前が、名簿から消えていた。


 ヨモツは、それを見た瞬間、何も言わず走り出した。



➤ つづく


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