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第六章「封神領域 -零-」

再起ノ宮の南端に、誰も立ち入らない封鎖区画がある。

 公式には「老朽化したデータ処理層」とされていたが、真実は違った。


 そこには、人知れず“神ではない力”が眠っていた。




「……なあ、あのとき、なにを見た?」


 夜。再起ノ宮の中庭。

 沈黙を破ったのは、大伴レンだった。


 星のない空。電子空間上に存在するはずなのに、月の気配すら感じる夜だった。


 レンは手に一枚のチップを持っていた。真っ黒なデータキー。


「ヨモツ。お前にだけは、これを見せておきたい」


 差し出されたそれは、ただの記録媒体──のはずだった。

 だが、開いた瞬間、映し出されたのは、


 “神ではない者”が動いている映像だった。




 数時間後、南ゲート前。

 再起ノ宮の内部でも立ち入りが禁じられた区域。


 そこにいたのは、ヨモツ、レン、そして――


「……お前も来たのか、カナメ」


「当然でしょ。私だって“神を名乗らされた”側」


 淡々と告げるカナメの声には、怒りも感情もなかった。

 それでも、彼女の背後には、いつも“熱のない光”が揺れているようだった。




 封鎖ゲートを抜けた先、そこは“静かすぎる世界”だった。


 白と黒しかない、配色の狂った空間。

 床の模様は、日本神話に登場する「封」の紋。

 壁には誰のものかもわからない“名前”が刻まれていた。


 ヨモツがひとつ触れると、光が漏れた。


「……これは……?」


「“神になれなかった魂”だ」


 レンが言う。


「選別に失敗したコード。

 再起ノ宮の適合試験で、神格に拒まれた魂たちの残渣だよ」


「捨てられたってことかよ」


「違う。“封じられた”んだ」




 さらに深部へと進む。


 巨大な扉が見えてくる。

 その中心にだけ、“名前のない紋”が刻まれていた。


 まるで、意味を持たない象徴。

 神でも、人でも、敵でもない……何か。


 そのとき、誰も触れていないのに、扉が――開いた。


 淡い光。

 その中に、声が響く。


『ようこそ。拒まれた君たちへ』


 空間に浮かんでいたのは、“人のようなもの”だった。


 輪郭が不明瞭で、目や口はない。

 けれど、確かに“何かを伝える意志”を持っていた。




『君たちは、“神にされた存在”だ。

 選ばれて、役割を押し付けられた。力と共に、祈りと名前を刻まれた』


『だがここには、“選ばれなかった魂”が眠っている。

 誰にも信仰されず、誰にも使われず、ただ“そのまま”であった者たちだ』


「……じゃあ、お前は?」


 ヨモツが問う。


『私は、“かつて神と呼ばれかけて、拒んだもの”』


『神にされたくなかった。意味も、名も、役割も──要らなかった。

 だから、忘却される場所に戻ってきた。それが、ここだ』


「お前は、敵か?」


『違う。私は“否定”だ』




「お前……シビラントと関係があるのか?」


 レンが一歩踏み込む。


『あるとも言えるし、ないとも言える。

 彼らも“神になれなかった何か”の末路だからな』


「何が言いたい」


『君たちは、選べる。

 名前を宿し、世界の一部として生きるか。

 名を捨てて、誰にも支配されないまま消えるか。』


『選ぶのは、魂そのものの意思だ。外側ではなく、内側の決断だ』




 沈黙が降りた。


 レンは目を伏せる。

 カナメは、少しだけ目を見開いていた。


 ヨモツだけが、声を絞り出すように呟いた。


「……ふざけんなよ。どっちも、選びたくねぇよ」


『ならば、抗うか? “神であること”にも、“無であること”にも』


「……ああ。俺は俺のまま、生き残る。

 名を背負ってでも、失ってでもいい。

 でも、“お前らが決めた選択肢の中”だけじゃ、終われねぇ」


 その言葉に、周囲の空気が震えた。


 光が割れる。


 “第零層”が動き出す。



➤ つづく


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