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第五章「神にされた者たち」

人が一人、消えた。

 魂ごと、飲み込まれた。


 それは、「死」よりもずっと静かな出来事だった。

 叫び声も、血の色も、何も残らなかった。




 事件から二日が経った。

 再起ノ宮の訓練区域は封鎖され、全員が寮内待機を命じられている。


 廊下には人気がない。

 ただ、神環の制御装置が吐くかすかな電子音だけが響いていた。


 ヨモツは、個室のベッドに背を預けたまま、動けずにいた。


 目を閉じると、あの瞬間が蘇る。

 仲間の魂が砕け、光になって消える場面。

 助けられなかった。いや、なにもできなかった。


(……あれが、“死”ってやつかよ)


 彼は一度死んでいる。

 でも、あのときは何も感じなかった。ただ意識が遠のいていっただけだ。

 だからこそ──あれを目の前で“見てしまった”ことが、ずっと重くのしかかっていた。




 その日の夕刻、呼び出されたのは、特別区域──

“神格保管室”。


「ここに来るのは、初めてだな」


 そう口にしたのは、案内役を買って出たカナメだった。


 神格保管室は、かつて“神”と呼ばれた存在たちのコードが格納された中央棟。

 転生適合者たちが力の断片を引き継ぐその根源が眠る場所。


 中は静かで、冷たい。


 まるで墓地のように、数百もの“記号化された魂”が並んでいた。

 それぞれにラベルが貼られている。


アマテラス/継承率42.3%/安定状態

スサノオ/継承率81.9%/不安定・荒御魂化

タケミカヅチ/継承率76.4%/抑制済み


 ヨモツは、自分の名がそこに並んでいることに、微かな嫌悪を覚えた。


「……まるで、展示物だな」


「神にされた者の末路、よ」


 カナメが言った。


「この部屋に並ぶのは、かつての神じゃない。

 人間たちが、“そう名付けた力の塊”よ。

 本当は、誰かの感情や祈りが集まってできただけの、ノイズみたいなもの」


「じゃあ、俺たちは何だ?」


「それを“まとって生き直す”実験体。

 再起ノ宮は“神を生み出す工場”なの」




 ヨモツは気づいてしまう。


 ここにいる全員は、“神を継ぐため”に死んだのではない。

 “神を作るため”に死を利用されたのだ。


「……ふざけんなよ」


 誰が、そんなことを望んだ。

 誰が、神なんかになりたかった。


 怒りが、また身体の奥から湧いてくる。

 だがカナメは、それを遮るようにそっと言った。


「だから、選ぶの。

 神になるか、人のままで抗うか。

 その選択だけは、魂が自由であるべきだと、私は思ってる」


 ヨモツはその言葉に、はじめて“光”を感じた気がした。




 その夜。

 ヨモツの部屋に、誰かが立っていた。


「……久しぶりだな、ヨモツ」


 それは、大伴レンだった。

 いつも以上に静かな表情で、彼は一通のデータチップを差し出した。


「これを見ろ。……オレたちが立ってる“地面の下”の話だ」


 そのチップには、“再起ノ宮の地下”にある 第零層【封神領域】の存在が記されていた。


 そこには、、、

 “神ではない力”が眠っているという。


➤ つづく


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