第五章「神にされた者たち」
人が一人、消えた。
魂ごと、飲み込まれた。
それは、「死」よりもずっと静かな出来事だった。
叫び声も、血の色も、何も残らなかった。
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◇
事件から二日が経った。
再起ノ宮の訓練区域は封鎖され、全員が寮内待機を命じられている。
廊下には人気がない。
ただ、神環の制御装置が吐くかすかな電子音だけが響いていた。
ヨモツは、個室のベッドに背を預けたまま、動けずにいた。
目を閉じると、あの瞬間が蘇る。
仲間の魂が砕け、光になって消える場面。
助けられなかった。いや、なにもできなかった。
(……あれが、“死”ってやつかよ)
彼は一度死んでいる。
でも、あのときは何も感じなかった。ただ意識が遠のいていっただけだ。
だからこそ──あれを目の前で“見てしまった”ことが、ずっと重くのしかかっていた。
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◇
その日の夕刻、呼び出されたのは、特別区域──
“神格保管室”。
「ここに来るのは、初めてだな」
そう口にしたのは、案内役を買って出たカナメだった。
神格保管室は、かつて“神”と呼ばれた存在たちのコードが格納された中央棟。
転生適合者たちが力の断片を引き継ぐその根源が眠る場所。
中は静かで、冷たい。
まるで墓地のように、数百もの“記号化された魂”が並んでいた。
それぞれにラベルが貼られている。
アマテラス/継承率42.3%/安定状態
スサノオ/継承率81.9%/不安定・荒御魂化
タケミカヅチ/継承率76.4%/抑制済み
ヨモツは、自分の名がそこに並んでいることに、微かな嫌悪を覚えた。
「……まるで、展示物だな」
「神にされた者の末路、よ」
カナメが言った。
「この部屋に並ぶのは、かつての神じゃない。
人間たちが、“そう名付けた力の塊”よ。
本当は、誰かの感情や祈りが集まってできただけの、ノイズみたいなもの」
「じゃあ、俺たちは何だ?」
「それを“まとって生き直す”実験体。
再起ノ宮は“神を生み出す工場”なの」
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◇
ヨモツは気づいてしまう。
ここにいる全員は、“神を継ぐため”に死んだのではない。
“神を作るため”に死を利用されたのだ。
「……ふざけんなよ」
誰が、そんなことを望んだ。
誰が、神なんかになりたかった。
怒りが、また身体の奥から湧いてくる。
だがカナメは、それを遮るようにそっと言った。
「だから、選ぶの。
神になるか、人のままで抗うか。
その選択だけは、魂が自由であるべきだと、私は思ってる」
ヨモツはその言葉に、はじめて“光”を感じた気がした。
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◇
その夜。
ヨモツの部屋に、誰かが立っていた。
「……久しぶりだな、ヨモツ」
それは、大伴レンだった。
いつも以上に静かな表情で、彼は一通のデータチップを差し出した。
「これを見ろ。……オレたちが立ってる“地面の下”の話だ」
そのチップには、“再起ノ宮の地下”にある 第零層【封神領域】の存在が記されていた。
そこには、、、
“神ではない力”が眠っているという。
➤ つづく




