第四章「外部侵食者《シビラント》」
昼。再起ノ宮、南エリア。
その訓練場の外れで、小規模な爆発が起きた。
煙。雷。崩れる外壁。
けれどそれは、訓練ではなかった。
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◇
「なあ、カナメ……これ、やばくね?」
「コード反応が“人間型”じゃない。侵入体だわ」
二人が立つのは、南区の監視塔。
突如、周囲の結界が軋み、空間にヒビが入る。
その裂け目から、**黒い粘膜のような“何か”がにじみ出てきた。
一瞬、空気が重くなる。
「……気持ち悪っ」
ヨモツが呟いた瞬間、その“影”が跳んだ。
人の形を模した粘体──だが、顔がない。腕が複数。足はなかった。
その存在は、空中にコード文字のような“記号”を走らせながら、加速度的に膨張した。
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《シビラント──コード捕食体(Code Predator)》
《任務:人類転生体の魂コードを破壊・吸収せよ》
それは、“転生者の魂”そのものをエネルギー源として食う外宇宙生命体。
神話やコードなど通じない、“物理”でも“精神”でもない侵食存在。
再起ノ宮の監視が破られた。
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◇
「アレ、ヤベェぞ。
……オレの雷が通らねえ。神格コードが食われる……!」
レンの目に、恐怖が走った。
彼の技──タケミカヅチの神雷が、シビラントの体に触れた瞬間、
逆に“雷属性の神コード”だけが吸収されていた。
「……マジかよ。能力を“喰われる”?!」
ヨモツも応戦する。
「嵐神、展開!」
スサノオコードが爆発的に放出され、剣が雷光を帯びる。
斬る──
が、斬った感触がない。
刀身が、影の粘膜に“ズブズブ”と沈み込み、コードそのものが溶かされていく。
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◇
「ッ……ぐ、うぁあああ!!」
コード過負荷。
ヨモツの視界が赤に染まる。
その隙をついて、シビラントの触手が、ある人物に襲いかかった。
「──え……?」
その子は、まだ転生して間もない新人だった。
名前も、知らない。
けれど、彼女の魂コードが“引きちぎられる”瞬間を、ヨモツは確かに見た。
叫び声も出ない。
少女の身体が、砂のように“崩れていく”。
──魂ごと、消えた。
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目の前で、人が消えた。
神を持った、同じ“死者”が。何の抵抗もなく。
怒りでも、恐怖でもなかった。
ただ、空虚だった。
「……なんだよ、これ」
「俺たちは……神ですらないのかよ」
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◇
その瞬間、五十鈴カナメが飛び込んできた。
彼女の手には、太陽を象った装甲。
アマテラスコードが、全身から光を放つ。
――焼き払え。
存在そのものを、認識できないように。
「《天照反転》──発動」
カナメの放った光線が、影の侵食体を包み込んだ。
その光は、物理ではなく、“記憶”を焼いた。
──シビラントは、一時的に消滅した。
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◇
戦闘は終わった。
だが、残ったのは虚無だった。
人は死ぬ。
神になっても、守れない。
ヨモツは、崩れかけた訓練場の片隅にしゃがみ込む。
拳が、微かに震えていた。
「……オレは、何のために生き返ったんだよ」
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➤ つづく