第三章「神々の学級裁判」
翌日、教室の空気は、妙に重かった。
机の並びは和式。畳の上に木製の長机。
そこに座る“死者たち”の表情は、いずれも無言で張り詰めていた。
「……マジで、あの暴走……ヤバかったろ」
「神格適合者って、ああいう奴も含まれてるのかよ……」
「てか、スサノオって“破壊神”だろ? 不吉すぎんだよ……」
聞こえる声は、すべてヨモツへの警戒だった。
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◇
ヨモツは、教室の一番後ろに座っていた。
周囲の視線。
壁に貼られた「適合者リスト」には、**“スサノオ ─ 危険度A”**の赤い文字。
(……チッ)
舌打ちしたくなるのを抑える。
実際、昨夜の暴走は抑えきれなかった。
剣を振った瞬間、意識が途切れ、気づいたときには演習場が一部崩壊していた。
「自覚はあるのか、天海ヨモツ」
響いた声は、冷たく硬質だった。
現れたのは、生徒会のような存在=“八神審議会”。
神格適合者の中でも、高い精神制御力と戦績を持つ者だけが所属できる、内部組織。
その筆頭が、大伴レン──タケミカヅチのコードを継いだ、雷の使い手。
ヨモツのかつての親友だった。
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◇
【レン】「暴走したお前のせいで、演習場は封鎖、再起ノ宮の管理コードも一時停止。
“神”を宿す覚悟もないくせに、チカラだけ持ってんじゃねえよ」
【ヨモツ】「……ああ? こっちは好きで宿されたわけじゃねぇ」
【レン】「言い訳は聞いてねえ。
オレたちは“人類の代表”として、ここで魂を進化させる義務があるんだ。
暴走する奴は──いらねえ」
教室にざわめきが広がる。
「処分すべきだ」
「せめて、一時的に拘束すべき」
「コードの剥奪も……」
神々の学級裁判が、始まった。
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◇
だがその中で、一人だけ、真っ直ぐな声を放った者がいた。
「待ってください」
それは――五十鈴カナメだった。
「彼は“抑えた”。本当に暴走したなら、死人が出ていたはず」
ヨモツが目を見開く。
意外だった。誰よりも冷たいと思っていた彼女が、擁護するとは。
「コードは“自我”を試すもの。制御できるかどうかは、これからよ。
それを試す前に、切り捨てるのは――ただの恐怖でしょ?」
静かな教室に、言葉が刺さる。
【レン】「……カナメ、お前、アイツの味方すんのか」
【カナメ】「味方じゃない。ただ、見てるだけ。
彼が壊すのか、変えるのか。見届ける価値はあると思うから」
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◇
結局、ヨモツは「条件付き」で放免された。
•神格使用制限付きの監視対象
•再構成訓練プログラムへの強制参加
•今後の暴走時は“魂コード削除”の可能性あり
まるで仮釈放された囚人のようだった。
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◇
その夜、再起ノ宮の最上階。
誰もいないはずの“観測室”で、異変が起きていた。
モニターに浮かぶ「スサノオコード」の波形に、ノイズが混じる。
そこに現れた影は、人ではなかった。
人の姿を模した何か。
その顔には、目も口もない。ただ、“記号”が刻まれている。
《観測開始。文明捕食体、起動準備完了》
《再起ノ宮の“神格体”──適合率99%以上、捕食価値あり》
記録されることのない、“神ならざるモノ”の接近が始まっていた。
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➤ つづく