第二章「光は冷たい」
神は、生まれ変わる。
だがそれは、祝福ではなかった。
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◇
翌日。
再起ノ宮の朝は、人工的な光と共に始まる。
天海ヨモツは、目覚めた直後から“異常な静けさ”を感じていた。
寮室。畳と畳の隙間に埋め込まれた発光ラインが、優しく脈動している。
「……夢じゃ、なかったか」
身体を起こすと、天井には薄く透ける神紋が刻まれていた。
“スサノオコード”──昨日の戦闘以降、彼の魂に刻まれた「神の型」。
拳を握る。微かに、雷のような疼きが走った。
(あれが……オレの、神?)
受け入れられるはずがない。
けれど、否定することもできない。
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◇
朝の訓練。
校庭では、すでに“神格適合者”たちの模擬戦が始まっていた。
無数の神装甲を纏った少年少女たちが、神話的な武具や能力を駆使して戦う。
炎、雷、氷、音、影――
その中で、異質な存在が一人、目を引いていた。
――五十鈴カナメ。
長い黒髪。透き通るような肌。無表情のまま、敵を焼き尽くす。
「アマテラス適合者……か」
教官がつぶやく。
彼女は、完全適合者。
“神の自我”をほぼ完全に継承した、希少な存在だった。
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◇
昼休み、食堂。
ヨモツが配膳を受け取った瞬間、ふと視線を感じた。
「……おまえ」
声をかけてきたのは、五十鈴カナメだった。
「昨日の戦い。スサノオの神格反応。あなたよね?」
「……あんたは?」
「五十鈴カナメ。アマテラス適合者」
「はぁ。で、何の用?」
「確認。あなたは、スサノオに呑まれてない。珍しい」
冷たい声だった。だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
「俺は別に、神になりたかったわけじゃない。勝手に宿られたんだ」
「そう。けれど神は、選ぶ。宿る魂を。
あなたは、破壊を選んだ。私とは、正反対」
「……なんか、勝手に決められてムカつくな」
ヨモツは言う。だが、その目はカナメの目と重なった。
光と闇。
太陽と嵐。
アマテラスとスサノオ。
二人はこの瞬間、運命の輪の中で交差した。
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◇
その夜、校舎裏の“神具演習場”。
ヨモツは一人、剣を構えていた。
スサノオコードが作り出す、雷の刃。
振るうたびに、感情が渦を巻く。
「怒ってるのか? オレが……全部に?」
父親に殴られた過去。
誰にも助けてもらえなかった中学時代。
死んだときですら、誰もオレを泣かなかった。
その痛みが、雷になって、剣に宿る。
「だったら……こんな神、いらねぇよ」
振り下ろす。
雷鳴が、夜の空を裂いた。
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◇
遠くから、その姿を見つめていた少女がいた。
五十鈴カナメは、わずかに唇を動かした。
「……私も同じ。
この光が、暖かかったことなんて、一度もなかった」
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➤ つづく