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第二章「光は冷たい」

神は、生まれ変わる。

 だがそれは、祝福ではなかった。




 翌日。

 再起ノさいきのみやの朝は、人工的な光と共に始まる。


 天海ヨモツは、目覚めた直後から“異常な静けさ”を感じていた。

 寮室。畳と畳の隙間に埋め込まれた発光ラインが、優しく脈動している。


「……夢じゃ、なかったか」


 身体を起こすと、天井には薄く透ける神紋しんもんが刻まれていた。

 “スサノオコード”──昨日の戦闘以降、彼の魂に刻まれた「神の型」。


 拳を握る。微かに、雷のような疼きが走った。


(あれが……オレの、神?)


 受け入れられるはずがない。

 けれど、否定することもできない。




 朝の訓練。

 校庭では、すでに“神格適合者”たちの模擬戦が始まっていた。


 無数の神装甲ギアを纏った少年少女たちが、神話的な武具や能力を駆使して戦う。

 炎、雷、氷、音、影――


 その中で、異質な存在が一人、目を引いていた。


 ――五十鈴カナメ。

 長い黒髪。透き通るような肌。無表情のまま、敵を焼き尽くす。


「アマテラス適合者……か」


 教官がつぶやく。


 彼女は、完全適合者。

 “神の自我”をほぼ完全に継承した、希少な存在だった。




 昼休み、食堂。


 ヨモツが配膳を受け取った瞬間、ふと視線を感じた。


「……おまえ」


 声をかけてきたのは、五十鈴カナメだった。


「昨日の戦い。スサノオの神格反応。あなたよね?」


「……あんたは?」


「五十鈴カナメ。アマテラス適合者」


「はぁ。で、何の用?」


「確認。あなたは、スサノオに呑まれてない。珍しい」


 冷たい声だった。だが、不思議と嫌な感じはしなかった。


「俺は別に、神になりたかったわけじゃない。勝手に宿られたんだ」


「そう。けれど神は、選ぶ。宿る魂を。

 あなたは、破壊を選んだ。私とは、正反対」


「……なんか、勝手に決められてムカつくな」


 ヨモツは言う。だが、その目はカナメの目と重なった。


 光と闇。

 太陽と嵐。

 アマテラスとスサノオ。


 二人はこの瞬間、運命の輪の中で交差した。




 その夜、校舎裏の“神具演習場”。


 ヨモツは一人、剣を構えていた。

 スサノオコードが作り出す、雷のなぎつは


 振るうたびに、感情が渦を巻く。


「怒ってるのか? オレが……全部に?」


 父親に殴られた過去。

 誰にも助けてもらえなかった中学時代。

 死んだときですら、誰もオレを泣かなかった。


 その痛みが、雷になって、剣に宿る。


「だったら……こんな神、いらねぇよ」


 振り下ろす。

 雷鳴が、夜の空を裂いた。




 遠くから、その姿を見つめていた少女がいた。

 五十鈴カナメは、わずかに唇を動かした。


「……私も同じ。

 この光が、暖かかったことなんて、一度もなかった」



➤ つづく


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