エピローグ「風は、君の名を呼ぶ」
春が来ていた。
あの“最終転生戦”から、どれだけの時が過ぎたのか、
カナメもヨモツも、それを数えることをやめていた。
時間は、魂には意味を持たない。
ただ、今ここに“生きている”という感覚だけが確かだった。
⸻
◇
里山に小さな診療所ができた。
医者ではない。
でもそこには、人の“苦しみ”に寄り添う技術があった。
かつて雷をまとった少年──ヨモツは、
今は人々の声に耳を傾け、静かに笑っている。
名前を明かすこともなく、
ただ「そこにいるだけ」で、誰かの痛みが和らいでいく。
⸻
◇
一方、カナメは──村の学校で子どもたちに“話”をしていた。
昔むかし──この世界が“選ばれた者”しか生きられなかった時代。
神さまにならなければ、生きていけなかった頃の話。
「……でもね、その時代を変えた人がいたんだよ」
子どもが聞く。
「ヒーロー?」
「ちょっと違うかな。
その人は、自分の名前さえ明かさなかったから。
誰かにとっての“神”でも、“英雄”でもなかった。
ただ、“ひとりの魂”として、誰かのそばにいたの」
「かっこいいね」
カナメは笑った。
「うん。とても、ね」
⸻
◇
ある日のこと。
風が強く吹いた日、ふとヨモツが立ち止まる。
風の中に、誰かが呼ぶ声がした。
「……天海、ヨモツ」
振り返っても、誰もいない。
けれど──その声は、確かに“彼”を呼んでいた。
「……ようやく、呼ばれたか」
ヨモツは、静かに笑った。
そして、まだ誰にも話したことのない“本当の名前”を、
そっと、風に返した。
⸻
◆
世界は今、八百万を超えた先にある。
神ではなく、人でもなく、
ただ一つひとつの魂が、意志で在る時代。
それはとても不確かで、不完全で、
でも──あまりにも優しく、美しかった。
⸻
─ 本当の終わり。そして始まり ─




