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エピローグ「風は、君の名を呼ぶ」

春が来ていた。


 あの“最終転生戦”から、どれだけの時が過ぎたのか、

 カナメもヨモツも、それを数えることをやめていた。


 時間は、魂には意味を持たない。

 ただ、今ここに“生きている”という感覚だけが確かだった。




 里山に小さな診療所ができた。

 医者ではない。

 でもそこには、人の“苦しみ”に寄り添う技術があった。


 かつて雷をまとった少年──ヨモツは、

 今は人々の声に耳を傾け、静かに笑っている。


 名前を明かすこともなく、

 ただ「そこにいるだけ」で、誰かの痛みが和らいでいく。




 一方、カナメは──村の学校で子どもたちに“話”をしていた。


 昔むかし──この世界が“選ばれた者”しか生きられなかった時代。

 神さまにならなければ、生きていけなかった頃の話。


「……でもね、その時代を変えた人がいたんだよ」


 子どもが聞く。


「ヒーロー?」


「ちょっと違うかな。

 その人は、自分の名前さえ明かさなかったから。

 誰かにとっての“神”でも、“英雄”でもなかった。

 ただ、“ひとりの魂”として、誰かのそばにいたの」


「かっこいいね」


 カナメは笑った。


「うん。とても、ね」




 ある日のこと。

 風が強く吹いた日、ふとヨモツが立ち止まる。


 風の中に、誰かが呼ぶ声がした。


「……天海、ヨモツ」


 振り返っても、誰もいない。


 けれど──その声は、確かに“彼”を呼んでいた。


「……ようやく、呼ばれたか」


 ヨモツは、静かに笑った。


 そして、まだ誰にも話したことのない“本当の名前”を、

 そっと、風に返した。




 世界は今、八百万やおよろずを超えた先にある。

 神ではなく、人でもなく、

 ただ一つひとつの魂が、意志で在る時代。


 それはとても不確かで、不完全で、

 でも──あまりにも優しく、美しかった。



─ 本当の終わり。そして始まり ─


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