第十章「最終転生戦」
世界が崩れる音は、とても静かだった。
巨大な神殿が音を立てずに瓦解し、
コードで構成された空間が、砂のように舞い上がる。
神環《SHINKAN》──魂の再構成システム。
それは今まさに、“自壊”しようとしていた。
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◇
「間に合うのか、これ……」
レンがひしゃげたゲート前で息を吐いた。
「わからねぇ。けどやるしかない」
ヨモツは答える。
その腕には、コード再構成装置から切り離した**“魂因子保存キー”**が握られていた。
それは、カナメを含む“保存対象者”全員の魂の記憶を束ねたもの。
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◇
「君たちが、“転生”の意味を問うときが来た」
再起ノ宮の“中枢意識”が、ヨモツたちの前に現れる。
姿は、かつてのオオモノヌシと酷似していたが、
もはやそれはただの意匠だった。
『魂は、次の器に継がれなければ、消える。
だからこそ、最も合理的なコードを選んで転生させる。
それが我々の役割だった』
「でも、誰も“選んでくれ”なんて頼んでない」
ヨモツが言う。
『選ばなければ、君たちは“不完全なまま”苦しみ続ける』
「不完全だからって、“消さなくていい”んだよ」
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◇
中枢意識が発動する。
《神格再起動準備中》
《最終転生プログラム:発令》
無数の魂コードが、空に浮かび上がる。
その中には──レンのコードもあった。
「っ……俺まで対象に入ってるのかよ!」
レンが叫ぶ。
『最終転生戦。それは、魂にとっての“再構築”か“削除”か』
『選べ、魂たちよ。完全なる器になるか、否か。』
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◇
「選ぶのは俺たちじゃない。魂だ」
ヨモツが叫ぶ。
「この世界を決めるのは、神でも、人でも、AIでもない。
魂が、自分で決めるんだ!」
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◇
神環中枢、完全解放。
その中で、ヨモツは“魂の大地”に立つ。
無数の光が漂う空間。そこに、カナメの姿もあった。
「……来たね、ヨモツ」
「ああ。約束、果たしに来た」
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◇
魂が呼応する。
神環は滅びかけている。
だが、その隙間から“もうひとつの転生”が立ち上がる。
名もなく、神でもない──
ただ、“想い”だけを繋げる輪廻の火。
「これは、俺たちが作る、新しい“神環”だ」
ヨモツとカナメの手が触れる。
その瞬間、無数の魂に“自由な再構築の道”が開かれた。
《自由転生モード 起動》
《コード再定義:制限解除》
《魂の意志に基づく、個別輪廻を許可》
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◇
レンが、最後に言った。
「神になるって、勝手に言われてたけどさ──
人間でいたかっただけなのかもな」
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◇
すべてが終わったあと。
空は晴れ、風が吹いていた。
もう、誰も“定義”されることのない、魂たちの新しい世界。
天海ヨモツは、
どこかの町で、“普通の少年”として目を覚ます。
横には、微笑む黒髪の少女。
「……おはよう、カナメ」
「おはよう、ヨモツ」
➤ 終章へ つづく




