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第二十九話

 その夜は、お祖父様と妹と、久しぶりに3人で晩御飯を食べた。


 普段の食事よりうんと美味しいのは、やはり環境が変わったからだろう。

 俺を取り囲む環境は、俺の意識の違いではあるが、それでも大きく変わっている。


 ──お祖父様に敵意を抱かない日が来るとは、仏壇に素直な気持ちで向き合える日が来るとは、思わなかった。


 この日初めて、俺はちゃんと家族と和やかに食事を取った。

 夕食後、お祖父様は妹を部屋に戻し、二人でリビングで向き合った。


 こうして見ると、お祖父様は思っていたよりもずっと老けているように見える。きっと、親父が死んだ後も代わりとして連盟から俺たちを匿ってくれていたのだろう。


 そんなことにも気づいていなかった過去の自分に嫌気が差す。けれど、それに気付けた今の自分は嫌いじゃない。


「……それで、どうするんだ」


 極めてあやふやな質問。だが、その内容を改めて聞くまでもない。明日のこと……小早川さんに回答を伝えてくれと言われた件。つまり彼女を殺すか殺さないかという話だろう。


 お祖父様はどうして欲しいのかを聴きたい気もした。けれど──これは、俺が決めるべき問題だ。


「俺の答えは──」


 その言葉に、お祖父様は静かに、しかし苦しそうな面持ちで、そうか、と頷いて見せた。

 今は、その、ただ受け入れてくれる姿が、何よりもありがたかった。



 翌日。学校に久々に行ったのち、俺は小早川さんの家に訪れていた。


「……やあ、来たね」


 俺の訪問を、先に帰っていた小早川さんはどこか固い、緊張した面持ちで迎えてくれた。

 彼女でも緊張することがあるんだ、と、ちょっと笑ってしまいそうだった。


「それで、答えは決まった?」

「ああ」


 その言葉に、俺は頷く。


「俺は、君を──」


 そして、答えを言おうとしたその時。チャイムが鳴った。


「…………」


 小早川さんはうんざりした様子だ。確かにタイミングは最悪で、空気が読めていないにもほどがある。けれど……美原だとしたら、俺は彼女にもこの結末を見届けてもらいたかった。


「出ようか?」

「いや、いい。私が対応する」


 小早川さんはそう言って、玄関に向かった。

 リビングから玄関を覗くと──その先にいた存在に、申し訳ないが思わず落胆してしまう。


 美原だったら、俺の共犯者だったら、それはどれほどよかっただろう。──そこにいたのは、あの"狼"だった。


「今更なんの用だい? 雨の魔女は倒したよ」

「……あんたの命を貰いにきた」


 小早川さんの言葉にそう答えるや否や、狼は彼女の心臓目がけて獣のようになった腕を伸ばす──が、動きが甘かった。


 小早川さんはその手を自然に受け流すと、そのまま思いっきり狼の腹を蹴り飛ばした。衝撃音と共に、狼はよろめきつつも後退する──が、その目は小早川さんよりも、むしろこっちを見ていた。


「……なんでッ!」


 後退した先で、まるで子供が駄々をこねるように、狼は声を荒げる。仰々しく俺を指差し、目を潤ませながらキッと睨め付けつつ叫ぶ。


「なんで、そいつなんだ……ッ! アンタの相棒は俺だ! あんたを殺す重責は、その名誉は、誓いはッ! ……俺が持っていたものだッ!」

「元相棒、だろ。それに君はその責任を果たせない。……魔女と化した私が人々を殺戮するのを、君は泣きながら眺めることしかできはしない」


 小早川さんはあくまで冷静に、心底冷たい様子で、狼の言葉を跳ね除けた。狼はそれに狼狽え、突破口をこじ開けようと言わんばかりに、俺を突き始めた。


「……俺の方が奴より強けりゃ、アンタも諦めンだろ。なあ、魔女擬き! 俺と戦え!」

「……相手することはない、近江くん」


 少し……いや、かなりイラついた様子で、小早川さんは俺をそう制する。小早川さんからしたら、確かに余計な手間だ。それに、俺が負ける可能性だって十分にある。……それでも。


「いや、戦う」


 彼女は小早川さんの元相棒だ。俺はその口惜しさを、熱望を、理解できてしまっている。それに……小早川さんを殺すのが名誉だと狼は言った。そんな男を放ってはおけないし、なにより、小早川さんを殺すならそのための障害は、与えられた試練は、全て乗り越えなければならない。……それが人を殺すことを決めた、俺の責任の取り方だ。


 俺の回答に、小早川さんは不満げだ。けれど何を言っても無駄だと思ったのだろう、拗ねたまま何も言わなかった。


「……悪ィな。場所を移そう」

「その前に、一つだけ教えてくれ」


 俺たちを先導しようとした狼を、俺は呼び止めた。


「……美原を知らないか」

「……ついてこい」


 俺の質問に、狼は吐き捨てるように、端的に答えて再び歩き始めた。

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