表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/42

間話-23.5-8

 エレベーターを降りると、小路がそこで待っていた。


「終わりましたか?」

「ああ」


 もっとも、俺は何もしていない。

 最後は多分小早川さんが始末をしたし、俺はアイツと対話をしただけだ。


「彼は──元々、連盟の魔術師だったんです」


 確かに、男は連盟について詳しい口ぶりだった。


「七大天使が一人、人類に知恵と癒しをもたらす優しき者──かつてラファエルと仇名された男でした」


 どこか寂しそうに、小路は男の経歴を俺に教えてくれた。小早川さんと同格、とは俄かに信じられないが……癒す者、というのは頷ける。確かに男の考えは、その名前が相応しいものだったように思える。


「きっと、彼と触れることで、得られたものも少なくないと思います」


 それは、小路がまるで、あの男のことを知っていたような口振で──。


「お前は……」

「私は結城 小路。魔術連盟の、ただのしがない"蝙蝠"です」


 小路のその言葉は、それ以上の詮索を許さない響きを持っていた。──ああ、俺にも、それ以上の情報も、関係性も、要らなかった。


「それで……俺は君に、認めてもらえるか?」

「ええ。貴方は……きっと、どうして魔女を殺さなければならないのか。自分がどういう存在なのか。きっともう、分かっているはず」


 ラファエルや小路と触れ合ったこの時間で、俺は随分と自分や魔術というモノ、殺そうとしている魔女が何なのかを、見つめさせられていたと思う。……ああ、今なら言える。


「私からは……連盟を代表して、貴方が小早川奏の粛清を行うことに、言うことはありません」


 粛清、という言葉に、少し俺は思うところがあった。それで思わず、口をついて出ていた。


「粛清ってやめないか。まるで魔術師が……小早川さんやお前らが、悪いことをしているみたいだ」


 その言葉に、小路はぽかんとして、そして、少しだけ笑った。


「みたいじゃないですよ。……どこまで行っても、魔術師であることを選んだ私たちの行き着く先は人類の敵です。どれだけ聖者ぶろうと、天使の名を騙ろうとも、私たちがやってることはそういう行いで……やってることは人殺しですよ」


 そう言って、彼女はまた、クスクス笑う。

 そして──。


「それでも……そう言ってもらえるのは、悪い気はしません」


 路傍の花のような笑顔で、彼女は、そう言った。


「最後に一つ。貴方が彼女を殺すなら……彼女の願いを、祈りを、見届けなければなりません。……言い換えれば、彼女をちゃんと見てあげてくださいね」


 小路は和かにそういった。

 けれどその表情はどこか無理をしていて……笑っていても陰があった。


 小早川奏を見る──。それを、俺はちゃんとやれているのだろうか。


「あ、それと」


 小路は今思い出した、と言わんばかりに、ぽんと一つ柏手を打った。


「奏ちゃん、貴方に負けず劣らず目移りしがちなところがあるので。貴方は真っ直ぐ見てあげなきゃだめですよ」

「は、え、ちょっと」


 おい待てどういうことだ。俺がいつ目移りしたって。

 俺が口を開くよりも早く、小路は軽くステップを踏んで距離を置くと、嘲笑うようにこっちを見た。その様子に俺は、閉口する他なかった。



 帰宅する頃には、もうすっかり夜中になっていた。自室に戻って布団に横になっていると、妹がご飯を作ってくれたらしいが、呼ぶ声も無視して、寝たふりをして過ごす。


 ──俺は、小早川さんのことを、本当に見れていたのだろうか。

 その悩みは、喉にささった小骨のように引っかかって、掻きむしりたいほど取れなかった。


 いつしか寝たふりは本当になっていて、意識が落ちる最後に聞いたのは、妹が扉を開けた、蝶番のギイと軋む音だけだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ