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第十八話

 近江が去った後のライブフロア、その床で狼は目を瞑ったまま譫言のように尋ねた。


「……よかったんですか、奏さん」

「……は? 何が?」


 小早川が苛立たしげに狼の体を激しく上下に揺さぶると、狼はギブアップ、と言うかのように目を開いて両手を掲げた。その二人の様子は、長年連れ添った気安い相棒、パートナーと言ったところだ。もっとも、狼の方に小早川に対する恋情はあれど、小早川からは当然、一切なかった。


 狼はありし日を回想して少しニヤけながら、小早川に答えた。


「……アンタがギリギリなのも本当で、あのガキ……魔女擬きと「次そう呼んだら殺す」……おっと失礼。アレと一緒にいたいのも本当でしょう」


 かつて、彼女は何度もその完璧主義と強がりで自分の姿を偽って見せてきた。

 それを見抜けるのは自分だけだという自負があるし、そうして小早川奏が苦労する様子を狼は何度も見てきた。


 その実感の篭った狼の言葉に、小早川は答えない。

 そんな小早川の様子に、狼は少しだけ舌打ちをしたい気分だった。本当なら、彼女の中のあの魔女擬き──近江の場所にいたのも、蝙蝠の場所にいたのも自分だったはずだ。


 五年前。雨の魔女と小早川が遭遇して、狼の"蝙蝠"が魔女となったあの日から、彼女は変わってしまったように思う。自分が彼女とのパートナーを解消されたのは、それからすぐのことだった。あろうことか彼女が自分の代わりに選んだのは、戦闘の一切の経験がなく、血統や能力すら不十分な東洋人の蝙蝠だった。


 彼女がそいつを選んだ理由は分かっている。小早川は戦闘の一切を本当に自分だけで行うつもりなのだ。……それも効率的なのかと思う。


 索敵と戦闘の両面でかなりの戦績を誇る自分ですら、彼女には足元にも及ばない。それは悔しかったが、同時に憧れてもいたのだ。


 そして今回。そんな小早川奏が、その因縁の相手である雨の魔女と決着をつけようとしている。元パートナーとして、それを見届けないわけにはいかなかった。


「……最後まで見せてもらいますよ」

「魔女化しても、君には殺させてあげない」

「……なんでです」


 脈絡のなさと彼女の拒絶に、狼は困惑しながらそう返した。


 魔女化した魔術師を殺すのは、その相棒の責任だ。同時にそれは、名誉なことでもある。本当に最期の最後まで、魔術師が世界のために魔女と戦い尽くした、それを見届けられるのだから。


「もう、私を殺させる約束はとある男としてしまっているからね。それに……もう君は、私の相棒じゃない」


 小早川はそう返すと、スクッと立ち上がって、かつての相棒に振り返って妖艶に笑った。


「ごめんね、君は私の相棒にはもうなり得ない。自分の蝙蝠を殺せなかったあの日からね」


 その言葉に──狼の眉根がピクリと動いた。


「それは──アンタがそもそもあの時蝙蝠を連れてこなきゃよかったんだ!」

「は──はぁ!? 君だって否定しなかったじゃないか!」

「苦言は呈したでしょう! 今回だってそうだ! あんな男を連れてきたりせず、作戦通りに動いてくれればこうはならなかったでしょう!」

「なんだって!? 今回のこと私が悪いって言いたいのかい! 君が意地を張らずに協力してくれたらよかったじゃないか!」

「俺が来るより先に戦い始めてたのはそっちでしょう! 俺だって協力したかったですよ! けどあんなモノ、普通触るのだってできません!」

「そーだよ! だから二人にはちゃんと説明したもん! 私悪くないからね!」

「もんってなんですか! 子供みたいなこと言わないでくださいよ!」


 ギャアギャアと、二人で喚くように罵り合う。……けれど、どれだけ騒いでも。小早川と魔女が信徒を殺し尽くしたこの空間には、本当に二人ぼっちでしかなかった。


「他の魔術師は何してるんだよ……はぁ。もういい」


 来るはずの魔術師達が来ないことに苛立ちながら、ため息をついてそう残し、小早川も階段を上がり始めた。


 それを見て狼は、縋るように、嘆くように、懺悔のように口を開いた。


「……今は、今なら、殺せます。それと、その殺させる約束の相手ってのは……あの男ですか」


 小早川奏は答えない。ただ、ギイと嫌な音を鳴らす金属扉が開かれたのみ。

 ライブフロアには、肩を震わせる狼だけが残っていた。

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