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第十六話

 少しだけ美原の影が動く。そんな彼女に目配せをして──激痛を押して全力ダッシュ。魔女は短剣を失い、魔力を無くしたこちらには微塵も興味を示さない。どうやって小早川さんを捕食しようかに夢中になっているのだろう。


 俺は落とされた短剣を拾い上げた。瞬間、魔女の意識が一瞬こちらに向くと同時、小早川さんの反魔術が、魔女の体を縫い止めた。


 その四肢を、胴の中心の巨大な口を、その中に見える舌まで、結界の十字架が封じている。

 だが、俺に短剣を起動して、魔女を切る力は残っていない。全身の痛みが、発熱する神経が、ソレは無理だと警鐘を鳴らしている。


 だから──俺はその短剣を投げ渡した。


「美原────!」


 その名前を、希望を託して叫んだ。

 魔女の足が触手のように変化して小早川さんの楔を抜け出すと同時、小早川さんは反魔術を転換。魔女の周囲に無数の結界を展開し、迫り来る脅威に対して飛び出していくその触手の動きを阻害した。


 しかしそれでも、全部を防ぎきるには至らない。数十の触手のうち、結界をすり抜けた一つ二つが、跳躍し、飛び出してきた美原に向かって──否、美原の隣、現れたもう一人の美原をかき消し、彼女を止めることはなかった。彼女の得意な魔術の一つ──幻術だ。


 魔力を用いて幻を生み出すのではなく、魔力を用いて光を屈折させて生み出した、俺にも見える極めて物理的な幻想。美原は攻撃を空かしたと同時に右手に短剣を受け取り、スイッチを起動した。


 瞬間、短剣は赤い魔力を纏い、それは暴走して逆流、彼女の腕に紫電が走りだした。彼女の手を焼き尽くし、その肩に向けて侵食していく。さらに彼女を苛むのは、その内側からくる痛みだろう。爪は剥がれはじめ、火傷が起こり、皮膚は爛れ出して血が噴き出していた。呪いのようなヒビ割れた火傷が、彼女の右腕に刻みつけられる。


「ああああああああッ!」


 彼女のつんざくような悲鳴が響き渡る。

 それでもなお、神経が焼き切れて動かなくなるとまで言われたはずの腕を、美原は構えた。


 左手を短剣の底面と右手に添えて固定する。身体強化の魔術の影響か、美原は右腕を除いて青白い光を放っていた。


 魔女は自分の攻撃を空かされたと認めるや否や、無数の腕で自分の体を包み込むようにしてガード態勢を取っていた。なるほど、その反応速度といい、強い──が、浅い。


 小早川さんが反魔術で、空中にいる美原に、さらに足場を生み出した。


 美原はそこに着地すると、そのまま深く膝を曲げ、


 バネの要領で、美原の体と、その足場が伸びる──!


 目で追えないほどの速度で美原が()び、

 それと同時に、その腕は前方に向けて解放される。

 伸びる右手、それを支えながら押す左手。


 一本の槍と化した少女は、魔女の肉体の中心、肉体を囲う腕の奥に、吸い込まれるように真っ直ぐに。


 魔女の心臓を、守っている腕ごとまとめて、その青い閃光が貫いた。


 反魔術に縫い付けられていた魔女の体がクッションとなって、美原の体は受け止められる。

 その一撃が、核を、心臓を貫けたかなんて確かめる必要もない。


 短剣の魔力は魔女に突き刺さった際、その衝撃で飛ぶ斬撃となって、魔女の肉体にぽっかりと孔を開けていた。


『ア……ァ……』


 断末魔もなく、魔女は脳天から消滅していく。魔力の光が、空中に舞い上がって消えていく。爪は剥がれ、皮膚も破れボロボロになった右腕を抱えながら、立ち上がった彼女は自らを包む魔力光の中、笑っていた。


「……ありがとう」


 美原は右腕の痛みでそれどころじゃないだろうに、それでも俺に対して、お礼を言った。

 それになんと返せばいいか分からず、押し黙ってしまう。


 確かに、彼女の気持ちを慮っての行動だったのは事実だ。

 けれど、彼女を傷つけることになるということは小早川さんに聞いていた。


 それに、他に術がなかった──俺が思いつけなかったのも事実なのだ。

 俺の無能の尻拭いをさせただけ。俺が感謝される謂れはない。


 けれど、それでも──。


「……おう、どういたしまして」


 ──自己嫌悪から彼女の言葉を無碍にすることは、彼女の覚悟に対して失礼だと、そう思うのだ。


 小早川さんは真っ二つになった魔女の核と、短剣を拾い上げて懐にしまったのち、美原に歩み寄って──。


「……美原」


 ──パチン。軽い音が、瓦礫しか残らないライブフロアに響く。

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