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第八話 一組最強決定戦トーナメント!

「今日最後の授業だ。オマエらの現時点での実力を見たい」


 畳の間での座禅を終え、訓練生たちは昨日神器の契約を行った訓練場に集められていた。相変わらず一面に敷かれた白砂と植えられた松の木が風情を感じられる。

 そんな美しい景観とは裏腹に、皆からは緊張感が漂う。鬼教官の煌紀に「実力を見たい」なんて言われた日には、どんなスパルタ授業が待っているか想像するのでさえ怖い。


「しゃあ! 始めるぜ! 一組最強決定戦トーナメントォ‼」


 煌紀の口から発せられた言葉は、思ったよりも数倍楽しそうなものだった。

「おおおお!」と一組の生徒たちのボルテージが一段上がる。先ほどまで緊張とストレスで極限状態に陥っていた皆にとって、これほど良いストレス解消はない。


「ようやく最強ヒーロー、姫小百合紅奈の実力が! 白日の下にさらされる! うおっほー!」


 特に歓喜している紅奈は、ゴリラのように両腕で胸を叩いてドラミングしている。


「優勝者には豪華賞品があるぞ! 死ぬ気で戦え、ぼんくら共ォ‼」


「おおおおお!」と再び歓声。生徒たちのボルテージは更に高まる。


「……まさか、こんな茶番に付き合うために僕を呼んだのかい?」


 辟易とした様子で訓練場にやってきたのは技術局の稲凪真昼だ。彼女は車輪付きのホワイトボードとパイプ椅子を引きずっている。


「いいだろ、どうせ暇なんだし」

「少なくともキミよりは暇じゃないよ」

「生徒たちを受け持つ担任のどこが暇に見えるんだ、あ? オマエの目は節穴か」

「相変わらず語彙力が貧弱だね。今時サルの方が語彙力あるのではないのか?」

「よっし、表出ろ」

「とっくに出てるんだけど。あ、本当に節穴なのはキミのほうか」

「んだと、こら!」


 生徒そっちのけで始まる言い争いに、皆呆れ顔だ。 煌紀は咳払いをすると、生徒の方に視線を向ける。


「くじ引きして対戦相手を決めるぞー。適当に前にこい」


 生徒たちが抽選箱を持った煌紀の前に集まり、順番にくじを引く。トーナメント表が描かれたホワイトボードに、真昼が次々にくじを引いた生徒の名前を書いていく。

 そして、生徒全員がくじを引き終わり、トーナメント表が完成した。


「第一回戦第一試合、姫小百合紅奈VS若葉舞桜!」




「よろしくね、紅奈ちゃん!」

「ああ! 正々堂々と戦おうではないか!」


 紅奈と舞桜は互いに神器を向け、正対している。中央には審判として真昼が立っている。

 訓練生たちはその様子を、固唾を飲んで見守っている。最初の試合ということもあるし、何より実技試験一位の紅奈の実力をこの目で確かめる絶好の機会だ。


「……二人とも、頑張って」


 零亜は祈るようにして、二人の試合を見守る。


「はーあ。それでは、はじめー」


 真昼の気の抜けた合図で、舞桜と紅奈の試合が始まった。


「「《聞け、心の鼓動を。祈れ、願え、想え。さすれば魂は具現化し、解放する。さあ、至高の御身よ、我に神成る力を与え給え》‼」」


 二人の詠唱の声が重なると、同時に【魂の具現化】が発動する。

 身に着けた霊装から魂力が噴出し、御幣は日本刀へと変貌、そして身体と刀に魂力が纏う。

 『起動』から『安定』への移行。先ほどの修練のおかげか、驚くほど流麗な動作を行えている。

 二つの白き光を纏った刃が中空に軌跡を描き――交錯する!

 キン、キン、キン、と鋼と鋼が打ち合う音が、中庭に響き渡る。


(行ける――! 実技試験一位の紅奈ちゃんと互角に打ち合えている――!)


 打ち合いの中で、舞桜は自信に満ち溢れる。

 そうだ。昨日の魂魔討伐、今日の修行。自分は著しい成長を遂げている。

 ――天美ちゃんに追いつける!


「……して、いつまでその遊びに付き合えばいい?」


 舞桜が更なる追撃をしようと刀を大きく振りかぶり打ち込もうとするが、気づくと既に舞桜の刀が宙を浮いていた。紅奈の強力な一振りが、打ち合いすらも拒絶するパワーで、舞桜の刀ごと吹っ飛ばしたのだ。

 それからはもう一瞬で、気づくと紅奈が舞桜を馬乗りにして、切っ先を首元に突き付けていた。


「勝負ありー。勝者、姫小百合紅奈」


 真昼の気だるげな声で、舞桜はようやく自分の状況を理解した。

 肌で感じた圧倒的な実力差。どこかで自惚れていた。自分の現状を棚に上げ、良い所だけを切り取って満足していた。

 全然ダメだ。自分は一般家系出身。他の巫女家系出身の人たちとは才能から経験値まで何から何まで違う。天美はもとより、このクラスのレベルでさえ追いつけていない。

 舞桜はこの一戦で、厳しい現実を痛感した。




「――優勝は姫小百合紅奈‼」

 一組最強決定戦トーナメントは順当に紅奈の優勝で幕を閉じた。

「いやーはっはっは。我は戦巫女界のスーパーヒーローを目指す者。優勝など朝飯前なのである!」

「優勝賞品のビーフジャーキーだ。お酒のおつまみにピッタリだぜ」

(私たち未成年なんですけど……)

 と生徒たちが心の中で総ツッコミする中、当の紅奈は大喜びしていた。こうして、二日目の授業全行程が終了した。




「……もぐもぐ、まおう美味しい」

「ちょっと、わたしは食べ物じゃないよー! それに『まおう』じゃなくて『まお』!」

 その日の夜。舞桜と摩利華の部屋にて。腹が減りすぎたのか、摩利華が舞桜の首筋にかぶりつくという凶行をしていた。そんな中、チャリンと呼び鈴が鳴った。


「来た!」


 それを聞いた途端、摩利華の身体が飛び跳ね、一目散に扉へ向かっていった。どうやら摩利華が毎日頼んでいるデリバリーが届いたらしい。

 摩利華が意気揚々と扉を開けると、意外な人たちがそこに立っていた。


「おーい、舞桜いるかー?」

「……お邪魔します」


 部屋に来訪してきたのは紅奈と零亜だった。紅奈はどういうわけか段ボール箱を抱えている。


「むぅ……。食べ物じゃない……」


 想定とは違う来客に、摩利華はがっくりと肩を落としている。

紅奈はそんな摩利華に気づき、視線を合わせる。


「なんでここに小学生がいるのだ? ……まさか、舞桜の隠し子か⁉」


 その失礼な物言いに憤慨したらしく、摩利華は紅奈の足を思い切りつま先で踏み抜いた。


「いっとわぁい!」

「……む。この部屋の主だ。無礼者はつまみ出すぞ」

「そ、そっか……、舞桜のルームメイトだったか。すまんすまん。我は天下無双の正義のヒーロー、姫小百合紅奈だ。よろしくな」

「うちの紅奈、本当デリカシーなくてごめん。ボクは黒鴉零亜。よろしく」

「……紫咲摩利華」


 摩利華は不貞腐れた表情で言った後、会話を拒否するように頭からベッドにダイブした。


「紫咲か!」「紫咲……」


 紅奈と零亜はなぜか、驚いた様子で摩利華の姓を口にした。


「うん? 紫咲がどうしたの?」


 舞桜は二人の反応に首を傾げる。


「そんなことも知らんのか!」「……さすがにそれはヤバいよ」

「え……そうなの?」

「紫咲家は戦巫女界をけん引していた御三家の一家。御三家とは『紫咲』、真白院天美が所属する『真白院』、そして『紫咲』、更に我が所属する『姫小百』の三家!」

「ただの御三家ではないよ。中でも紫咲家は、戦巫女の開祖として祀られている『那岐姫なぎひめ』様を祖先に持ち、戦巫女界で実権を握り続けている御三家の頂点だよ」


 紅奈の説明に、零亜が補足を加える。


「ふん! だが今後、我の活躍により、姫小百合家が紫咲家に代わり戦巫女界のトップに君臨する予定なのだ!」

「…………お腹、減った」


 当の摩利華は二人の話に全く興味を示すことなく、顔を布団に預けたまま呟いた。


「いいか、摩利華とやら。我は今日行われた一組最強決定戦トーナメントにて、優勝したのだぞ! 実技試験一位だし、本当に強いんだぞ!」


 興味無さそうにしている摩利華にしびれを切らした紅奈が、摩利華に詰め寄ってくる。

 摩利華はだるそうに、ベッドから身を起こして一言だけ言い放った。


「……むぅ。うぬよりわしのほうが強い」

「なんだと⁉ 聞き捨てならん! 勝負だ、勝負!」

「よかろう」


 急に火花散り始める紅奈と摩利華を、舞桜が慌てて止めに入る。


「ちょっとちょっとちょっと! ここ、わたしの部屋だから!」




「……というか、紅奈ちゃんたちはなんでわたしの部屋に来たの。それに、その段ボールはなに?」


 舞桜は純粋な疑問を投げかけると、紅奈は「そうだ!」と何かを思い出したかのように、段ボールをベッドに置いた。


「そうだったな。これを見てくれ」


 紅奈が段ボールを開けると、そこには大量のビーフジャーキーが入っていた。


「え……? 何これ……?」

「む! 食べ物!」


 絶句する舞桜に対し、摩利華は目を輝かせていた。


「忘れたのか、今日の優勝賞品だ。優勝賞品を渡すからと、大会後に煌紀殿の部屋にお邪魔したら、これを頂いたのだ。さすがに食いきれんと思い、零亜と一緒に食べようと思ったが、二人でも無理そうなので、零亜の提案で舞桜たちにも手伝ってもらおうと、ここに来たのだ」

「これ絶対あれだよ。ネット通販で間違って箱注文しちゃって困っていたから、優勝賞品と銘打って、体よく生徒に押し付けて在庫処理させたんだよ。やっぱり悪魔だよ、あの人」


 紅奈の説明に、零亜が辟易とした様子で文句を垂れる。


「なるほど。それだったらご安心を。こちらにはブラックホールストマックこと、紫咲摩利華氏がおりますので!」


 その摩利華はというと、目を輝かせて、食に飢えたバケモノのようにビーフジャーキーを片っ端から貪っていた。

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