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第四話 講義

「早速だが講義始めるぞー」 


 自己紹介の時間が終わると、煌紀は目の前にある黒板に板書をしながら講義を始める。


「魂魔。人間に災いをもたらす化物。その唯一の対抗手段こそが戦巫女。では、戦巫女はそんな化物にどのように対抗する? 分かる奴、答えろ」

「はいっ! それは『神器じんぎ』でございます、煌紀殿!」


 紅奈が教室に響き渡るような音量で答えた。煌紀は手元にあるリストと紅奈を交互に見比べ、


「姫小百合紅奈だっけか……?」

「はいっ、煌紀殿。実技試験一位の姫小百合紅奈でございます! 是非今後もごひいきに!」

「あぁ、思い出した。筆記試験最下位の姫小百合紅奈だな」

「ぬおおおお‼ そうだったのかあ‼」


 思わぬ暴露をされ、紅奈は頭を抱えている。

 煌紀はオーバーリアクション中の紅奈を無視して、講義を再開する。


「神器はそれ単体では何の効力もないが、戦巫女と契約を交わすことによって、戦巫女に宿る“あるチカラ”に反応し、真の力が解放する。この力を行使することで魂魔を討ち滅ぼすことが可能となる。では、その“あるチカラ”とは何だろうか。よーし、オレの気まぐれで指名制にするわ。じゃあ黒鴉零亜、答えろ!」

「ふえ……⁉ ぼ、ボク……?」


 唐突に指名された零亜の身体がビクンと跳ね上がった。


「ああ。オマエ以外に黒鴉零亜が居るってのか?」

「い、いえ……」

「じゃあ答えろ」

「は、はい……。『魂力ヴァルハラ』です」


 顔をプルプルと震わせ紅潮させながら何とか回答する零亜に、煌紀はあっけらかんと解説を始める。


「その通り。魂力とは万物の魂に宿る霊的エネルギーだ。この魂力こそが、戦巫女が魂魔を祓う際に使うあらゆる能力の基となるエネルギー。

 魂力は人間なら誰しも宿しているエネルギーだ。だが魂力は普通、目に見えず、触れること出来ない。日常生活において何の意味を持たないが、“魂力の出力が高い者”が神器と適合することによって、魂力が具現化され、コントロールすることが出来るようになる。

 では、その“神器と適合可能な魂力の出力が高い者”とは誰か? 若葉舞桜、答えて見ろ!」

「ふぎゃん!」


 急に指名され意味不明な言語を口にする舞桜は、反射的に立ち上がった。


「初歩的な質問のはずだが」

「……えっと、えーと、あ! 団子屋のおばちゃんだ!」

「戦巫女なんて辞めちまえ!」

「ひでぶ!」


 舞桜の解答を聞いた瞬間に、煌紀の形相が鬼と化し、持っていたチョークを投げつけた。チョークはものすごいスピードで吹っ飛んでいき、正確に舞桜の額を撃ち抜いていった。舞桜は当たった反動で、椅子から後方に転げ落ちた。

 そのあまりにバカらしい光景に、ギャハハハハ、と教室に爆笑が巻き起こった。

 静かにしろ、と煌紀は釘をさすと、ため息を一つ吐き、


「しゃーねー、バカでも分かるように教えてやるか。“神器と適合可能な魂力の出力が高い者”。それはここにいる、オメエらだ」


 煌紀の発言に大層驚いたのか、舞桜は口をぱっくりと開けてその口を手で抑えている。

 そんな舞桜を煌紀はきつく一瞥し、ホワイトボードに図を書きながら説明を始める。


「若い女性ほど魂力の出力が高い傾向にある、というのは定説だ。出力が高ければ高いほど、当然戦巫女としての資質が高くなる。資質は生まれながらにしてだいたい決まってくる。が、後天的に底上げすることもできる。

 ではどうやって出力を上げるか。答えは単純で、魂力の源泉である魂を磨くこと。募るところ、『己の魂を解放』することだ」


 煌紀は上手く締めくくったつもりだが、何やら生徒たちは黒板に描かれた図を見つめ騒めきだす。

 『魂力を宿す女性』を表現しているつもりなのだが、その絵がいかんせん酷い。幼稚園児が書いた方が幾分マシであろう。


「何あの先生の絵、首ないじゃん」「指が六本あるよ」「腕が腰から生えてる」と生徒から非難轟々が飛び交う。


「オメエらァァァァ‼ 何か文句でもあんのかァァァァ⁉⁉」

「「「あ、ありません…………!」」」


 その雑音を煌紀は恫喝で一蹴し、さて、と何事もなかったかのように講義を再開させる。


「次は『魂魔』についてだ。これは万物に宿る魂力が負のエネルギーなどを浴び、濁った状態で具現化したバケモノだ。魂魔は魂力、つまり霊的エネルギーで構成されているので、普通の人間には認識されず、通常兵器が一切効かない。毒を以て毒を制す。

 魂魔を祓うには、同じく霊的エネルギーである魂力を宿した神器でしか祓うことができない。つまり魂力を帯びた神器を扱う戦巫女でしか倒すことができないってわけだ。そんな魂魔は大きく分けて二種類の個体が存在する。若葉、もう一度チャンスをやる。今度こそ答えられるよなぁ?」


 またしても振られた舞桜は、やはり立ち上がると、


「えーっと……元気な子に、あと面白い子とか!」

「内面聞いてんじゃねえよ!」

 もはや漫才師のように、息ピッタリのボケツッコミを披露する二人。煌紀は咳払いし、


「『幼体』と『成体』だ。

 まずは『幼体』。濁った影響で全体が黒く染まっていて、こいつは進化途中の未完成の個体で、有象無象の魂力が混ざり合っている。黒い身体と赤い眼球を有した球体のような形状でふわふわと浮いていることが特徴だな。一般的に『人魂』と呼ばれているやつだ。手足や翼が生えている変異株も存在するが、基本的に戦闘力が低く、一人前の戦巫女なら難なく祓える。

 注意すべきは『成体』だ。幼体から進化し完全体となり、名を冠した魂魔だ。妖怪とか物の怪とか呼ばれているアレだ。成体は戦闘力が非常に高く、魂力を完全にコントロールし、特殊な能力を使う厄介な奴もいる。一人前の戦巫女でさえも単騎での討伐は難しいとされている。少なくとも今のオマエらには万が一にも勝ち目がねえ。もし『成体』に遭遇したら必ず逃げろよ」

それを聞き、舞桜は妖狐と対峙したあの日の記憶を紡ぎだす。あの日遭遇した妖狐は、まぎれもなく戦闘力が高い『成体』だったということだ。

 煌紀はチョークを離し、教卓をバンと叩いた。


「よーし、午前の授業は終わりだ。午後はお待ちかねの神器との契約だ。楽しみにしておけよ」




 昼休み。舞桜は紅奈と零亜と共に、学園内の食堂にやってきた。

 食堂は開放感のある全面ガラス張りで、テラス席も完備。三階にあることから、見晴らしの良い景色を眺めることができる。そしてタッチパネル式の注文システムに、配膳ロボットも揃っており、古風な校舎とは裏腹に最新鋭の設備が整っている。

 三人は食事を摂りながら話に花を咲かせていた。

「我は由緒正しき戦巫女の家系、御三家と呼ばれる姫小百合家出身なのだぞ。その姫小百合家の中でも我は幼き時から天才児として期待されていたのだ」

「問題児の間違いじゃないの?」

「うぉい! 本当のことを言うな、零亜! ……って、誰が本当のことじゃい!」


 紅奈の自慢話に零亜が冷静にツッコむ。漫才のような軽快なやり取りは、流石幼馴染といった感じだ。


「なんだか二人と居ると、タノワクが止まらないよ。ということは、零亜ちゃんも優秀な家系出身とか?」

「ううん、弱小家系だよ。昔は優秀だったみたいだけど、今は全然かな」

「へー。でも、昔優秀だったってことは誇れるよ! わたしなんて一般家系出身だしね」

「しっかし、驚いたぞ。あの真白院天美と知り合いだったなんて」

「そうそう。昔、同じ八雲村ってところに住んでいて。それで、その時に約束したんだ。二人で最高の戦巫女になるって。今は完全に差が付いているけど、絶対に追いついて見せるんだから」

「うむうむ、素晴らしき友情だな。なんだか、感動してきたぞ」


 染み入るようにその話を聞いていた紅奈の瞳からはほんのりと涙が流れている。

 今まで口を閉ざしてきた零亜が、でも、と不穏な語り口で入ってきた。


「真白院天美に関するある噂があるのみたいなのだけど、知っているかな?」

「えっ……? なにそれ……」


 ビクンと、舞桜の心臓が跳ねる。零亜はスマホを操作しながら、


「戦巫女になると『ユニット』っていういわばチームに所属して活動することになるのが普通なのだけど、真白院天美が活動していたチームが解散になってしまって、それ以降真白院天美はどこのユニットにも所属せず、一人で活動しているらしいんだ」


 零亜は舞桜にスマホの画面を見せてくる。先ほどの記事から半年後の記事のようで、『未来のスター、真白院天美に暗雲。ユニット解散後、別ユニットに所属せず』という見出しに内容は『幼さゆえに連携を乱したか』や、『実力は確かだが人格に問題あり』、『戦巫女の特待生枠撤廃の声相次ぐ』などといった、天美を批判するような内容となっていた。


「酷い……! 何か理由があるに決まってるよ……!」


 その記事に対して温厚な舞桜も憤慨していた。


「おおー、燃えているなー、舞桜! その熱さが貴様のエネルギーになるはずだ!」

「先ずはわたしが戦巫女にならないと、だよね!」


 舞桜は猛然と目の前にある飯を喰い、午後の実技授業に備えるのであった。

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