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第十一話 秘密の特訓

 三日目の朝。


「おっす、舞桜! 昨晩はビーフジャーキーありがとな」

「おはよう……。ああ、そんなことも……あったね」


 舞桜は紅奈の挨拶に心ここにあらずという受け答えで、ふらつきながら座席につくとそのまま机に突っ伏して寝始めた。


「おい、零亜。舞桜はどうしたのだ?」

「ボクに聞かれても、分からないよ」

「――うーす、はじめんぞー。ん?」


 だるそうな様子で教室に入ってきた煌紀は、早速寝ている舞桜を発見する。


「ピッチャー、第一球投げましあ!」


 その舞桜に向かって、チョークを思い切りぶん投げた。


「ぎゃああああ‼」

「ストライーク」


 チョークは見事に舞桜の無防備な脳天に直撃した。


「授業に入る前にお知らせだ。来月、例年通り、『交流演習』を行うことになった。これから書類を配布するから目を通せ」


 舞桜は目の前に置かれた何枚かに綴ってあるプリントに目を通す。


 交流演習とは、毎年五月に行われる訓練生全員参加の伝統行事らしい。演習場(舞桜たちが初日に魂魔に襲われたエリア)を貸し切って、対戦形式で行われる大規模イベント。それも三人一組のチーム戦だ。


「目を通したな。早速だがチームを組め」


 書類を読み込む時間を十分にとると、煌紀は指示を出した。


 その指示通りに生徒たちは三々五々に散っていき、各々組みたい相手に声をかけていく。

 中でも人気があるのは紅奈だ。やはり昨日の一組最強決定戦トーナメント優勝が利いているのだろう。自他ともに認める一組のエースを自軍に引き入れることができれば、優勝の可能性はぐっと高まる。

 一方、誰からも声をかけられない舞桜は、そんな紅奈を羨まし気に眺めていた。


「なっはっは! やはりヒーローの周りには人が集まって来るものだな! ただし、すまないが、我には先約が居る! この黒鴉零亜だ!」


 紅奈は皆にアピールするように零亜の肩をがっちりつかむ。

 やっぱりか、というクラスメイトの声。零亜は紅奈と幼馴染というだけではなく、昨日のトーナメントでベスト4に残った実力者であり、一目置いている一組の生徒も多い。


「じゃあ、残り一枠を……!」


 チームは三人一組。零亜の分を差し引いても、あと一枠余っている。そこに入りたい生徒は多く居た。が、紅奈はその誘いを退け、


「すまん。もう三人目も決まっている」


 そう言うと、紅奈はある人のもとに近づいてく。


「舞桜。共にチームを組もう」

「え…………? わたし…………?」


 一番人気の紅奈の急な指名に、舞桜は目を丸くした。

 そのサプライズ指名に、一組の生徒たちからもどよめきが起こった。

 優勝候補筆頭のチームに入れることに、次第に喜びが勝り、舞桜の表情は次第に華のように明るくなる。


「はい! わたしで良ければ!」


 早々にチームを結成した舞桜は、余った時間で今一度交流演習の書類に目を通した。ルールの詳細が記されているが、そんなことよりも舞桜はある事項が目に留まった。

 それは交流演習のスタッフだ。現役の戦巫女が担当するのだが、その中に真白院天美の名前があったのだ。


(天美ちゃんが見に来るんだ! 天美ちゃんにわたしの成長した姿を見てもらえる!)

「紅奈ちゃん! 零亜ちゃん! 目指すは優勝だよね!」

「もちろんだとも!」

「うん……頑張ろう」




 座学を終え、午後は剣術や武術全般、そして筋肉トレーニングなどの体力づくりの授業を行った。

 魂に宿る霊的エネルギーである魂力を鍛えるには魂と直結している内面を磨くのが最重要だが、当然戦闘に耐えうる身体作りと技術も要求される。募るところ、『心技体』全てが揃わない限り戦巫女にはなれないのだ。


 最初の二週間こそ、座学と実技の半々くらいのカリキュラムで行われていたが、それ以降は実技中心のカリキュラムに変遷していった。

 舞桜は交流演習優勝に向けて、一生懸命鍛錬に励んだ。通常授業に加え、放課後は紅奈と零亜との交流演習に向けた自主練、更には夜のトレーニング施設での秘密の特訓。

 身体を極限までイジメ抜くことで、舞桜の成長速度は著しく、並の訓練生たちに勝るとも劣らないところまで到達していた。


「紅奈ちゃん! 零亜ちゃん! 早く、早く練習しよう……! 交流演習で優勝して……! 天美ちゃんに認められて……!」

「どうした舞桜、息が荒いぞ」

「ごめん……! 交流演習のことを考えると、タノワクが収まらいよ……!」




 入学から三週間ほど経過し、交流演習まで一週間ほどまで迫ったある深夜のことだった。

 真白院天美は、トレーニング施設に居た。

 天美はある理由で人間不信に陥っていた。だから人と極力合わなくて済む、深夜にトレーニングすることが日課になっていた。

 天美が訪れたエリアは、『遠距離訓練場』。所定の射座の前方には、魂魔を象った的が五つ点在している。


「《聞け、心の鼓動を。祈れ、願え、想え。さすれば魂は具現化し、解放する。さあ、至高の御身よ、我に神成る力を与え給え》」


 天美は坐禅の姿勢をとり、静かに【魂の具現化】をする。具現化された魂力は、白く強く輝きを放ち、揺らめくことなく泰然としている。舞桜はともかく、紅奈と比較しても、その魂力の出力、安定感は比べ物にならない。

 天美はその状態を維持しながら、手元にある端末を操作する。

 すると、魂魔の的が本物さながらのスピードで動き回り始めた。


「架けろ『天煌照弩』」


 天美は神器の第二解放目である【魂の解放ヴァルハライト】を、いとも簡単に発動する。

 日本刀から白亜に染められし弓へと変貌を遂げる。魂の解放によって、神器は真の姿と能力を解放する。

 ゆっくりと立ち上がると、弓を構え、目を瞑り、精神統一を開始。

 約十秒の沈黙の後、天美は一気に開眼し、弓を引き、魂力の矢を射抜く。今天美が放った弓矢は破魔矢と呼ばれ、古来より邪気を払うことに適した神器とされている。  

 【魂の解放】した多くの神器は【魂の具現化】の延長線上にある刀・剣型になる。神器が弓矢型に発現する者は、それだけで傑出した戦巫女の証であるのだ。

 魂力が纏い放たれたそれは、計五発。それら全てがものの見事に、動き回っている五つの的に、それぞれ一発ずつ射抜いて見せた。誰しもが息をのむ神業も、天美にとっては朝飯前だ。

 天美はそれを十セット繰り返す。それが彼女のルーティンだ。決して無理なことはしない。できることを着実にこなしていく。それが真白院天美のスタイルだ。

 天美は普段は所定のトレーニングを終えたら、まっすぐ寮に戻るのだが、気まぐれでトレーニング施設を見回ることにした。

 そこで明かりがついている『ソロ訓練場』の一室が目に入った。気になったので、天美はその一室の様子を見に行く。そこには幼馴染である、若葉舞桜の姿があった。


「それでは模擬戦闘を開始いたします」

 舞桜の眼前には、初日にボコボコにされた因縁の大型犬魂魔が鎮座していた。あの日以来の決戦だ。

 舞桜は両手で力強く神器を握りしめ、ゆっくりと魂力を纏わせた切っ先を向ける。初めて対峙したあの時とは比べ物にならない威風堂々とした風格が、確かに舞桜に漂っている。

 そして体を纏う白い光はより明るく、鋭く、安定し……、三週間前よりも、魂力の質、出力ともに格段に上がっていた。

 大型犬魂魔が、目にもとまらぬスピードで突進してくる。

 最初に対峙した時はそのスピードに手も足も出なかったが、舞桜は大型犬魂魔の突撃を刀で合わせ対応して見せた。

 一合、二合……と、大型犬魂魔による渾身の体当たりを着実に刀で受け止める。

 埒が明かないと判断したのか、大型犬魂魔は一旦距離を置いくと、持ち前の機動力を駆使して動き回り、敵をかく乱していく。

 だが舞桜は戸惑う様子もなく、むしろ「待っていました」と言わんばかりに不敵に笑った。

「はっ――!」

 裂帛の気合を入れると、身体を纏っていた魂力が、舞桜の両脚に集約し始めた。

纏の四大基本技法の一つ、『転衣てんい』だ。両脚に魂力を集めることで、通常よりも遥かに速い速度で移動することができる。

 『安定』から『昇華』への移行。舞桜は既にマスターしていた。転衣を発動させた舞桜は、縦横無尽に駆け回る。めまぐるしい速度で舞桜と大型犬魂魔は、何度も刀と身体を合わせた。

 互いが一度、後方の壁際まで下がる。そして互いに壁を思い切り蹴り飛ばすと、同時に最高速度で疾走を始めた。速度はほぼ五分、ちょうどフィールドの中点で交わる目算だ。

 舞桜の研ぎ澄まされた刃と、大型犬魂魔の鋭いかぎ爪が交差しようとした――その時だった。

 舞桜は僅かに身体を反らし、大型犬魂魔の渾身の一打を半身の態勢になって躱した。

 これにより完全に態勢を崩した大型犬魂魔は、速度を急激に落とした。

 舞桜は急停止してその身を反転させると、両脚に集約していた魂力を今度は剣先に移す。

 魂力の集中により白く輝きを放つ剣先を天に掲げると、一気に振り下ろした。

 白い輝きはレーザー光線のように鋭く放たれ、大型犬魂魔の隙だらけの背中に命中する。

 大型犬魂魔は悲鳴を上げることなく、静かに倒れ伏した。

 初めて対峙した時に敗北の決め手となった『閃光』を、今度は勝利の決め手としてやり返した。完璧なリベンジマッチである。


「人工魂魔の戦闘不能を確認しました。別の人工魂魔との模擬戦闘を行いますか」

「はい」


 リベンジを達成した舞桜は喜ぶ様子もなく、機械と同じように淡々とした声で言った。


「それでは人工魂魔をお選びください」


 舞桜が選んだ人工魂魔は、百足のように脚が何本も生えた個体。幼体の中でもトップクラスの危険度を誇る個体だ。

 少なくとも一戦終えて疲労がたまっている状態で、対峙する相手ではない。

 舞桜は正常な判断を失っていた。交流演習で優勝したい、戦巫女になって天美と一緒に戦いたい。そんな気持ちが抑えきれなくなってしまい、一種のゾーン状態に入ってしまっている。


 その様子を見ていた天美は、介入しようか一瞬迷ったが、人と関わることをやめた自分にこの状況を止める意味などないと考えやめた。人と関わることをやめたはずなのに、こうして様子を見に行くという矛盾を頭の隅に追いやって。


 百足型魂魔は想像よりも大きかった。舞桜の倍ほどもある体躯に一瞬、気圧されるが、それでも戦意を削ぐことなく、刀を強く握りしめ、戦う意思を示す。


「それでは模擬戦闘を開始します」


 いつもと全く同じ文言のアナウンスが流れると、舞桜は右脚に全体重を向けて思い切り地面を蹴りだした。

 確かな成長を実感したことによる、揺るぎのない自信。それが伝播するように、身体を纏う魂力が更に肥大化する。


 が、その時だった――。


 ぶちっ、と。明らかにしてはいけない音が、右脚から響いた。


「あぎゃがあああああああああああ‼」


 表現しがたいほどの激痛が、舞桜に容赦なく襲い掛かる。

 立つことすら難しくなり、舞桜は投げ出す形で倒れてしまった。


「――舞桜ッッッ……‼」


 なぜか親愛なる幼馴染の声が聞こえた気がするが、舞桜はそれを最後に意識が途絶えた。


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