26 休息
第三戦を終えて闘技場の扉をくぐると、待機所には熱気とざわめきが渦巻いていた。
俺は自分の体に目をやる。
シャルムとの戦いで受けた傷は深く、血が止まりきっていない。
体力と魔力の両方が消耗しているのを感じる。
「おい!」
声を上げて駆け寄ってきたのは、闘技場の管理者らしき魔物だった。
小柄だが鋭い目をしており、いかにも場慣れしている様子だ。
「お前が三戦全勝した人間か…」
管理者の魔物を睨む。
その目には少しの驚きと敬意が見え隠れしていた。
「三勝を成し遂げた者には、特別な権利が与えられる。お前がこれ以上進むことを望むなら、大魔王ガルー様の元へ案内する手続きを取ることができる。」
「それが目的だ。」
俺の即答に、管理者の魔物は目を細めた。
「分かった。だが、その前に休息を取れ。」
「ああ」
俺は静かに立ち去ろうとするが、観客席からの視線を強く感じた。
異様な空気が張り詰め、ざわめきが増していく。
「…気をつけろ。周囲の目が変わり始めているぞ。」
神威が低い声で警告する。
確かに感じる。観客の中には嫉妬や敵意を向ける者も混じっている。
「それがどうした。」
俺は気にする素振りも見せず、待機所の片隅で傷を手当てし始めた。
ポーションを使い、傷を癒しながら魔力の回復も図る。
そして目を閉じた。
◇◆-◇◆◇-◆◇-◆◇◆-◇◆-◇◆◇-◆◇-◆◇
待機所での傷の手当てを終え、魔力がわずかに回復した俺は、大魔王ガルーの居城へと案内されることになった。
闘技場の管理者が先導し、俺の背後には興奮冷めやらぬ観客たちが囁き声を交わしている。
「本当に人間がガルー様に会うのか…」
「前代未聞だぞ…」
ざわめきは徐々に遠のき、俺の目の前に広がるのは巨大な黒い城だった。
城壁はまるで闇そのもので、見る者を圧倒する存在感を放っている。
「これが魔界の頂点に立つ者の居城か。」
神威の声にはわずかな興味と警戒心が混ざっていた。
「頂点とやらに会いに行くだけだ。」
俺は淡々と答えながら、足を進めた。