17 イブの夜、俺は魔界に恋をした
俺は写本を取り出し、錬金術師のルードに渡した。
「これでいいんだろ?」
ルードはそれを受け取ると、一瞬目を細めてから深く頷いた。
「息子が命を懸けて守ろうとしたものだ。ありがとう…」
「ただの本じゃないだろ。」
俺は黒炎の霊刃を柄で軽く叩きながら言った。
「屋敷の地下で拾ったときソレ触媒にして魔物が湧いて出たぜ」
ルードの目が驚愕に見開かれる。
「魔物が…?触媒として…まさか、それは…」
ルードは写本を慎重に開き、中に記された魔法陣の記述をじっくりと見つめた。
その眉間には深い皺が刻まれ、声が低く漏れる。
「門だ…この写本を使って、小型の門を開いたのか…」
「門?」
俺は首をかしげる。
「魔界と人間界を繋ぐための小さな門だ。」
ルードは静かに言いながら、再び写本に目を落とす。
「この写本の魔力構造を使って…魔界に繋がる門を開くための練習に使われたのだろう。おそらく、大きな門を開く準備段階としてだ。」
「…なるほどな」
俺は霊刃を握りしめながら薄く笑った。
「魔界か…魔物がゴロゴロいるなら、そっちに乗り込んじまった方が早いかもしれねえな。」
ルードの目が厳しく細まる。
「…本気で言っているのか?魔界はただの戦場ではない!そこには常軌を逸した存在が溢れている。決して甘く見るな!」
「ああ」
俺は軽く頷きながら、頭の中で魔界の光景を想像していた。
「魔物が出てきたってことは、あの瞬間に魔界に行けたってことだったのか…門のことをもっと知っていれば、迷わず飛び込んでたな。」
ルードは呆れたように声を荒げて何か言っていたが、俺は気にせず考えを巡らせる。
「次に門が開くチャンスがあったら、どうすりゃ良い?教えてくれ」
真剣に尋ねる俺を見て、ルードはため息をついた。
「狂人か……だが写本を使って門を開かせないためにも、まず触媒としての性質を解明する必要がある。」
「研究とやらは好きにやってくれ。」
俺は生返事をしながら歩き出した。
頭の中では、魔界に乗り込んで次々に強敵と戦う光景が広がっている。
全力を尽くして全てを倒す――それ以外に考えることはない。
「門か…またチャンスがあるかな。」
低く呟きながら夜風を感じた。
黒炎の霊刃が微かに光を放ち、神威が念話で静かに言う。
「お主…本気で魔界に行く気か?」
「当たり前だろ。」
俺は小さく笑った。
「魔物は好戦的なんだろ?じゃあ行くしかねえだろ。折れるのは嫌だろうが俺の性分は知ってるよな。」
「呆れるばかりだ」
神威の声にはわずかな諦念が混じっていたが、俺は気にしなかった。
夜の闇に足音を残しながら、俺は期待で心を躍らせていた。
魔界で待つ未知の戦い、未知の経験――そのすべてが、俺を呼んでいるようだった。
俺は魔界に恋をした。
イブの夜だった。