13 最初の手がかり、なめんなよからのざまぁ
夜明け前の街。
冷たい風が頬を撫で、人気のない路地に闇が深く沈んでいる。
俺は錬金術師の息子が使っていた工房に向かっていた。
神威が静かに語りかけてくる。
「お主のことだ。すぐに痕跡を見つけ出すだろう。だが、油断するな」
「分かってる」
工房は街外れの静かな場所にあった。
扉にはまだ血のように赤黒い痕跡が残っている。
「侵入された形跡は明らかだな」
扉を押し開けると、内部は酷く荒らされていた。
机はひっくり返され、棚の瓶は床に散乱し、薬品が異様な臭いを漂わせている。
「写本を探していたのか。それとも別の目的か」
床に落ちたガラスを踏みながら、俺は部屋を見渡す。
ふと、机の裏に何かが光るのが目に入った。
「…これは」
拾い上げたのは、黒く染まった紙切れ。
だが、その一部には微かに見覚えのある錬金術の紋章が刻まれていた。
「息子が残した手掛かりか」
「紋章の一部だな。気づかれぬよう急いで書き残したのかもしれん」
神威の声が冷静に響く。
その瞬間、工房の外から微かな音が聞こえた。
「…気配」
息を潜め、工房の影に身を隠す。
暗闇の中、複数の足音が近づいてくる。
「中を探せ。残っているものがあれば回収しろ」
低い声が聞こえる。
俺は黒炎の霊刃に手を掛け、足音が扉を超えた瞬間、影のように動いた。
「動くな」
不意を突かれた男たちが目を見開く。
3人――武器を構える隙も与えず、一瞬で間合いを詰めた。
刃が輝き、一人の武器を弾き飛ばす。
残りの二人は驚愕の声を上げるが、俺の拳が容赦なく顎を撃ち抜いた。
「ぐっ…!」
「…誰の指示だ」
床に転がる男を踏みつけ、声を落とす。
「言え。誰が写本を狙っている?」
「し、知らねえ…!俺たちは写本を高値で売るため…」
その言葉に、神威が呟く。
「闇市場だな」
男が震えながら続ける。
「北側の地下市場だ。そこの奴らが写本を高額で買い取るって話だ…」
「…面倒な連中だな」
男の意識が途切れるのを確認し、俺は黒炎の霊刃を収めた。
「写本の一部は闇市場に流れているかもしれん。そこを辿れば、次が見えてくる」
工房を出ると、東の空が微かに明るくなり始めていた。
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闇市場――そこが次の手掛かりだ。
俺は夜明けの街を歩き出した。
神威が低い声で呟く。
「気をつけろ。不穏な気配」
その時だった。
キィン――!
微かな風を切る音がした瞬間、右肩のすぐ横を何かが通り過ぎた。
矢だ。
毒の匂いが鼻を刺し、地面に突き刺さった矢先が微かに光を放っている。
俺はすぐに探知魔法を使うが…なぜか見つけられない。
「遠距離からの攻撃……」
神威がさらに鋭い声を出す。
「この前錬金術師が話していた魔道具を思い出せ。魔石を消耗し、短時間だが使用者の気配を完全に消すと…」
さらにもう一本、矢が飛んでくる。
今度は足元の砂を弾いた。
狙いが正確すぎる――これはただの射手ではない。
俺は低く呟いた。
「ズールか…?」
神威が静かに尋ねる。
「知り合いか?」
「ああ。組んだ事はないがギルドのメンバーで…結構ヤベェ奴だ、」
ズール――ギルドのメンバーで、他国に派遣されていた凄腕の暗殺者。
狡猾で残忍、標的をいたぶることを楽しむ性格を持つ。
どんな相手でも絶対に逃がさないとされる執拗な追跡者だ。
魔石の魔力を使う特殊なボウガンやいろんな毒を使うと言われていた。
神威が再び指示を出す。
「霊刃を空高く投げろ。この場の魔力の流れを探れば、奴の居場所が分かるかもしれん」
俺は黒炎の霊刃を
天高く放った
刃が空中で回転しながら
暗闇を切り裂く
その瞬間
刃の中に宿る神威の魔力が広がり
周囲の空間を探る
「…見つけたぞ。奴は南西の廃屋だ」
俺は黒炎の霊刃を掴み一気に地を蹴った。
加速魔法を発動し
跳躍
廃屋の屋根に着地する
「久しぶりだな、ズール」
ズールは一瞬驚き、すぐに冷たい笑みを浮かべた。
「修羅」
俺は一歩前に踏み出し、冷たく問いかけた。
「誰の指示だ」
「誰の指示だろうと関係ない。お前を仕留める、それだけだ」
ズールが次の矢を装填する。
その瞬間、俺は背後に閃光魔法を放った。
「ぐっ……!」
強烈な光が廃屋を覆い、ズールが目を押さえてバランスを崩す。
その一瞬で俺は間合いを詰めた。
黒炎の霊刃を振り抜く。だが――
ズールは直前に身を捻り、矢を放ちながら距離を取った。
「…くそっ」
俺の左脇腹に
矢が突き刺さってる
鋭い痛みと共に、体中に毒が回る感覚が広がった。
「この先も毒を使うと心得よ」
神威が低く警告を発する。
「解毒ポーションはまだあるのか?」
俺は腰袋を探るが、空っぽだ。
「切れてる…」
ズールはまだ眩しそうにしている
時間は稼げている
体力が削られていくの
が分かる
視界がぼ
やけ立ってい
るのも辛い
「神威…」
神威がため息を吐くように念話を送る。
「仕方ない。あまりやりたくはないが……これ以上死に近づくのは我も望まぬ」
刃から温かな光が広がり、俺の体を包む。
「神威……これ、負担が大きいんじゃ?」
「この術を使えば…黒炎の霊刃にダメージが蓄積する。刃が折れれば…我は消滅するかもしれん…」
「……すまない」
黒炎の霊刃が青白く光り
腕のダイヤのブレスレットが呼応する
体力、気力、魔力が
一気に回復する感覚が
走る
傷口が少しずつ癒えていく
解毒はできていないが
痛みが引き
力がみなぎった
「今度こそ…」
跳躍でズールとの距離を詰める瞬間、奴の表情が微かに歪む。
だが、その歪みは怯えではなかった。
むしろ、追い詰められた獣のような狂気と狡猾さが滲んでいた。
ズールが咄嗟にボウガンを斜めに構え、矢を放つ。
それは単純な一撃ではなかった。
矢が空中で分裂し、俺を囲むように軌道を変える。
「ッ!」
咄嗟に魔力を脚に集中させ、空中で体を捻る。
その瞬間、矢が風を切り裂きながら俺のすぐ横を掠めた。
「避けるの上手いな」
ズールが舌打ち交じりに笑う。
ズールの指が弦を引いた瞬間、空気が切り裂かれる音が鳴り響いた。
殺意が宿った矢が、猛烈な速度で一直線に俺へ飛び込んでくる。
その矢は迷いなく、急所を正確に狙っていた。
だが、焦りはない。
黒炎の霊刃を握り、全身に魔力を巡らせる。
刃の赤黒い光が
わずかな緊張とともに
脈動を始めた
矢が視界を裂くように迫る。
一瞬――俺の腕が反射的に動いた。
最初の矢が、黒炎の霊刃に叩き落とされる。
火花が散り、砕けた破片が周囲に飛び散った。
続いて二本目。
矢が空を切る音を残しながら直進してきたが、俺は一歩踏み込みながら刃を振り抜き、それも正確に斬り落とす。
三本目は斜めから放たれていた。
矢が鋭い弧を描きながら俺の側面を狙うが、黒炎の霊刃が炎の残像を残しながらそれを弾き返す。
次の瞬間、四本目がすぐ背後から放たれていた。
俺は素早く身を捻り、刃を振るう。
四本目も粉々に砕け散り、矢尻が壁に突き刺さる音が響く。
そして、五本目――それはズールの全力を込めた矢だった。
強烈な魔力を纏ったそれが、轟音とともに一直線に突き刺さるように迫る。
俺は一瞬の間に矢を正面から捉え、黒炎の霊刃を真っ直ぐ振り抜いた。
鋭い衝撃が刃を通じて伝わり、火花が舞う。
だが、矢は力を失い、無力な破片となって散っていった。
俺の息が
上がる
「そろそろ限界だろ。解毒はできていないよなぁ?それ普通の解毒剤じゃあ無理だぞぉ」
確かに体の
動きが鈍い
視界が揺れ
音がやけ
に耳に響く
ズール
はさらに距離を
取りながら冷笑を浮か
べてボウガ
ンを構え直し
た
「戦闘力に自信ありじゃなかったのか?んー?どんな気分だぁ?」
俺は気合を入れて
気力をわずかに回復させる
「なめんなよ」
「まだ余裕かぁ?」
ズールは下品に笑いながら次の矢を放つ。
今回は、ただの毒矢ではなかった。
矢が空中で魔力を帯び、爆発するように広がる。
細かい破片と毒が周囲に降り注ぎ、視界を奪い、逃げ場を無くす――狡猾な攻撃だ。
神威が冷静に念話を飛ばす。
「我が攻撃する!霊刃を投げろ!」
俺は黒炎の霊刃を咄嗟に投げる。
回転する黒炎の霊刃は
不自然な
軌道を描きながら落下し
ズールのボウガンを
弾き飛ばし
奴の手を負傷させる
この間に俺は激マズの特製回復ポーションを嫌々飲み、毒で削られた体力を回復!
神威の攻撃が成功した瞬間
俺は一気に間合いを詰め
黒炎の霊刃を手にして(ただいま神威)
ズールに蹴りを入れた
それでもズールは素早く予備のボウガンを取り出し、構え直す。
ズールは毒矢を二本同時に放ち、さらに煙幕を使って視界を奪った。
煙が広がる中、奴の姿が完全に消える。
「神威!」
「待て。術を使う」
黒炎の霊刃が再び光を放ち、神威の探索術が周囲に広がる。
「見つけた煙の奥、十字路の左!」
俺は跳躍し、一気に距離を詰める。
ズールは俺の動きを予測していた。
矢が一瞬早く放たれ、俺の肩に掠る。
痛みと痺れが一瞬走るが、俺は足を止めない。
黒炎の霊刃を全力で振る。
刃が
ズールの胴を
斬り裂き
血飛沫が
舞う
ズールは膝をつき、苦しげに喘ぎながら俺を睨みつけた。
「……お前…化け物だな……」
「言いたいことはそれだけか」
「…これで終わりだと思うなよ………奴らはお前を…」
ズールの声はそこで途切れた。
神威が静かに呟く。
「手こずらせおって…だが見事だったな」
俺は霊刃を収めながら低く答えた。
「ざまぁ」
体に残る毒の痛みを感じながらも、俺はその場を離れた。
早めに解毒しなきゃ