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1 追放、修羅と神威

修羅しゅら



魔物の群れを目の前にして、俺は無意識に笑っていた。


亜神・神威かむいの宿る剣、黒炎こくえん霊刃れいじんを握りしめ

次々と湧き出る敵に飛び込む。


斬る、蹴る、魔法で翻弄する…


考えるよりも早く身体が動き

俺の刃は魔物たちの急所を的確に貫いていく。


「そこまでやらなくても!素材が台無しだ!」

後ろからギルドのメンバーの声が聞こえるが、俺の心には届かない。


頭が真っ白になる感覚――それがたまらなく心地よかった。


気づけば、俺の周囲には動かない魔物の残骸が転がっていた。


だが、そのほとんどが原型を留めていない。


「おい、修羅しゅら。また素材を駄目にしたのか?」

呆れたような声


振り返ると、ギルドのメンバーたちが距離を取って俺を見ていた。


「戦闘狂ってのは知ってたけど、ここまでとはな。完全に殴殺状態じゃねえか。」


ドン引きしている 


「仕方がないだろ。こいつは再生能力があるようだったからな…本能でやっちまうんだ。」

俺は肩をすくめた。


その言葉に誰も返さない


――それが、俺が追放されるきっかけだった。



◇◆-◇◆◇-◆◇-◆◇◆-◇◆-◇◆◇-◆◇-◆◇



ギルドに新人がやってきた


どこかの名門家出身で、「次代の天才」と噂される剣士だ。


ギルド全体が歓迎ムードで盛り上がる中、俺の存在は次第に冷ややかなものになっていった。


「修羅、新人の噂聞いたか?」

「これでもうトラブルメーカーを抱えておく必要はねえな。」


俺を追い出したがっているのは、もはや見え透いていた。


新しい強者が入った以上、俺の存在は邪魔になるだけ――そう思われているのだろう。


「修羅、いつまでここにいるつもりだ?」

幹部の一人が俺を睨みながら言った

「お前なんてもう必要ねえんだよ。さっさと出て行け。」


俺は答えなかった

ただ、無言で彼らを見返した。


◇◆-◇◆◇-◆◇-◆◇◆-◇◆-◇◆◇-◆◇-◆◇


赤黒い光を放つ黒炎の霊刃を握りしめ、俺はその場に立ち尽くしていた。


目の前には、共に戦場を駆け抜けた奴らが、揃いも揃って俺を見下ろしている。


「修羅、ギルドをクビだ!出ていけ!」

ギルマスのオウルの冷たい声が響く。


協調性がないだとか、素材を無駄にするだとか、そんなつまらない話ばかり。


「確かに強ぇが役に立たねえんだよ」

別の奴が嘲笑混じりに吐き捨てる。



……俺はずっと実力を隠していた。


広範囲の補助魔法や防御魔法もあれこれと使えたが、ギルドメンバーの前ではあえて封じていた。

勇者時代のように目立つのは嫌だったからだ。


実力を出せば、また“英雄”だなんだって祭り上げられ、束縛される。

そんな生活は二度とごめんだと思っていた。



舐めた事を言ってくるのは

俺の実力を本当に見抜けなかったからだろう。


「一人も……可能性すら…感じなかったのか…?」

俺は内心、がっかりしていた。



確かに攻撃の時、俺は本能的に急所を狙ってしまう力が働く。

そのせいで、討伐した魔物の素材を駄目にすることが多かった。


仕方がない

制御しようとしても、身体が勝手に動いてしまうんだからな。


だが、大型の魔物なら傷つけての討伐が当たり前なんだから、十分に貢献はしていた。



「おいおい、どうした?無言かよ。」

別の奴が下卑た笑いを浮かべる。


「ギルドを抜けたら、パーティはもう組めねえぞ?孤独で死ぬだけだってのに、哀れなもんだな。」


確かにギルドに所属している者以外はパーティを組みづらい。


「こんな役立たずがのさばってたのが間違いなんだよ。」

幹部の一人が吐き捨てるように言う。


俺は答えなかった


ただ、無言でうなずくだけだった。

神威が宿る黒炎の霊刃とダイヤの魔石のブレスレットがあれば、別に一人でも大丈夫だからな。


ディグという魔法使い、下種で下品な男が嫌味を込めて笑う。

「黙っちまったか?」


高火力の獄炎魔法が俺に向かって放たれる。


周囲からは石が投げつけられる。



炎と大きな石が

防御魔法の結界にぶつかり

炎は受け流され

石は粉々に砕けて

地面に散らばった


ディグは狼狽えるが、俺は警戒を解かない。

俺に効果がある魔法は何なのか…もう考えているだろう…


「出ていけ!」

「二度と戻ってくんな!」

罵声と投石が続く中、俺はただ静かに結界の内側で立っていた。


「煽られるくらいなら許すが…今の魔法…他のヤツなら死ぬか大火傷だ…」

俺はぼそりと呟いた。


「お主、ずいぶんと安く見られたものだな。」

神威の声が脳内に響く。


「そう思うだろ?」

俺は念話で答えた。


「実力を隠した結果よ。もう隠し通すことに疲れたのではないか?」

神威の声に、俺は軽く鼻を鳴らした。


「出ていくよ」

口角を歪ませた。


連中の顔には安堵と嫌悪が浮かんでいた。



◇◆-◇◆◇-◆◇-◆◇◆-◇◆-◇◆◇-◆◇-◆◇


「これからどうする?」

神威が静かに問いかける。


「決まってるだろ。」

俺は背を向けて歩き出した。

「今までよりもずっと自由に…強いやつらと戦うだけだ。」



風がまた吹いた。


だが、それが俺の炎を吹き消すことはない。



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