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血の盟約  作者: カワチ
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四章


 二人の下僕が消えた気配を感じ、空き家に隠れていた寝墨が苛立たしげに爪を噛む。

「クソ、本当役立たずだな。あいつらは」

 怒り任せに、近くにあった机の足を蹴り上げる。瞬間、ボキッという音と共に机が崩れていく。

 空中に舞う木片に咳き込みながら、寝墨の怒りはさらに膨れ上がる。

「クソクソクソ、いつか返り討ちにしてやる」

 寝墨は穴が空いている座りながら、ブツブツと呪詛を呟き続ける。

 吸血鬼狩りに襲われてから、寝墨の生活は最悪になっていた。

 今までは女の家を転々として暮らしていた。血が欲しければ、自分の血を与えて吸血鬼にした下僕に集めてもらうことで、快適な生活を送っていた、はずだった。

 そんな時、真祖が現れたと聞いて、寝墨は飛び上がるほど喜んだ。真祖の血は太陽すら克服すると聞かされていて、実際に太陽を克服した吸血鬼もいると噂で聞いていた。

 寝墨自身も半信半疑だったが、真祖の娘と名乗る吸血鬼を見て、真実だと知った。

 彼女は日の光の下を自由に歩いていて、まるで人間のようにしか見えないほどだった。

 下僕を使って真祖の娘が近くの街に現れたと知り、喜んだのも束の間、そこは吸血鬼狩りが潜んでいる場所だった。

 過去に何も知らない寝墨が訪れ、死にかけて以来、絶対に行かないようにしていたのだが、真祖の娘は吸血鬼狩りが潜む街に入っていたと下僕から情報を得た。

 吸血鬼狩りがいることと、真祖の娘を手に入れることを天秤にかけて、わずかに傾いた真祖の娘を手に入れようとした。

 結果、吸血鬼狩りに見つかってしまい、こんな荒れた空き家に潜むことになったのだ。

 溜め込んだ怒りを全て吐き出した後、寝墨が冷静さを取り戻す。

「まあいい。とりあえず、新しい下僕を見つけないと」

 コンビニに捨てられていた弁当にかぶりつきながら、寝墨は次の手を考える。




「……」

「……」

 夜の学校での戦いから数日。

 家のリビングでは、櫂奈とサクヤが向かい合わせに座っていた。いつものようなやりとりはなく、重々しい空気に包まれていた。

「そういえば、学校休みなんだよね」

「……」

 耐えきれずに喋ったサクヤの言葉だけが、虚しくリビングにこだました。

 ほとんど動けない櫂奈を引きずってサクヤが校舎を出た後、もちろん高校は大騒ぎになった。

 無理やり引きちぎられたように外された扉。亀裂が走る廊下の床。何個か割られた窓に、その他諸々。

 一晩のうちに何者かが侵入し、戦った跡が残された高校は、しばらく休校となった。

「あれ、どういうことなんだよ」

 やっと口を開いた櫂奈の言葉に、サクヤが首を横に振る。

「分からない。あんなの初めてだったし」

 俯きながら答えるサクヤの言葉には、嘘は感じられなかった。だからといって、櫂奈は納得はできない。

「本当に何も分からないのか?」

「一つだけ、心当たりはあるけど」

「教えろ」

 詰めるような口調になっていると自覚しつつ、櫂奈は止まることができなかった。

 推測だけど、と前置きをしてサクヤが重たい口を開く。

「吸血鬼が人間に戻るのは、人間の血が多いからなの」

 意味が分からないことを察して、サクヤが続きを話す。

「私とか、お母さんは真祖の血が百パーセントなんだけど、吸血鬼は絶対に百パーセントにはならないの」

「……そのことと、関係あるのか?」

「うん。多分だけど、あの吸血鬼は真祖の血が多すぎたから、人に戻らずに灰になったの」

「じゃあ、そういう吸血鬼は血を抜くと死ぬかもしれないのか?」

 視線を逸らしながら、サクヤが頷く。

「真祖の血が多いのは、長い間吸血鬼になっていたか、真祖から直接血を多くもらったかのどっちかだと思う」

「真祖の血が多いのって、どうしたら分かるんだ?」

「見た目じゃ分からない。やってみないと」

 つまり、血を抜いてからじゃないと人間に戻るか分からないということらしい。

 櫂奈にとって吸血鬼を人に戻せる安全な方法だと思っていた前提が、全て崩壊した。

「それなら、俺は協力しない」

「そんな⁉︎」

「分かってるだろ。俺が殺さないように戦ってるのは」

「そう、だけど」

 納得いかないサクヤが俯く。

 母親を復活させたいサクヤにとっては、櫂奈が協力しないことは絶対に避けたいことだ。そのうえ、血操術を使える人間でサクヤに協力してくれるのは、間違いなく櫂奈だけだ。

 サクヤが顔を上げると、何かを決意したような表情になっている。

「でも、私はお母さんを助けたい。だって、おかしいじゃん。お母さんは何も悪いことしてないのに」

「それは同情する。それでも、俺は誰かを犠牲にする可能性があるなら協力できない」

 櫂奈の言葉に、サクヤが鋭く睨み返す。

「だったら、無理やり従わせるよ」

「……血の盟約か」

 櫂奈が赤黒い籠手を両手に纏う。

「本気なら、俺も容赦はしない」

「……バカ。バカバカバカ」

 悔しげにサクヤが椅子から立ち上がる。

「バカぁぁぁぁ!」

 そう言い残して、サクヤが家を出ていく。

 櫂奈はその場に立ったまま、サクヤを見送った。





一旦はここまでで終わります。

次の公募に送る原稿が書き終わり次第、続きを書く予定です。

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