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第2話ジョン・レノンのサッカーアカウント
ジョン・レノンがひそかに持つサッカー選手のアカウントは、ルクセンブルクを拠点としていた。本名とはかけ離れた、覚えやすいシンプルな名前を使っていた。ピッチでの彼の定位置は、中盤の要となるセントラルミッドフィールダー。ルクセンブルク代表の一員として、ワールドカップのヨーロッパ予選や、ヨーロッパチャンピオンズリーグの予選にも、誇りを持って出場していた。
もちろん、ルクセンブルク代表は決して強豪とは言えない。ワールドカップの本大会への道のりは険しく、チャンピオンズリーグの舞台も予選の壁に阻まれることが多かった。それでも、ジョンにとって、ヨーロッパのトップレベルの選手たちと真剣勝負を繰り広げる時間は、何物にも代えがたい喜びだった。音楽の世界とは全く異なる、肉体と知性がぶつかり合う激しいゲームの中で、彼は純粋な闘争心と、ボールを支配する喜びを感じていたのだ。それは、ジョン・レノンという重圧から解放され、ただ一人のサッカー選手として存在できる、貴重な時間だった。