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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第三章 《過激派陰陽師達、宵闇に蠢く。》
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第94話『対価』



「……俺、病み上がりなんだけど」


 しばしの静寂が部屋の中を支配した後、腕組みをしていた『狐』から、そんなくぐもった声が聞こえた。


「……そうでしょうね。

 あれほどの、

 代償が無いこと自体、不自然です」


「……大体、俺は今日、()()()をしにきたわけじゃない」


 そう言いながら、『狐』はゆっくりとこちらを指さす―――――。


「用があるのは、そこの()()()()()だ」


 指を指された張本人。

 は不敵な笑みを口に携えたまま、真っ直ぐに『狐』を向かい合っていた。


「……あの時の「」、忘れていないよな?」


 佐伯支部長は、訝しげな瞳を秋人へと向ける。


「……秋人、どういうことです?」


「……やっぱり、覚えていたんだね……。

 ()()()()()で有耶無耶にできるかと思ったんだけど」


 イタズラが見つかった少年のような、バツの悪い表情。

 膝を軽くと叩き、秋人は同じく卓を囲む重役、そして佐伯支部長に向けて。

 かつて自身が『狐』と交わした約束を語り始めた。



 ***



「清桜会として、『狐』に全面協力する……!?」


「『狐』の願いを一つ……!?」


「いや~、そうなんですよね……」


 タハハ、と情けない笑みを浮かべている秋人。

 秋人の口からは、三ヶ月前の霊災の調査に『狐』を秘密裏に参加させていたこと。

 その対価として『狐』に全面協力をすることを、当時の支部長支倉秋人が約束していたことが語られた。


「職権乱用もいいところだ!

 大体、当のお前は既に()退()()()()ではないか!!」


「いやはや……、宗一郎さんにご相談も無く、勝手に決めてしまって、申し訳ない」


 コイツは本当に、昔からヘラヘラ何を考えているか……!!

 にわかに騒がしくなる支部長室内。

 それもそのはず。

 秋人が結んだ約束は、責任感の欠片もない!

 せめて重役を招集し、決議を採ってからとかできなかったのか!


「いやいや、本当にできることなら、『狐』君の望みをきいてあげたかったんですけどねぇ。

 霊災の時も、()()、楓を止めてくれたし……」


「……!」


 誰も、何も言わない。

 いや、()()()

 あの未曽有の大災害を、この場にいる誰しもがすることがだったからだ。

 清桜会の息のかかった新太はともかく、『狐』はそもそも我々に関わる必要もない中、楓を止めてくれた――――――。

 秋人。

 霊災のことを話題に出されれば、誰も何も言えないことを知っていて……。


「……『狐』には、来栖まゆりの一件でも借りがあります」


 すると。

 一連の流れをずっと聞いていた、佐伯支部長が静かに口を開いた。


「……分かりました。

 ()において、貴方の望みを聞きましょう。

 ……力になれるかどうかは、また別の話ですが」


「……」


 腕組みを解き、真っすぐに支部長に向き直る『狐』。


「……『暁月』と敵対する意思があるのは、俺も同じ。

 お前らと同じタイミングで戦闘になるときもあるだろう。

 

 その時に―――――お前ら、()をよこせ」


「「「……!!」」」


 現場の陰陽師を指揮する権利。

 それは、支部長や「至聖(おれ)」並みの権限――――――。

 多くの命を預かる責任のあるものにのみ許され、託されるもの。


「……その条件を呑めば、お前は清桜会に……?」


「……?

 ()()()()()だろ」


「……ふざけっ……!!」


 コイツは、一体何を言ってるんだ……!?

 そんな横暴、あっていいはずがない……!

 自分は清桜会にその身を置かないのに、現場の人間を動かすと言うのか!!?




「……いいでしょう」


「なっ……!!」


 しかし。

 たった一人。

 たった一人だけが。

 ――――――『狐』の提案に、肯定した。


「支部長……!!」


 周りを見ると、他の重役たちも目を見開き『狐』と支部長に目線を向けている。


「……貴方達が、何を言いたいのかは分かります。

 しかし、()()()()()()()()

 ―――――これで、勝率が一%でも上がるのであれば、私は彼の提案に乗ります」


「正気とは、思えませんな……!」


「なんとでも。

 綺麗ごとだけでは、人がいたずらに死ぬだけです」


「……決まりだな」


『狐』は颯爽と踵を返し、外へと出ていく――――――。

 俺らはただそれを見つめることしか、できない。

 結局『狐』が、最後まで面を取ることはなかった。

 つまりは奴にとって俺らは()()()ということに他ならない。

 そんな油断のならない相手の指揮権を得る……。



 ――――――お前は一体、何を考えているんだ?



 俺が問いをもったところで、眼前のドアはただ、無慈悲に閉まるだけだった。










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