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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第三章 《過激派陰陽師達、宵闇に蠢く。》
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第88話『暁月』



 東区栗原町に存在する、原生生物保護区(ビオトープ)内―――――。

 そもそもの前提として原生生物を保護するという名目上、()()には人が寄りつくことはない。

 人払いの術式、隠密系の術式を駆使し、隠された死角(デッドスポット)

 昼間だというのに、ビオトープ内は重苦しい空気が流れていた。

 大きく葉を広げた植物が林立しているせいだろう。

 先ほどまでの炎天下から一転、夕刻時のような暗さを醸し出している。


「……」


 薄く張られた一枚目の結界。

 悪性をはらんだ生体光子のみを退ける二枚目の結界。

 最後、最終結界を越えた先にある、小さな木作りの小屋(ログハウス)―――――。


 僕はいつものようにドアを開け、カビ臭い軋む床を鳴らしながら、へと下っていく。

 階段を一番下まで下った最奥。

 そこは、学校の体育館ほどの開けた空間が広がっていた。

 光源は数えるほどの灯籠しかない。

 その中心にいる、数多の人影―――――。


「あーーーーーーー、()()()っ!!

 やっと来た!!!」


 僕の姿を見かけるなり、耳に劈くような高い金切り声。

 一つの人影がタタタとこちらへ駆けてきて僕の目の前で止まった。


「すいません……寧々さん。外で体長を崩してしまって……ちょっと休んでいました」


 ―――――一条寧々(いちじょう ねね)

 桃色の狩衣を着た、身長が小学生くらいしかない少女。

 ショートカットの灰色の髪の毛が綺麗に切りそろえられていて、薄めの化粧をしているのが分かる。

 これで僕より三つも年上というのだから驚きだ。


「ほらほら早く! みんなツバキが来るのを待ってたんだよ??」


 促されるままに、人影の方へと歩みを進めると。

 そこには寧々さんを含め、四、五人の狩衣やらを着た人物が、テーブルを囲むように座っていた。


「―――――体調が悪い?

 椿、それはやろ」


 卓についている一人、着崩した鉄色の狩衣と大量に耳に開けられたピアス。

 そして、新都(ここいら)ではあまり聞かない関西弁。

 ―――――弥生瑞紀(やよい みずき)


「……」


「大体、お前のが足りないねん。覚悟もない人間が、を制御できるわけないやろ。

 自分、ほんまにやる気あるんか?」


「それは……」


「まぁ、そう言ってやるな、瑞紀。

 ……椿は優秀だ。予定よりも大幅に浸食が進んでいる。

 適性があるが故の結果であることは、お前も分かっているだろう?」


 ―――――白連曹純(はくれん そうじゅん)

 瑞紀の対面に座る腕組みをした男性。

 年の功は多分50から60歳ぐらいだと思うが、詳しい年齢を聞いたことはない。

 白髪交じりの老兵という出で立ちで、黒色の狩衣がこれまでの歴史を感じさせる。


《そんな餓鬼はどうでもいい。

 我は、一体いつと闘えるのだ?》


「かーーーーーー!!!

 お前ほんまそればっかやな!!

 だから、前の出撃は、清桜会の各都市の戦闘力を測るためって言ったやろ!!」


 瑞紀が突っかかっているのは、()()()甲冑姿。

『大嶽丸』。

 日本最大の霊力を携えた、大妖怪の一角。

 先月の新都襲撃で、『狐』と相対した『大嶽丸』。

 しかし、『狐』も十二天将。

 不死性の破壊を受け、その左腕を失い、今にいたる。





「そんなに急がないでよ。『大嶽』。

 ―――――いずれ『狐』と闘らせてあげるからさ」




 静かに口を開いたのは、卓の中央に鎮座する一人の人影。

 似せ紫色の狩衣に、華奢な体躯。

 とてもではないが、式神を用いた先頭ができるようには見えない線の細さ。

 見た目もそれ以上に特筆すべきことはない。

 そこら辺を歩いていても、目も引くこともないだろう。

 しかし。

 その実、()()()()()()()()

 ―――――土御門泰影(つちみかど やすかげ)



新都(ここ)に戦力を集めたのも、()だろう?

 ―――――仁と天空、我が組織における


 楽しそうに、ただ嬉しそうに、泰影は笑みを浮かべている。


「『六合』は、期待外れ。適合者じゃないんだろうね……。

 やっぱり、仁だよ……!

 仁以外いないんだよ、俺を楽しませてくれるのは……!!」


 玩具を与えられた子どものように、憧れを語る少年のように。

 泰影は恍惚とした表情を浮かべながら、『狐』の名を呟いた。

 そして、僕と交錯する視線―――――。


「―――――時は動き出した。俺達、『暁月(ぎょうげつ)』が勝つ。

 後は()()()()()()()()()進むだけさ」



 新型か、旧型か―――――。

 これはどちらかが、今後の陰陽師世界の派遣を握るか、という闘いではない。

 どちらが、滅びるか。


 互いの存在意義をかけた殺し合い―――――。


「お前もそう、思うだろ?




 ―――――椿





 新型は、()()()()


 ―――――姉さんを殺した陰陽師は、僕が殺す。



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