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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第三章 《過激派陰陽師達、宵闇に蠢く。》
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第86話『羅雪』



《……!》


 大嶽丸は、困惑していた。

 突如、舞い散る雪が閃光を放った―――――。

 思考よりも先に体が動いた。

 咄嗟にとった回避行動だが、結局閃光に巻き込まれたのだろう。

 視界が基に戻った際、左腕が()()()()

 肩から指先まで、まるで刀で切り落としたように綺麗に。

 しかし。

 大嶽丸が真に困惑しているのは、左腕の消失などではなかった。


 ―――――なぜ、()()()


 体の欠損など、(われわれ)は無傷と等しい。

 数秒さえあれば、元の状態に戻すことなど容易。

 しかし。


《ぐう……!》


 消失した左腕の感覚が無い。

 不可思議なことだが、痛みも皆無。

 一体、どんな術を……。

 状況を確かめるべく、大嶽丸が周囲に目線を送ると。


《……!》


 壁の壁面や、歪んだ固い地面。

 雪が舞い散っていた箇所が。

 いくつも()()()()()



 目の前の状況に困惑していたのは、大嶽丸だけではなかった。

 術を発動させた『狐』こと、黛仁も歯を強く食いしばっていた。


 ―――――……何で()()、避けれるんだよ。


 術発動までのラグは限りなく無に等しい。

 と、何ら遜色ない速度。

 発動のタイミングも、完全に見切ることは不可能だったはず。

 完全に甲冑の全身を射程に入れていた。

 それなのに。


 体の反射速度だけで……!







 黛仁の、神《・》

羅雪(らせつ)

 雪に似せた霊力を広範囲に拡散し、術を発動。

 半径1メートルの範囲、球状に抉るように閃光が放たれる。


 閃光の内部で行われていること、それはすなわち―――――『分解』。

 閃光内に存在する物質の結合を、()()()で破壊する。

 それは生体光子(バイオフォトン)も例外ではない。

 原子、光子、物質のなせる最小単位を更に超越するほど―――――細かい乖離。


『有』を『無』へ。


 不死性を持つ『妖』は、自身を生体光子(バイオフォトン)で形成している。

 故に。

 身体の欠損が生じても、再度大気中に霧散した自身の生体光子を集め、形作ることでその不死性を保っていた。


 しかし。

 ()()破壊することは、再生するという手段そのものを破壊することと同義。


 大嶽丸の存在した千二百年前には、存在しないであろう術。

 警戒しているわけがなかった。

 それなのに……!




《予想を遙かに超える強者。……名を覚えた》



 羅雪による破壊の跡を、悠然と佇んでいる甲冑。

 既にそこには無いはずの左腕を庇うように右腕で押さえながら、甲冑を翻した。

 霊力が徐々に霧散し、やがて甲冑の輪郭がぼやける。


《おい……、逃げんのかよ……!!》


 コイツを、野放しにしてはダメだ。

 ここで仕留めきらなければ。

 後にどのような災厄をもたらすか―――――。


《此度の目的は、征伐に非ず。

 また手合わせ願う》


《―――――!!!》


 逃がすか……!

 満身創痍の最中、ありったけの霊力を込め、制御を試みる。

 が、しかし。


《……!》


 いともたやすく。

 握られた手を振りほどくかのように、簡単に。

 制御を外された。


《さらば、




 その一言だけを残し。

 大嶽丸は姿を大気中へと消した。



 大嶽丸の霊力の消失を確認した後―――――。

 仁は力なくその場に倒れ込んだ。


 これ程長時間『成神』を維持したことは無い。

 そして、解放率も現状の限界値まで上げた。

 解放率が少しずつ低下するのと引き替えに、忘れていた()()が戻ってくる。


「ぐ……、がはっ……」


 口内から溢れる血の塊。

 失血により全身が酷く、寒い。



《……仁!

 おい、聞いているのか、仁!!》



 遙か彼方で聞こえる天の声。

 分かってる。

 聞こえてる。

 ……ただ、応えられないだけだ。


 薄れゆく意識を必死につなぎ止める最中、心中をかすめた懸念。



 ―――――()()()()は無事、だろうか。



 それを確かめる(すべ)が、今の俺にあるはずもない。



 途絶える

 落ちる。

 暗闇へ―――――。










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