第80話『恋をしたのは』
あったかい。
その温かさに触れていると、グチャグチャだった心が、解けていくような気がした。
何かに包まれてる。
何だろう?
涙で滲む視界で、上を見ると。
―――――新太さんが、静かに笑っていた。
あー…………。
これ、……夢かな。
新太さんが、ウチを抱きしめてくれるわけないし。
こんなに近い距離にいるわけもないし。
でも、何て……幸せな夢なんだろ。
手に持った銃を落とし、そのまま新太さんの背中に手を回す。
あー……、ホントに幸せ。
ずっと、ずぅっと心が辛くて。
でも、自分じゃどうにもできなくて。
新太さんに抱きしめられていると、不思議と、ウチもあったかい気持ちになってく。
……安心する。
「……来栖」
「……?」
「あの……、あー……えっと、今度さ、二人でどこか行こう」
そう言う新太さんは顔を真っ赤にして、気まずそうに目線をウチから逸らした。
照れてるの、かな。
……可愛い。
ウチの答えなんて決まってる。
「……うん」
コクンと頷くと、新太さんは安心したような、でも、ちょっと恥ずかしがっているような、そんな表情を浮かべた。
可愛いな、新太さん。
大好き。
新太さんの胸に顔を埋め、思いっきり抱きしめる。
すっごく幸せな夢だな……。
上を向くと、新太さんの顔があった。
睫毛とか長いなぁ……。
目の横に小さいほくろあるんだ。
知らなかったなぁ……。
顔を近づければ近づけるほど、もっと近くで新太さんが見たい。
そして生まれる、自然な欲求。
―――――夢、だからいいよね。
だって、大好きなんだもん。
ウチは、ゆっくりと背伸びをして。
新太さんの唇に、自分の唇を重ねた―――――。




