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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第二章 《地雷系陰陽師、落ちこぼれに恋をする。》
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第79話『今は、君を』



 懐から取り出した一枚の黒い護符が、手に持った『虎徹』に溶け込んでゆく―――――。

 そして溢れ出す、()

 来栖達は皆一様に目を見開き、俺の式神の変化に戸惑っているようだった。

 突如として溢れ出す神性。

 未知のものを目撃した際、人間は同じような表情を浮かべるのかもしれない。




 十二天将、『六合』。

 発現事象は、『拡大・拡張』。

 先の霊災で使用したとき、まだ俺自身『六合』に対する発現事象の理解や解析が及んでいなかった。

 それ故に、『六合』は俺自身の霊力そのものを増幅させるだけにその効果は留めた。

 しかし、霊災以降、との研究を進め、その効果をにまで拡大させるすべを身に付けた。


 ―――――霊力の出力を、同調する式神と()()にすること。

『六合』に霊力を100出力するのであれば、『虎徹』にも100出力する。

 片方が101や99になってはいけない、かなり高精度の霊力のコントロールが求められる。



「新太さん、()()、一体何ですか……?」


「……来栖に制御破壊(それ)があるように、俺にも奥の手があるんだよ」



「加速」という発現事象の「拡大・拡張」を行うとどうなるか。

 それは肉体だけでなく、「加速」の効果対象が、にまで及ぶ。

 前述した人間の身で「加速」を行うという『虎徹』のデメリットを完全に補いうる。

 言ってしまえば。

 それは、肉体の動きに思考が完全についてくるを可能とする。


 そして。

「加速」という概念の「拡張」。

 高速で跳躍し、着地するという線と線の移動を根本から否定する()での移動。

 跳躍すら必要ない。





 それは言わば―――――、「」。



「っ……!!」


 拳銃(ハンドガン)を構える来栖。


 両式神の出力が安定するにつれ、その動作も酷く愚鈍に見える。

 揺れていた視界が―――――止まる。

 気持ち悪さが立ち消え、思考がクリアになってゆく。

 来栖が跳躍するその瞬間、一挙手一投足まで、観測できるほどの思考の加速―――――。



 ―――――見える。


 四人の来栖の跳躍先。

 左方10メートル先、右方15メートル先、後ろに一人、斜め前目測13メートル。

 着地位置を補足、座標固定。



「―――――跳ぶ」



「…………!!!」



 来栖の驚いたような表情が、すぐ目の前にあった。

 ―――――抜刀。

 来栖が構えた拳銃を、下から縦一文字に切断。

 発射直前だった銃はそのまま、爆発。


 次。

 二人目の背後に跳躍。

 外すこともないであろう完璧な間合い。

 脇腹に強めの峰打ちを食らわせ―――――三人目。

 両の足を払い、体制を崩す。


 ―――――四人目。

 弾丸は既に発射されていたが、その射線上に俺はいない。

 弾丸だけがゆっくりと移動しているのを横目に、俺は来栖から物理的に距離を取った。

 三人の来栖は既に大気中に霧散を始めている。

 発現事象解除の直接的な方法は、物理的な干渉なのかもしれない。

 思考の「加速」を終えると、戻ってくる環境音やら結界外から鳴り響く爆発音。




「……は? え……」



 四人目の来栖は、困惑した表情を浮かべていた。

 それもそのはず。

 自分以外の三人がいつの間にか、立ち消え、自分一人だけになっている。

 来栖も馬鹿ではない。

 ほんのコンマ数秒の間に、全分身を破壊されたことに思考が及ばないわけがなかった。



「何でぇっ!!! 一体、どうやって!!!!!?」



 恐怖と驚嘆に顔を歪ませながら、真っ直ぐに銃口を俺に向ける。



「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 ――――――――「加速」。


 硝煙を漂わせながら、金色の弾丸が真っ直ぐに迫る。

 しかし、その弾速は酷く遅い。

 避けられない方が不自然というもの。

 二射、三射と、もはや照準も何もない。

 感情の崩壊に身を委ねた、ただの乱射へと変わっている。


 俺は―――――、真っ直ぐに走った。

 瞬間移動し、来栖の傍に跳ぶことはできる。

 でも、それじゃ()()


 来栖が今、一番何を求めているか。

 必要なものは何か。


「……!」


 俺の肉体の痛みなんて、関係ない。

 それ以上に、来栖は苦しんでいる。

 もはや壊れかけの心を、何とか保とうと必死になっている。

 不意に。

 脳裏をよぎる、さっきの来栖の




『―――――()()()()()()

 ウチのせいで』




 何度も何度も何度も何度も頭に反響しては、なかなか消えてくれない来栖の声。

 これが、でなくて何なんだよ。


「っ……!!!」


 歯を食いしばり、来栖の距離を更に詰めた。

 来栖の華奢な体が、すぐ目の前にあった。

 今日まで、どんな思いで過ごしてきたんだろうか。

 こんな制服をボロボロにしてまで。

 見た目にそぐわない銃を構えて、感情のコントロールもできないまま震えている、まだ15歳の少女。



 大粒の涙が、顔をグシャグシャにしていた。




 だから、俺は。

 式神を投げ捨て。







 彼女を、()()()()()()








 ―――――「加速」が、終わる。









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