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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第二章 《地雷系陰陽師、落ちこぼれに恋をする。》
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第77話『好きだった。ただ、それだけなのに。』


 ―――――『虎徹』。

「加速」の発現事象をもつ、実習型の式神。

 基本戦術は、「加速」し相手の懐に飛び込んだ上での一撃必殺。

 やることがハッキリしているという扱いやすさから、実習用の式神として式神躁演の実践練習に用いられている。

 しかし、式神の特性上、『虎徹』には明確な弱点が()存在する。

 一つ目。

 ()()()()()()()()()()、という点。

 懐に飛び込んでくるのが分かりきっているなら、反撃のタイミングを合わせるだけで相手は勝手に自滅する。

 故に、『虎徹』を使用する術者は、カウンターありきで動きを考えなければならない。

 そして、二つ目。

 元々、人体は「加速」という行為に耐えられるようにできていない。

 は加速できても、が追いつかないからだ。

 加速した先での状況判断はどうしても一拍遅くなってしまう。

 だからこそ、「加速」という発現事象は近接武器に乗せるしかなかった。

 加速先では、ただ脳死で「()()」だけで攻撃手段に成り得る。





「くっ……!!」


 傷口からは絶え間なく鮮血が流れ出ている。

 傷の具合を見るに、貫通ではなく、あくまでも擦った程度。

 幸福だった、と言うべきか……。



「どーですか?? 飛び道具と「加速」の組み合わせもなかなかいいでしょ!!?」



 ―――――なかなかいいどころか、相性的には最高の組み合わせだよ。

 現代兵器が公式には実用化されていない現状、遠距離を担う式神はおおよそ、弓の形が採用されている。

 しかし拳銃(ハンドガン)の利点は弓とは異なり、発射までのラグが圧倒的に少ない。その上、照準も合わせやすいと思われる。


「今度は、こっちですよー!!!」


「……っ!!」


 来栖の姿が消えた瞬間、咄嗟に回避行動を行う。

 すると、今しがた俺が立っていた場所を音速の()が横切った。


「今度は前方からか……!!」


 来栖がどこへ「加速」したのか、知覚する前に弾丸が飛んでくる。

 今のところ思い浮かぶ対処法は……、一つしかない。


 来栖が消えるのと同時に跳躍。

 弾丸に当たらないことを祈りながら、回避行動を行うしかっ……!!


「あはあはははははははははははははっ!!!!! 

 新太さん新太さん新太さん、頑張って下さい!!!

 でも、避けてるだけじゃ何も変わりませんよーーーー!!!!!!」


 来栖の声が辺りに反響していた。

 前方、左方、今度は後方―――――上空。


 迫り来る弾丸を山勘のみで回避するしかない現状。







 ――――――いいぞ、来栖。

 ()()()()()()

 もっと、もっともっと……!!!


 チラリと目線を送った先、そこに佇むはこちらの様子を静かに伺っている一人の白髪の女性。

 ―――――


 まだまだだ。

 こんなものじゃないだろ、来栖……!

 ダメ押しの()が欲しい!!


「来栖!!! 全然当たらないなぁ!!!

 もっと本気出して、俺を追い詰めろ!!!」


「新太さん……?」


 銃口を俺へと向けたまま右方に加速を止める来栖。


 こういうのは……、苦手なんだけどっ……!!

 言葉を選んでいる暇はない!

 俺は息を大きく吸い、そして来栖に向かって。






「来栖のやったことなんて、俺は全然嬉しくないんだよ!!! 

 さっさと自分の罪を悔い改めろ!!! このクソ地雷系!!!!!」



 俺にできる最大限の爆弾を投下した(つもり)。

 当の本人は何を言われたのか理解できずに、目をパチパチとしている。


 鬼がでるか、蛇がでるか……。

 ……どうだ……!!?







 ポロリ、と。






 来栖の両目から涙がこぼれ落ちた。




「新太……さん……?」


 流れる涙を拭うこともなく、ハンドガンを持つ来栖の手が、力なく下ろされた。

 ワナワナと唇が震え、やがて真一文字に結ばれる。

 頬は紅潮し、感情は決壊寸前―――――。


「うっ……、ウチ。結構、頑張ったんです、よ……?

 ヒック……」


 そして、来栖は。

 ハンドガンは地面に落下し、顔を手で覆い泣き出してしまった。


「何で……うぅ。何で、そんなこと言うのっ……!?」


「……!」


「こんなにも、好きなのにっ……!! 大好きなのにぃっ……!!!

 何で何で何で何で何で何で何で何で、分かってくれないのっ!!!!!?」


「っ……!!」


 ―――――激情。

 来栖の感情を一言で表現するなら、それが正しいように思われた。




「新太さんが、ウチのものにならないならっ……、もういっそ……、どうなってもいい……」


 来栖は、おぼつかない足取りで足下の拳銃を拾い。

 そして―――――吠えた。






「どうなってもいいんだあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」





 全てが、震えていた。

 来栖の咆哮に呼応するかのように、大気中の生体光子が共鳴し、振動。

 結界外から聞こえる爆発音も、何もかもが、来栖の声に応えるかのように、震えていた。

 ただ、俺はそれを傍観するのみ。

 やがて覚悟を決めたかのように。

 憎しみのこもった瞳が、俺のことを射すくめる。




「……()()()()、新太さん」



 来栖は自身の頬を伝った涙を手の甲で拭い。

 そして―――――。





『ーーーーーー制御破壊(リミットブレイク)。』










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