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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第二章 《地雷系陰陽師、落ちこぼれに恋をする。》
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第74話『真夜中は別の顔』



『全隊員に通達、


 眼前で蒼い火柱が立ち―――――――数秒後。

 インカムから鳴り響く佐伯支部長の声。

 それが意味するのは、プランBへの移行。

 当初の予定通り、は戦線離脱を図った。

 京香の戦闘力が、来栖の想像を凌駕したのか。

 はたまた、ハナから泉堂学園(ここ)で京香を仕留める気がなかったのか―――――。



 全身に霊力を充填し、住宅街の屋根伝いに―――――跳躍。

 未だに白煙が燻っている泉堂学園を横目に、薄暮の中、対象を視認した。

 上総町を脱し、北へと向かっている。


『B-2班、対象を視認』

『B―3、同じく、追跡を開始する』


 次から次へとインカムから鳴り響く声。

 京香が来栖と会敵した段階で、清桜会の作戦参加人員への招集及び人員配置は完了していた。

 対象の、「追跡」。

「追撃」ではなく、あくまでも「追跡」。

 新都、そこに住まう人々に対する物理的な影響を鑑みて第一厳戒対象となった来栖。

 相手の出方が未知数である以上、その対応は慎重を極める。

 周囲を見ると、俺同様に来栖を追う狩衣姿が確認できた。

 一体どれほどの人員を動かしているのか、佐伯支部長の思惑は分からない。

 しかし、周りから見れば異端なのは間違いなく俺の方だろう。

 制服に身を包んだ学生が、正隊員同様に夜の新都を駆けているのだから。


「……!」


 ……来栖の移動速度が上がる。

 追手の存在に気付いていないはずはない。

 でも、これまでの隠密性もない。

 体捌きがおぼつかないところを見ると、京香に痛手を与えられたのか?

 それ故の……?


『……新太、聞こえるか?』


 ノイズの後に聞こえたのは、俺同様作戦に参加している虎の声。

 俺宛の個人通信に他ならない。


「聞こえる、どうした?」


 それだけ簡潔に呟き、続きを促す。


『対象はどっちの方角に向かってる?』


「北、でもまだ絞り切れていない。最悪、南区を出る可能性もある」


『そっか……、俺はとりあえずFスポットで待機続ける』


「了解、頼んだ」


 虎は俺とは()()へ編成されている。

 少なからず今回の一軒で虎も思うところがあったのだろう。

 自ら志願しての作戦参加となる。

 分からないのは、佐伯支部長がそれを許した、ということだけど……。


 再度、インカムにノイズがはしる。

 全体通信に切り替わった証拠だ。




『こちら、迎撃班、

 現在、対象との戦闘状態を終え、追跡班に合流。

 しかし、対象は目的や手段が未だ不透明、先遣隊の方は注意してください』


 ……。

 どのような戦闘が、両者の間で行われたのかは分からない。

 しかし、来栖は、その手の内を見せようとはしなかった、という京香の読み。


「……」


 対象は、未だに移動を続けている。

 この速度であれば、あと十数分もあれば南区を出て、……その先。



 ―――――中央区。






 第一厳戒対象『来栖まゆり』の捕縛を目的とした作戦が立案されたのは、数日前だった。

 来栖の次の標的が、泉堂学園所属特例隊員「古賀京香」である前提。

 定位置、定刻で数日間京香の行動を固定し、来栖を誘い込む。

 何度も言うようだが、来栖の対処にはあくまでも慎重さが求められた。

 周辺住民への影響を鑑み、佐伯支部長は応戦場所として泉堂学園を選択。

 京香が対象との会敵を果たした段階で、泉堂学園及びその周辺地域に清桜会正隊員が人員配置。

 京香の戦闘で来栖を捕縛しきればいいが、それに依らない場合、来栖の潜伏場所の特定を行うべく、―――――追跡。

 これがプランBの内容。



 そして、この作戦における俺の役割。


 追跡班の一員、そして―――――。






 ***


[中央区神尾町神尾DEPARU前 21:56]








 ――――――中央区、神尾町神尾DEPARU前。


 それは新都に住まうものであれば、地名を聞くだけで()()()()()分かる。

 元々、商業ビルや行政の中心で多くの人通りがあり、新都の文字通り中心として栄えていた。

 しかし、それも約二ヶ月前までの話。




 新都大霊災の爆心地――――――。


 中央区は、清桜会所属泉堂学園教師「服部楓」による未曽有の人的霊災の中心地になった。

 二ヶ月近く経つ今でも、爆心地近くはその立ち入りが禁止されており、後処理が遅れている、と聞いていた。


 俺自身も、()()以来に、この地を踏みしめた。


 瓦礫撤去のために設置された、心許ない電灯が、の姿を照らしていた。





「あーらたさん♪」






「……来栖」





 夜の漆黒の中姿を現したのは、いつかの見慣れた後輩の姿だった。





 数週間ぶりに見る来栖、まゆり。

 頬には朱が差し、恍惚とした表情を浮かべている。

 それに対し、制服は至る所が焼け焦げている。

 左腕部分は生地が破け、赤く爛れた腕が露出していた。



()()()()()()に、いたんだ」



「ここ、穴場なんですよ! 誰も来ないし、廃ビルだらけだし!!!」


 嬉々として語る来栖は、とてもじゃないが、()()()の主犯とは思わないほどに心からの笑みを浮かべている。


「……随分元気そうだね」


「そりゃそうですよ!! だってぇ、久しぶりに新太さんに会えたんだもん!!!!」


「……」


「ねえねえ、聞いて下さい!

 ……ウチ、頑張ったんですよ? 

 新太さんを決勝に進めさせるために、結構無理とかして……」


「……知ってるよ、来栖。

 全部、知ってる」


 俺の返答に、安堵の表情を浮かべる来栖。

 心の底から嬉しそうに、無邪気に、楽しそうに笑みを浮かべている。


「ふふっ……! 新太さん、嬉しいですか?」


「……」


「嬉しい、と言って下さい」


「……」


「また、ウチに『ありがとう』って、言って下さい……」


「……」




 全て、俺のせいだ。

 彼女が()()()()()()()()()のも。

 愛狂に走ってしまったのも。



 この子の気持ちに、正面から向き合うことのできなかった俺のせい。

 この子の優しさに、甘えてしまった俺自身の責任。



 ――――――俺が。



『起きろ、虎徹。起動(アウェイクン)―――――』



 生体光子(バイオフォトン)が収束し、やがて右手に顕現する一振りの日本刀。

 それは、来る巣に対する明確な「拒絶」の意志に他ならない。


「来栖」


 来栖の表情が、歪む。


「俺が、君を止めるよ」




























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