第67話『地雷系 弐』
[6月4日(火) 泉堂学園中庭 11:04]
今日は虎先輩も新太さんも午後一番の序列戦を控えている旨の連絡が来たため、こうしてちよちよと久方ぶりに中庭ランチをしていた。
「……えっ、尾行したのっ!!?」
箸でつまんだ卵焼きを、お弁当箱に落とすちよちよ。
「うん。気になっちゃったからね」
「何その行動力……、本当にまゆりちゃんは凄いね……!!」
目の前で目をかっぴらいて驚いている。
尾行くらい、そんな大した事でもないでしょーに。
大げさだなぁ……。
でもまぁ、尾行しただけの成果は得られたのかな。
一応、新太さんの身の潔白は証明されたわけで。
まぁ、世間をにぎわせている『狐』にもホント偶然知り合ったけど。
……案外、失礼な奴だったし。
「で、で、どうだったの!!?」
ちよちよは身を乗り出し、ウチの顔を覗き込んだ。
何て言えばいいのかな。
『狐』のことは他言しない約束になっている。
だから、言えない……。
新太さんの信頼を無くすわけにはいかないし、無くしたくない。
「んーとね、なんか古賀先輩と会ってたみたい」
とりあえず当たり障りのない、当時の状況を簡単に伝えてみる。
「……へ」
すると、ちよちよはポカンとアホの子みたいな表情を浮かべた。
―――――そして、ウチは気付いた。
「あっ、違うの違うの!! 男女として会ってるわけじゃなくて……!!」
「どういうこと……?」
そうだよね。
こんな言い方をしたら、新太さんと古賀先輩が何か不埒な目的で会ってるみたいに受け取られかねない。
「えっとね……あの……! 特訓……?
そ……そう、特訓!!!」
……何かね、式神の特訓をしてたみたい!!」
とっさに口をついて出たのは、まぁ無理のないラインの嘘。
「……二人で……?」
「古賀先輩ってやっぱり凄いじゃない!? 序列とか!!
それで新太さんも色々と教えてもらうことが多いんだって……!!」
「そうなんだー……」と、ちよちよは一瞬何かを考えこむようなそぶりを見せ、そして改めてこちらへと向き直った。
「まゆりちゃん、―――――大変だね」
「……?
何? 大変って……」
「だってさ~、宮本先輩が古賀先輩に求めていることって、そういうことじゃん?
その……なんて言うのかな、『強さ』とか……。指導してくれる存在とか……」
「まぁ……」
ウチが適当に言ったことに、そこまで食いついてくれるのは正直困っちゃうけど……。
「古賀先輩は宮本先輩に捧げられるものがちゃんとある、と思うのね?」
「うん、まぁ……」
少なくとも、古賀先輩と新太さんのような関係にはウチじゃ絶対になれないのは分かっている。
それは、多分二人の間には既に固く見えない『絆』のようなものがちゃんと存在しているからだとは思う。
「じゃあさ……」
ちよちよは、さっき食べ損ねた卵焼きを箸でつまみ、ウチの方へと向ける。
「まゆりちゃんは、宮本先輩に何ができるんだろうね」
「……」
「私思うんだ。
恋愛って一方通行じゃいけないって。
互いに何かを捧げられる……、そんな関係性がいいよね」
そして、そのまま卵焼きを自分の口へと放り込んだ。
新太さんのために、ウチができること。
新太さんに喜んでもらえること。
新太さんの助けになるようなこと。
……何だろ。
「……新太さんって、何が嬉しいのかな」
「私は分からないけど……、とりあえず今学園では朱雀戦やってるね」
「……朱雀戦、かぁ」
やっぱり勝ちたい……んだよね、新太さん。
じゃなきゃ、あんな瞳にはならないもん。
「……じゃあさ、宮本先輩の勝利を確実なものにしてあげなよ。
多分、まゆりちゃんならできるでしょ?」
「えぇ……、何それ……」
勝利を確実に?
どういうこと……??
「新太さんを不戦勝で決勝トーナメントに上げてあげたり……とかかなぁ」
不戦勝で……。
不戦勝になる要件は、対戦相手の棄権―――――。
すなわち不慮の事態で、そもそも参加できない場合、とか。
でも、それって……。
「……あっ、ごめんね、まゆりちゃん。
私は、今のままでいいのかなって思っただけだから、今言った事、気にしないでね」
「……」
ウチにできること。
新太さんを不戦勝で決勝へ進出――……。
喜んでくれるのかな、新太さん。
そりゃ、決勝に行けたら喜ぶよね。
新太さんだもん。
そう。
そうだよね。
ってか、絶対そう。
じゃあ、ウチはその手伝いをすればいいわけだから。
「……ちよちよ、ありがとね」
ウチがやるべきこと、見えてきたような気がする。
もしこれで、新太さんが決勝に行けたら。
―――――ウチの事、また褒めてくれるかなぁ。