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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第二章 《地雷系陰陽師、落ちこぼれに恋をする。》
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第65話『狐の本懐』


 朱雀戦開始の―――――。






「……仁!!」


 清桜会に新興霊場として認可を受けたと思われる廃マンション。

 そこの最上階に、はいた。

 仁のモノと思われるランタンが、廃墟と化したフロア全体をボンヤリと照らしている。

 出会ったときと同じように、その顔は狐の面で隠れていたが、それが仁であることはすぐに分かった。





 霊災以降音沙汰無かった仁から急に連絡があったのは、昼休憩の時だった。

 仁とのトーク画面には、ただ住所らしき文章の羅列が載っているだけ。

 しかし、久々に彼からの連絡に心がざわめいたのは事実。


「芥口……上小路……二丁目11ー34、何だこれ……」


 ……来いってことか?

 奴が何の意味の無い情報を送ってくるとは考えづらい。

 屋上で虎を待つ最中、俺は仁へ『了解』とだけ返した。

 この前、病院からの帰り道に新都の空を舞っていた仁らしき影。

 あれが本当に仁だとするならば、奴は未だ新都にいることになる。


「帰りにでも寄ってみるか……」


 流れ者っぽかったから、新都(ここ)に留まっている保証も無い。

 そう思いながら、俺は放課後、所定の住所へ何度も道を迷いながらも向かった次第だった。





「……今まで何やってたんだよ」


 こちらとしては霊災の後、何度も連絡をしたのに……。

 二人で()()()を乗り越えたのに、身の安否を知らせる返事の一つでもあって然るべきじゃないのか?

 俺の不満そうな声を聞いて、仁は面をずらし、その表情を俺へと見せた。


「俺だって……、色々と消耗してたんだ。

 仕方が無いだろ?」


 バツの悪い表情―――――。

 申し訳ないと思ってはいるようだった。


《……いい、仁。

 私から話そう》


 そう言いながら、仁の傍らに出現する一匹の白い狐。

 こちらとも久々の邂逅。


「……天!!!」


《久しいな、新太。

 達者なようで何よりだ》


 そう言いながら笑みを浮かべる仁の式神。

 そして、忘れてはいけないのが安倍晴明の使役した式神の一柱。

 ―――――十二天将。


《我々もしていたのでな。しばし休息を取っていたのだ》


 消耗。

 それが何を意味するか。

 あの晩の戦闘の折、仁が発動した陰陽術、『成神』―――――。

 先生こと服部楓も元を辿れば、その『成神』に至ることが目的だったため、今回の霊災はその『成神』を巡る事件だったとも言える。


《『成神』は平安の世の術者、芦屋道満の確立した術式。

 そしてその術式にはという性質を持つ》


「……?」


《安倍の術式はその都度その都度で式神を使用する、。故に、式神と一回一回簡易契約を結び、術を使用している状態》


 それは―――――分かる。

 俺ら新型が使用する人造式神然り、使用するときに認証し、そして『起動』というシークエンスを辿る。

 それは、他でもない『特別(オリジナル)』を使用する旧型に倣ったものだ。


《……しかし、成神は式神と一度契約してしまえば、未来永劫、それこそ死ぬまでその契約が継続される。途中で契約を破棄することができないと言うことだ》


「……!!」


「……要するに、多かれ少なかれ、俺は天から常に霊力を供給されている状態ってこと」


《『成神』は人の身を依代(よりしろ)とし、その術者の存在を神《・》へと昇華させる術式。

 常に最大解放を維持し続ければ()()()()()


「……だから、普段は解放率を抑えてる。

 ()()みたいに必要なときにはその解放率を上げるんだけどな」


 ……人の身を神へと昇華させる―――――。

 人としての段階(ステージ)を一つ上へ強制的に押し上げるということ。

 その行為の代償を考えると、確かにノーリスクというのは考えづらい。


《とどのつまり、あの夜での解放で我々は酷く消耗してしまい、数日は動けない状態が続いていた。……許してくれ、新太》


「……それは、俺は全然何とも思ってない……けど。

 と言うか……大丈夫、なのか?

 体調とか、色々」


 すると、仁と天は何かを目配せするように視線を交錯させ、そして「……()()()()()()()()()()」と頷いた。


「……?」


「まぁ、そんなことは正直、―――――どうでもいい。

 ()()としてお前に頼みがある」


「頼み……?」


「俺は十二天将を探している……、ことは知っているよな?

 これは……、じゃなくてマジだ」


 ―――――演技。

 それは霊災の日の出来事を言っているんだろう。

 京香が首謀者かどうかを炙り出す際に仁が行ったこと。


「俺達は十二天将を探している。……もしくは()()を。

 俺がこの新都(ここ)に来たのはそれが目的だ」


 十二天将を見つける。

 その言葉のは理解できる。

 しかし―――――。





「―――――一体、何のためにそんなことを?」


 この場にいる誰のものでも無い声。

 俺らの背後から―――――。


「……来たか」


「……!」


 暗闇の中から姿を現したのは、泉堂学園の制服を着た京香だった。


「京香っ!!? 何で……!!」


 未だ入院中の身であるはずの京香は、未だ退院はおろか、外出も許可されていないはず……。


「……別に、()()()()()()()よ。アタシも仁に呼ばれてここに来た。新太(アンタ)と同じくね」


《健在で何よりだ、京香嬢》


「……天もね」


 微笑み会う一人の人間と一匹の式神を横目に、改めて仁へと向かい直る。


「……それで、十二天将を集めて何がしたいのよ、仁」


「……」


 京香の問いに、口をつぐみ黙っている仁。

 俺だけではなく、京香もここへ呼ばれたと言うことは、やっぱり並大抵の理由ではなさそうだ。

 端から見ても明らかに迷いが生じているのが分かった。


「……」


 しばしの間、場を支配する静寂。

 雨漏りでもしているのか、水の滴る音だけが辺りへと響いていた。


 ―――――そして。


 俺と京香に伝える覚悟が決まったのか、仁は「信じられないかもしれないが……」とその重い口を開いた。






「―――――もうすぐ、人が大勢死ぬ」



 そう、呟いた。







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