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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第二章 《地雷系陰陽師、落ちこぼれに恋をする。》
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第61話『改造式神のススメ』


[新都南区芥口上小路町 22:06]




 俺らのすぐ横を、数人の狩衣姿が走ってゆく―――――。

 それは紛れもなく、清桜会の隊員。

『双睛』の信号の消失(ロスト)は、清桜会側も既に把握しているだろう。

 加えて、あれほどの派手な爆発……。

 一般住民からの通報が無いとは考えにくい。

 来栖の放った弾丸は、ハッキリとが見えていた。

 あれでは射撃地点を見つけてください、と言っているようなもの。


 ―――――早めに退散してよかった。

 俺、京香、来栖、そして天は既に仁の根城である廃マンションを後にして、夜の住宅街を歩いていた。


「天はよかったの……?」


《……何がだ?》


「多分だけど……、これからあのマンションに清桜会の隊員が向かう。

 仁は大丈夫なのか?」


 この狐の式神は、あろうことか術者である仁を置き去りにして、俺らについてきた。

 仁の事だから、見つかる前に何らかのアクションは起こすと思うけど……。

 アイツ寝てたしなぁ……。


 それに……。


「―――――仁から、そんなに離れてもいいのか?」


 式神と術者との物理的な距離の制約。

 それは、遠距離で効果を発揮する発現事象をもつ式神を除けば、ある意味基本的なルールであると言える。

 要は、式神によって差はあれど、術者から離れすぎれば式神は解除されるのが一般的。


《……確かに、()では、ダメだろうな。

 しかし、成神はの術式。

 成り立ちが根本から異なるから、問題ない》


 ―――――常時発動型。

 以前に仁から軽く聞いていたとはいえ、全くと言っていいほど、馴染みのない表現だ。

 首をかしげる俺をよそに、《それに……》と天は続ける。


《……()()()()もいるしな》


 天の目線の方向。

 そこには見るからに上機嫌で、ニヤニヤした表情を浮かべた来栖の姿があった。


「……まゆり、そろそろ教えなさい。()()は何?」


 その隣で歩いている京香が、ついに痺れを切らしたのか、口を開く。


「……え、()()ですか?

 もちろん式神ですよ?」


「それは分かってんのよ! 

 あんな式神見たことがない……。

 それを何で()()()()が使ってんのかってこと!」


 すると、京香の発現を聞き、来栖は得心が言ったというように表情を輝かせた。


「あぁ、そういうことですか。

 アレは元々、古賀先輩も()()()()式神だと思いますよ?」


 ―――――元々……。

 何だ?「元々」って……。


「―――――アレは、です」


「……木霊って、あの木霊?」


「はい。のやつ」



 ―――――霊獣型実習用式神『木霊』。

『虎徹』と並ぶ、泉堂学園で採用されている式神操演の基礎を養うための式神。

 発現事象は、周囲の環境的要素、刻一刻と変化する可変要素を観測する『状況把握』。

 正直、それが発現事象なのかどうかと言われれば疑問が残るが、あくまでも式神の操作を学ぶ、という目的の元で運用されている。


「アレって、木霊……?」


「はい。

 新太さんも絶対知ってる、()()木霊です」


 そりゃもちろん、知っているけど……。

 にしては形状が……。


「木霊ってあんな形だったっけ……?」


 俺の記憶では、小さな人型をしていたような気がするけど。

 少なくとも()()()()()()形ではない。



「可愛くなかったので……、ちょっとしたんです」



「「改造……!?」」


 なんてことない、という風に、ただ一言そう口にする来栖。

 驚く俺と京香をよそに、天は俺らの会話の意味を理解しかねるのか、不思議そうな表情を浮かべていた。

 一応確認しておくが、清桜会の認可を受けた式神の改造は陰陽師権限に関わる法令でされている。

 というか、式神の内部構造の把握は困難を極め、それこそ清桜会の頭脳(ブレーン)である科学班ぐらいでしか作成及び解析をすることができない。

 ちなみに、俺も京香も、改造(そんなこと)は不可能―――――。



「『木霊』を素体にして、機構、そして術式をちょっと弄っちゃいました」


「弄ったってレベルじゃ……」


 重火器の形してたし……、原形も留めてないないだろ、アレ……。


「結構頑張ったんですよ~!?

 NTW-20のディティール再現するの。

 あれ、メチャクチャカッコよくないですか!? 対物ならではっていうか~。

 最初「M1C」もいいかなって思ったんですけど……あっ、「M1C」って言うのは簡単に言うと昔の米軍で使われてたSRなんですけど、あれオートマなんですよね~~

 やっぱSRならボルトアクションだと思うんですよ!! 

 これから撃つぞ!って感じがして、気合も入りますよね!!!!」


「……!」


 来栖は水を得た魚のように急に饒舌に、嬉々として自身の式神について語り始めた。

 あいにく俺は重火器についての知識は乏しいため、来栖の言っていることの半分も分からない。


 ―――――しかし。

 今の話で、何となくだけど分かってきた()()()()る《・》。

 来栖が弄った、もとい()()のは人造式神の二大構造である『機構』と『術式』。

『機構』とは式神の内部構造の事であり、式神を起動させた際の『形』に関わってくる。

 それに対して『術式』は発現事象を具現化させるための、言わばのようなもの。


 さっき来栖は、()()()()()()のような霊獣を顕現させていたことから、大きな比重を置いて改造したのは『機構』の方。




『風速、気温、湿度、対象の高度、起動予測その他諸々……演算よろしく。

 ……ダネル』




 来栖の発言の後に、あのクマが出現した。

 周囲の『』を行い、そして来栖がスナイプするために必要な演算情報を術者に供給―――――。



「ってことは……、あのクマが『木霊』の発現事象―――――『術式』。

『機構』の部分をライフルとクマに分けたってことか」


「……あ、そうですそうです。

 無理やりクマとSRに分けたので、メモリが足らなくなっちゃったんですけど~。

『状況把握』で演算される全情報を、()()()()()()に絞ることで何とか式神成立の要件は達成した、って感じです」


「……!!」


 ―――――簡単に言っているようだけど……そんなこと、可能なのか……?


「他には~、式神としての強度も上げて~、さすがに本物のダネルを再現しようとすると重すぎるので、振り回せるくらいには軽くして~、ウチ好みに調整(チューン)しましたっ!」


「……」


 京香は額に手を当て、溜息をついていた。

 今、京香が何を思っているか、俺には大体分かる。

 確かに、凄いとか何とかの前に、()()()()()()()()

 実は公にされていない式神で~そのテストしてるんですよ~、とかいう話の方がまだ信憑性がある。

 京香もそれが分かっているからこそ、微妙な反応しかできないのだろう。

 ただの一介の学生が、これほど複雑に式神本体を改造できるわけがない、という常識。

 それが激しく揺さぶられていた。


「……まゆり。分かった、もういい。ありがと」


 京香は考えることを放棄したのか、頭痛を堪えるかのように、こめかみをグリグリと親指で押している。


「……来栖、一つ聞いてもいい?」


 京香の呆れた様子を横目に、俺は「??」と頭に疑問符を浮かべている来栖へと向き直る。


「何ですか??」




「……その技術って、一体どこで?」



 すると、来栖は自信満々な笑みを浮かべ、そして―――――。



「ウチ、なんで」



 と、声高に言い放った。







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