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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第二章 《地雷系陰陽師、落ちこぼれに恋をする。》
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第57話『激情に狂う地雷系』



 ―――――……。

 廃マンションの中は、とんでもなく暗かった。

 新太さんにバレてしまうかもしれないけど……、足元すら見えないのはさすがに怖い。

 ウチはスマホの電気をつけ、辺りを照らす。


 すると。

 そこはエントランスのような……、ホテルで言うところのロビーのような場所。

 汚れた床のタイルはまばらに剥がれ、壁面には誰が描いたのか分からない落書き。

 かつてここに人が住んでいた、とは到底思えない。

 経年劣化というレベルじゃない。

 もうこれは……、と言った方が正しいのかも。

 ……何で取り壊されないんだろう。


「……」


 ライトで奥の方を照らしてみると、エレベーターのようなものがあった。

 しかし、そのドアは開かれていて、中が丸見えになっている。

 ―――――さすがに、動かないよね?

 電気も止まっているだろうし、整備とかもされていなそう。

 ゆっくりと近づき、ボタンを押してみるけど……やっぱり反応なし。


「……新太さん、どこに……?」


 エントランスにいないってことは、行き先は多分……

 エレベーターが使えないとなると。

 ……階段かな。

 と、当たりをつけて周りを探してみると。


「……お、あった」


 エレベーターの横側に、非常階段のようなものを見つける。


「……よいしょ」


 ウチは足元に気を付けながら、ゆっくりと階段を一歩一歩上り始めた。

 ―――――新太さん。

 こんなところで、何しているんだろ。

 しかも……夜に。

 怪しすぎない?

 場所が場所であるため一応、警戒。

 ポケットに護符があることを手で確認し、―――――先に進む。

 二階、三階、四階……と、ちょっとずつ上へ。

 階が上がるごとに顔を覗き込ませ、フロアを軽く確認するけど、―――――誰もいない。


「いないなぁ……」


 外から見た感じ、そこまで階数が多いマンションではなかったから、ウチの見立てではそろそろ最上階。

 そんなことを思いながら、歩みを進めていた最中。




「……ひゃあっ!」


 


 突然。

 首筋に冷たいものが触れ、変な声が出てしまった。

 水……!?

 雨も降っていないのに、雨漏りとか……。

 それに、どこか……肌寒い。

 さっき外を走り回った時の体の熱さは、すでにどこかへといってしまった。


 ……やっぱ、悪霊とかいるのかな……?


 悪霊がもたらす生体光子(バイオフォトン)

 その副次的効果として発生する空気中の吸熱反応。

 廃墟っぽいし、簡易的な霊場になっているのかも……。

「人」が関わる場所は、生体光子(バイオフォトン)が蓄積しやすい。

 例えば……、集合住宅。

 例えば……、学校、病院。

 そして……大勢の人が、亡くなったところ。


 マンションという建物上、ここも例外じゃない。




 最上階へ向かう階段に、一歩足をかけた時だった。



「……ね……、あ……」



 ―――――!

 誰かの話し声。

 階段の↑6Fという表記をもう一度確認し、ウチは声を潜めながらゆっくりと階段を上る。


「……ん、……ね」


「アイ……、……ぐれ……もの」


 ……。

 誰かいる。

 話している。


「大体……、何で……アタシ達が……ないのよ」


「……も、色々と……んだよ」


 階段を上るごとに鮮明になっていく声。


「……!」


 一人の声は―――――新太さん。

 それはもう間違いない。

 ウチに限って、間違えようがない。


 そして。

 ―――――もう一人。


 ゴクリと喉が鳴った。


 ―――――

 

 女の声がする。


 今、新太さんは、女と話している。


 ……嘘。

 女と会ってるの?

 新太さん。


 冷えていた体に、熱が戻ってくる。

 それと同時に胸に発生するチクチクとした痛み。

 ―――――嫌な予感がする。


「……!」


 階段を登り切った先。

 そこに広がっていたのは、()()()()()()フロア。

 コンクリ剝き出しの壁面に、所々が黒ずんでいるのが辛うじて見えた。

 でも、そもそもの場所として暗いから、その全容は分からない。

 規則的に並ぶ窓は綺麗に割れていて、夜の新都の夜光が差し込んでいた。


 そして。

 フロアの真ん中ら辺。

 アレは……、ランタン?かな。

 ぼんやりと灯りがともり、()()を天井に映し出していた。


 新太さんの対面にいる、―――――女。


「っ!!!!」


 シルエットだけだけど、ウチはそれが誰なのか。

 分かった。

 分かってしまった。

 なぜなら……。

 すでに、会っていたから。


 ()に、会っていたから。


 ダメだと思いながら、ウチは気付いたら、二人へと駆け寄っていた。



「新太さん。それに……、

 ―――――こんなところで、何してるんですか?」


 突如聞こえたであろうウチの声に、二人とも目を見開いてこちらを見る。


「……!?」


「まゆりっ!!? アンタ何で、ここにいるのよ!!」




「やっぱり……嘘、だったんですね」


 震える声を何とか、抑えながら言葉を紡ぐ。


「『家族』とか言っておいて……、夜にこんなわけ分からない所で会ってるじゃないですか!」


 やっぱり。

 そうだ。

 そうだったんだ。

 二人は()()()()で……。


 きっと、新太さんのことを好きなウチを、二人で笑っていたんだ。


 そうだ。

 そうだよ。


 絶対にそうだ……!


「酷い……!

 酷いです、新太さん!!!」


「待って、来栖……! 何か勘違いをしてないか……!!?」


「そ、そうよ!! アタシ達は別に何も……」


「別に何も……!?」


 こんな時間に、こんなところで会っておいて、……別に何も……!?

 そんなわけないじゃんっ!!!!


「~~~~~~~~っ!!!!!!!」


 許さない。


 許さない許さない。



 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。



 ……もういい。

 ()()()()


 こうなったら。

 どうすれば、新太さんが()()()()()になるのか。

 それを、それだけを考えろ。


 そして。

 ほとんど瞬間的にウチの頭に浮かぶ()()


「……答えは単純、ですね」


 ―――――を、排除すればいい。


 ウチは、ポケットから()を取り出した。


「っ……!?」 


「まゆり……、何してるの……!!」


「……」


 仕方がない。

 これしか方法はない。

 これが多分……

 ウチと新太さんが幸せになるための。


「すいません、……古賀先輩。

 恨まないでくださいね」





 「―――――本気、なのね」



 転瞬。

 ウチの行動がハッタリじゃないことを理解したのか。

 ―――――古賀先輩の纏う雰囲気が変わる。

 昼間ウチ達に見せたものとは、()()()()

 それは多分、……殺気に近いもの。


「……」


 昏い瞳でウチを見据え、懐から護符を出す古賀先輩。


「ちょっ……! 京香っ!!」


「……新太、大丈夫よ。

 ―――――()に、()()()上下関係を叩き込むだけだから」



「へぇ……、言ってくれるじゃないですか。

 ウチ多分、―――――古賀先輩よりも()ですよ?」



「……やっすい挑発ね」


 ―――――それは多分、同時だった。

 爆発的に高まる、互いの霊力。

 手に握られた護符。


「二人とも、やめろって……!!」


 やってやる。

 ウチが、新太さんを取り返す。

 序列第一位とか、そんなのどうだっていい。

 ただ潰す。

 潰してウチが手に入れる。

 

 新太さんはっ、ウチのっ!!




 ウチのものなんだっ!!!!!























「―――――()()()?」









 ―――――……。

 不意の声。

 その方向。



 割れた窓の一つ。

 その窓枠に。

 ()()立っている。



 ―――――いつの間に……?

 ウチたち以外、誰もいなかったはず。


 両手をポケットに突っ込んだシルエット。

 ランタンの灯りで、その真っ黒な全身が、ぼんやりと紅く染まっている。


 そして。

 灯りが照らしているのは、体だけじゃなかった。




 ―――――()




 お祭りで見るような狐の面を、その人は着けていた。






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