第55話『ちょっとモヤモヤな地雷系』
「宮本先輩と、古賀先輩って付き合ってるんですか~?」
―――――爆弾。
お昼ご飯を一緒に食べながら談笑して、ちょっと古賀先輩への緊張がほぐれてきた頃合いのこと。
ちよちよはごくごく何気なく、会話の一環として話題に出したんだとは……思う。
でもっ!
そんないきなり確信に迫っていいの……!?
ウチも正直、めちゃくちゃ気になっていた。
―――――二人の関係性。
「……」
古賀先輩はちよちよのことを真っ直ぐに見据え、そして。
「アタシが、新太と? ……無い無い」
端正な顔立ちを歪ませ、大げさに目の前で手をブンブン振った。
「冗談でも嫌だー」
そんな否定されると、逆に怪しく思えるんだけど……。
「幼馴染」という関係性は、少女漫画では擦りに擦られてきた題材。
いつ恋愛に発展してもおかしくないような、そんな繋がりだと思うんだけど。
ジト目で古賀先輩を見ていたら、ウチの視線に気付いたのか「大体ね……」とため息をつく。
「新太とは……ほぼほぼ姉弟。
恋愛感情とか、今更そんなの湧かないって」
新太さんもそれ賛同するかのように、深く深く頷いていた。
「ほぼほぼ姉弟……?」
否定の理由としては、ほんのちょこっとだけ疑問が残った。
いくら仲がいい幼馴染だとしても、「姉弟」なんて言葉は使わないんじゃ……。
すると、新太さんと古賀先輩は互いに目くばせをし合い、頷き合うと、改めてウチへと向かい合った。
「……俺は親がいなくて、京香の家に育ててもらったんだよ」
「だから、―――――姉弟。
家族に恋愛感情なんて湧かないでしょ? アタシと新太はそういう感覚」
「……!」
……少し、面食らってしまった。
二人から返ってきた言葉は、ウチの予想の斜め上。
かなり……重めの話っぽい。
「あの……、すいません」
これは……やってしまった。
誰しも触れられたくないことの……一つや二つはあると思う。
恐らく、今語ってくれた話は、そういう類のものだったのかもしれない。
しかもそれを、新太さん本人の口で言わせてしまったことに、罪悪感が生まれる。
「……いや、いいんだ。俺も昔の事、全然覚えていないし」
「というわけで、……まゆり、だっけ?
別にアタシの事は気にしなくていいから。
新太なら、いつでも貰ってってオッケーよ」
パチコーンとウインクする古賀先輩に、「ははは……それは、どうも」と、とりあえず愛想笑いを浮かべる。
―――――……なるほど。
なんか……ウチが思った以上に、新太さんと古賀先輩には色々と深い事情がありそう。
確かに言われてみれば、二人の話す様子を見ていると、どこか家族と話している時のような……、……リラックスしている? とでも言うのかな。
よく分からないけど……どこか安心している雰囲気が出ている気がする。
古賀先輩の軽口に、諦めがちに言葉を紡ぐ新太さん。
きっと、これが二人の「普通」で、変わらない「日常」なんだ。
姉弟のような関係だから。
だから。
こんなに仲が良く見えるんだ。
何も、心配なんてすることない。
二人の関係にやましい事なんて、ない。
それなのに、ウチは。
その光景を見て。
ほんの少し、―――――胸が痛くなった。




